東南アジア諸国へのワクチン供与から見える日本の外交戦略

 日本がベトナムに新型コロナのワクチンを供与することになった。今後タイ、フィリピン、マレーシア、インドネシアにも供与を予定しているという。

 これに関して様々な意見がネット上で見受けられる。「すぐに手のひら返して日本をないがしろにする国にはワクチンを供与するな(鉄道事業において日本ではなく中国に発注したインドネシアの事を指していると思われる)」、「G7の支払い役として金ばかり出させられる」、「そもそも国力が日本に追いついている国に支援なんておかしい」、「技能実習生が日本に来られなくなるからだろう」、「ワクチンを外交手段に使うな」などがその主たる意見である。

 確かに供与対象国はどこも極貧国ではなく、国力から言えばむしろ中進国である。そして供与対象国である東南アジアは南国特有の「適当さ」が国民性であるとも言えるような人々が多いのも事実だ。「なんでこんな国を日本が支援しなきゃいけないんだ?」と思う人がいてもおかしくはないし、「ワクチンを外交に利用としている」と言われても反論は出来ないだろう。

 勿論今回ワクチンを供与することにより、東南アジア諸国に恩を売るというのも目的の1つであることは間違いないし、また特にベトナムなどはもとから反中国主義であるため、この親日に機会に抱き込んでおきたい、という意図もあるだろう。対中外交を見据えた時に、東南アジア諸国を味方につけておくことの重要性はかねてより認識されていたが、これまでアジア諸国との密な外交政策を取り始めた中国に対し、手をこまねいていた感があった日本にとって、コロナ禍は図らずも対中国政策推進の追い風となったことは事実である。

 他方で、このワクチン供与にはそれ以外の理由も存在する。日系企業支援である。日本在住者にはあまり知られていないかもしれないが、東南アジアでの日系企業の進出はここ数年かなりの勢いを増している。製造会社の工場から建設業界、服飾アパレル業界、外食産業、食料雑貨販売業界と、業界も多岐に渡る。有名所では三菱や大和ハウス、ユニクロ、すき家、丸亀製麺、イオン、伊勢丹などが東南アジア諸国に幅広く進出しており、また日本だととある地域のみにチェーンを展開する地域型企業や中小企業までもが海外支店を出すなど東南アジアに幅広く進出している。また、個人経営として現地で起業する日本人も多い。

 そういった日系企業にとって今回の新型コロナ世界拡大は軽んじれる問題ではない。現地の支店を利用する客の中には日本人の駐在員及びその家族も多く含まれており、コロナ禍で出張や会食が激減した今、現地の日系企業は大いなる苦戦を強いられているところも少なくない。また場所によっては現地がロックダウン状態となり、工場が稼働できない、現地従業員が出勤できない、現地の顧客も来店出来ない状態になっている地域もある。特に「適当な」国民性を持つ国で、日本人や先進国並みの接客や企業管理が出来る人材は少ない。国によっては飲食業界などは日本人が管理していないと味が変わってしまうという話も聞く。そうなるとどうしても数名は日本人を常駐させるか定期的に派遣し、運営マネジメントを管理しておく必要があるが、今のコロナ禍においては移動や出張が大幅に制限されており、企業の運営において大きな足かせとなっているのも事実である。

 そういった日系企業を支援するためにも、なるべく早く新型コロナの感染を抑え、少しでも経済活動を再稼働させることが必要となってきている。海外支援と聞くと「外より国内を何とかしろ」、「海外に支援している場合ではない」、「こんな時期に海外との移動をするな」という批判も少なからず見受けるが、そもそも日本は今鎖国など出来るほど国内の経済力をもはや持ち合わせてはいない。海外での日系企業の活動が制限されることは国内経済にも打撃を与えるほどに、東南アジアとは相互依存関係にある事を理解しなければならないだろう。そして、外交に利用していると言われようが、日系企業及びそこで働く日本人従業員のためにもワクチン供与を通して対外経済活動を再開させる事が日本政府の狙いでもあると思われる。

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