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100万部突破作家のおおみね先生と、『食糧人類』編集者の村松が、1年半の縦読み漫画挑戦を振り返り!『頂点捕食者〜地球最弱の俺が宇宙最強〜』LINEマンガで絶賛配信中!

コンテンツスタジオ「STUDIO ZOON」オリジナル作品『頂点捕食者〜地球最弱の俺が宇宙最強〜』がLINEマンガで公開されたことを記念し、スペース 第8回を配信いたしました!
今回は『失業賢者の成り上がり ~嫌われた才能は世界最強でした~』(集英社)の作画でも知られる おおみね先生をお招きし、編集を担当した「STUDIO ZOON」編集長・村松との対談内容をお届けします。
『頂点捕食者〜地球最弱の俺が宇宙最強〜』がつくられる過程で語られる、縦読み漫画をつくる面白さ、ひらめき、発見、そして何度も襲われた苦難……。
初めて挑む縦読み漫画づくりには、どのような光と陰があったのでしょうか。
進行役は『頂点捕食者〜地球最弱の俺が宇宙最強〜』がつくられる1年半の道のりを同じ編集部内で垣間見てきた「STUDIO ZOON」編集者の竹内が務めます。
ぜひLINEマンガで『頂点捕食者〜地球最弱の俺が宇宙最強〜』を開きながら、おおみね先生と村松の対談をお楽しみください。

▶︎▶︎▶︎『頂点捕食者〜地球最弱の俺が宇宙最強〜』あらすじ ◀︎◀︎◀︎
地球最弱の俺がチート能力で宇宙最強に——!?地球外生命体(イーバ)の襲来で人類みなが能力覚醒している中、唯一能力がない主人公・グイ。イーバに喰われ絶命した途端、チートレベルのある能力が発動して…。超期待の現代バトルファンタジー!

\スペースはこちらからいつでもご視聴いただけます/
https://x.com/zoon_studio/status/1805919202596831322

\第1~7回の配信の内容はこちらにまとまっています/
第1回:https://note.com/studiozoon/n/n6913ec34b8ca
第2回:https://note.com/studiozoon/n/nca38225763a4
第3回:https://note.com/studiozoon/n/n048b2775f489
第4回:https://note.com/studiozoon/n/n3f16c5d7d375
第5回:https://note.com/studiozoon/n/n1440a197166a
第6回:https://note.com/studiozoon/n/n501cc773afeb
第7回:https://note.com/studiozoon/n/n3da71df44301


1 縦読み漫画をつくるに至ったきっかけ

竹内 今回は、本日6月26日からLINEマンガさんで「STUDIO ZOON」オリジナル作品『頂点捕食者〜地球最弱の俺が宇宙最強〜』が配信されたことを記念して、スペース 第8回をお届けします。
今日は作者である おおみねさんと、編集を担当された「STUDIO ZOON」編集長 村松さんをお招きして作品についていろいろとお話ししていただこうと思います。
進行役は「STUDIO ZOON」編集者の竹内が務めます。それではよろしくお願いします。

おおみね&村松 よろしくお願いします。

竹内 ついにLINEマンガで配信が始まりましたが、公開されるまでに1年半も費やしたんですよね。長かったですね。

村松 縦読み漫画はどうしても準備期間がかかりますからね。

竹内 『頂点捕食者〜地球最弱の俺が宇宙最強〜』は「STUDIO ZOON」としても力を入れている作品ですが、本日から配信されたとのことで周りの方から反応はありましたか?

村松 編集部はめっちゃありました。

おおみね 僕の子どもに見せたら読んでくれて「かっこいい」と言っていました。

竹内 作品のストーリーや着彩など、何度も話し合いながら進めているな、と同じ編集部内で見ていたので、配信がスタートされてわたしもすごくうれしいです。

村松 おおみねさんに鍛えていただきました。

おおみね いろいろと細かな調整をしていただいてありがとうございます。

竹内 実は、おおみねさんと話すのが今日が初めてなので緊張しているんですけど(笑)。
おおみねさんはこれまでもずっと横読み漫画でご活躍されていましたよね。

おおみね そうですね、横読み漫画出身です。いまも横読み漫画を描いています。

竹内 『失業賢者の成り上がり ~嫌われた才能は世界最強でした~』の作画をされていたんですよね。横読み漫画から縦読み漫画に興味を持ち始めたのは、どのタイミングからだったんですか?

おおみね 2〜3年前に「次は縦読み漫画が来るぞ!」って業界がすごく盛り上がった時期があったんです。そのときに「あ、すごい、来るんだ!」と思いまして。
実際にLINEマンガで『喧嘩独学』(集英社)を読者の視点で読んでみたら、めちゃくちゃ面白かった。
それがきっかけで僕も縦読み漫画をつくりたいなと思って、自分で研究し始めました。

竹内 興味を持ち始めたころに「STUDIO ZOON」で縦読み漫画をつくろうとしている話を聞いて、挑戦すると決めたのでしょうか?

おおみね 1年半くらい前、村松さんが「20年間勤めた講談社を退職しました。」という退職エントリがnoteで公開されてバズっていたんですよね。
僕もそのnoteを読んでみたら、村松さんが立ち上げられた「コミックDAYS」というアプリで毎週楽しみに読んでいた『平和の国の島崎へ』『上京生活録イチジョウ』『1日外出録ハンチョウ』『定額制夫のこづかい万歳 月額2万千円の金欠ライフ』などのマンガ作品は、ぜんぶ村松さんが編集を担当されていたことを知ったんです。
「その村松さんが、いまこのタイミングで縦読み漫画をやるんだったら一緒に組んでもらえるかもしれない」と思って、村松さんに直接メールを送らせてもらったんです。
最初は僕が村松さんの担当作品のファンだったので、一緒に縦読み漫画をつくらせてもらえないかとお願いしたことが始まりですね。

村松 僕が2023年1月にサイバーエージェントに入社したのですが、1月のかなり早いタイミングで僕のGmail宛にご連絡いただきました。

おおみね 1月前半くらいでしたね。
夜の11時くらいにメールを送ったら、翌日の9時半に返信が来ていて「めっちゃ早い」と思いました(笑)。
編集者さんって夜型のイメージがあったんですけど、村松さんが朝方だったことにめちゃくちゃ驚いたのを覚えています。朝方の編集者さんっているんだ、って。

村松 講談社にいたころは僕も夜型だったんですよ。
でも、サイバーエージェントは基本的に朝10時から夜19時が定時なので、僕もそういうサイクルで仕事しないとなと思ったんです。転職で強制的に朝方に切り替わりました。

2 横読み漫画の常識がまったく通じない!?

竹内 おおみねさんは横読み漫画でご活躍されていましたが、縦読み漫画を始めたときにどのような違いを感じられましたか?

おおみね 縦読み漫画は横幅が短いので、最初はすごく窮屈に感じました。
1話をつくっていたとき、あまりにも窮屈で余白がないので、余白を無理矢理つくるための特殊なテンプレを自分で開発して描いていたんです。
枠線を引いた特殊なテンプレをわざわざつくって描いていたくらい窮屈に感じていました。テンプレは、実際のスマホ画面の枠よりも左右にちょっと余白ができるように、横幅を普通よりも大きめでつくっていました。

竹内 縦読み漫画だと横幅が短いから、顔のアップを描こうとすると顔がギチギチに詰まってしまいますよね。

おおみね 横読み漫画だとちょっと外にはみ出して描く表現ができるんですけど、それができないのがすごく窮屈でした。
横幅に合わせると顔が縦に伸びていくこともあるので、そういうのを防ぐためにやっていたのですが、途中から慣れるとそのテンプレート自体を使うのがめちゃくちゃめんどくさくなって。
いまは普通の横幅を余白なしで描けるようになりました。

竹内 横読み漫画と比べると、縦読み漫画は縦幅の使い方が変わるので、縦の長さの話になるのかなと思いましたが、横幅だったんですね。

おおみね 横幅ですね。縦は無限に伸ばせるのが縦読み漫画の特徴だと思うので、縦はむしろ自由。自由すぎるかもしれません。

村松 いま話を聞いて気になったのが、おおみねさんはいまも縦読み漫画の窮屈さは感じますか?

おおみね 全然なくなりましたね。はじめて数ヶ月したら縦には慣れました。
強いて言えば、横読み漫画では使えるような横長のコマの構図があまり使えない、という制限を感じるくらいです。

村松 さっきも話に出ましたけど、僕ら「STUDIO ZOON」編集部はおおみねさんに育てられたところがあって。
おおみねさんが最初に問題に気づいて指摘してくれるんですよ。
たとえば、おおみねさんが2回くらい「横読み漫画の考え方をアンラーニングしないと」とおっしゃったことがあって。
ネームの書き方と絵の入れ方は、縦読み漫画は横読み漫画の常識とちょっと違う。
僕もおおみねさんも横読み漫画のことを知ってしまっている部分もあるので、横読み漫画の常識をそのまま縦読み漫画で活かそうとすると「あれ? なんか違うぞ」といった違和感が生まれるんです。
あるとき、僕らがネームに対して「もっとこうできないですかね」「ああできないですかね」と投げかけたら、おおみねさんが悩んだ末に「週末考えます」と言って週明け月曜日の午前中の打ち合わせに「考え方が180度変わりました」と悟りを開いて現れたんです(笑)。
まるで「精神と時の部屋」から出てきた悟空のような状態でした。

おおみね (笑)

竹内 『頂点捕食者〜地球最弱の俺が宇宙最強〜』のなかで、そういうやりとりは何話くらいでされたんですか?
おおみねさんの悟りが、どういうふうに作品に反映されているのかなと気になりました。

村松 話数はすぐにわからないんですけど、違いのポイントとして1つあるのが、初期のほうはロングの絵が少し多めなんですよね。
横読み漫画に慣れているほうからすると、最初は「縦読み漫画ってアップすぎて読みづらいんじゃない?」という感覚があって。
でも「横読み漫画っぽく描くとなんか迫力が薄い」という意見もあって、途中でアップが多くてもガンガン読めるわ、と変わったところがある。
それで途中から割とガンガンと、大胆な絵の入れ方をするようになりましたね。

おおみね 横読み漫画だとキャラの位置関係を入れるのは鉄則。でも縦読み漫画の場合は、案外なくても読者が混乱しないことに気づきました
横読み漫画ではキャラの位置関係がわからなかったら混乱して先に進めないこともあるんですけど、縦読み漫画ではそんなに位置関係にこだわらなくても大丈夫だとわかりました。

竹内 いま、1話と16話を見比べてみましたが、絵の入れ方がぜんぜん違いますね。
通しで読んだときは流れで気づかなかったけど、改めて1話と16話を比べてみると「縦読み漫画っぽくなっているな」と感じますね。

おおみね 縦読み漫画は没入感がすごいので、活かしていきたいなという話はありましたね。

村松 さっきの話の続きですが「横幅が描きづらい」という縦読み漫画のデメリットは、逆にいえば全部見せゴマにできると捉えられます。
横読み漫画だと「全ページ2コマで全部アップでも大丈夫」という感覚に近い。
普通、横読み漫画では1ページに5~6コマくらい入っていて、アップとロングをうまいこと使って状況を伝えつつ、さらにテンポもつくりながら進めるんですけど、縦読み漫画は2コマくらいの大ゴマだけで構成しても読めるんですよね。

竹内 リスナーのみなさんも実際に1話と最新の16話を見比べていただくと、違いがわかりやすいと思います。

3 着彩する意味はどこにある?

竹内 横読み漫画だとできないけど、縦読み漫画だと表現できることは他にもありますか?

おおみね 縦読み漫画は、縦に長い見せゴマをつくれるというのはわかりやすいとは思うんですけど、そこはあまり本質じゃなさそうだなと思っていて。
やっぱり、着彩ですかね。色で差別化ができるのが大きな特徴だと思います。
たとえば、1話でも登場する怪獣に光のラインが入ってるんですけど、こういうのは横読み漫画のモノクロだとあんまり差別化できないところ。
1話にはピンクの筋が入っているクモみたいなエイリアンがいるんですけど、ピンクの筋は縦読みのカラーだからこそ効きますが、これを横読みでやってもそこまでインパクトはないだろうなとは思います。

竹内 たしかに、RGBカラーを使えるのは縦読み漫画の特徴ですね。

村松 いま「RGBカラー」と聞いて、出版マンガにまつわる記憶が蘇ったんですけど(笑)。
作家さんがRGBカラーで描いた作品を、印刷物でCMYKにしなくちゃいけないことがあったんです。もともと「RGBカラーは使わないでね」と伝えていたんですけど「でもこの色味のイラストにしてほしい!」という話の流れになって。
むりくりCMYKカラーで色を調整してもらって、指定の色に近づけたのを思い出しました。

おおみね 印刷すると色が沈んじゃいますからね。その点、縦読み漫画の着彩では彩度の高い色を出せますよね。
『頂点捕食者~地球最弱の俺が宇宙最強~』では、主人公の髪の毛に青色が部分的に差しているんですけど、こういう細かい着彩ができるのは縦読み漫画独特の表現だと思います。

竹内 8話を見てみると、主人公のグイが校長に切られて最強種に身体を飲み込まれそうになるシーンも青がすごく映えていますね。
これを横読み漫画でやると、だいぶ印象が変わりそうですね。

おおみね そうですよね。主人公のグイは青色のオーラを発しているんですけど、主人公の色は青色と決まっているので、他のキャラに青色は使わないと決めています。
カラーによってキャラの差別化をはかれるのは大きいかもしれないですね。

竹内 『頂点捕食者~地球最弱の俺が宇宙最強~』だと、おおみねさんは線画のところまで担当されて、着彩は「STUDIO ZOON」が仕上げていますが、カラーを指定するときはどういうところに気を使われているんですか?

おおみね カラーを指定するときは「このキャラは青色なので、次に敵が出てきた場合は青以外の色でお願いします」という感じで依頼しています。
8話でいうと、校長先生の色は「主人公に対抗するキャラだから、黄色か赤のどちらかでお願いします」「青色にぶつかる色なので寒色は避けてください」と指定しました。

4 「なんか違う」を追究するコミュニケーションの重要性

竹内 縦読みをつくるとき、特にここは気をつけたなというポイントはありますか?
たとえば着彩のことを考えなければいけないとか、横読み漫画と比べると気をつけるポイントがまた違うのかなと思うのですが……。

おおみね 色も関連する話ですが、情報量が非常に多い縦読み漫画で一番大事なのが、余白部分。
コマとコマの間を適正に空けないと、情報量が多すぎて読むのがつらくなるなと思っていて。線画ができあがった際も、コマとコマの間を調整しまくります。
縦の長さが詰まりすぎていたら空けるようにしていますし、コマとコマの間がすごく大事な気がしますね。

村松 普通の横読み漫画だと、コマの大小でリズムをつくるじゃないですか。縦読み漫画の場合は、吹き出しの配置やコマの余白をうまく使ってリズムをだしていくんです。
最初のほうの打ち合わせでは、ふたりともネームの感覚をつかむまで「この吹き出しは右下に1.5cm下げて」というように、かなり細かく調整していましたよね。

おおみね 「一画面にこの上下の吹き出しがちゃんと入るような場所におきましょう」という話もしましたね。

竹内 それは1〜3話あたりで話し合っていたんですか?

おおみね 最初の話では、そういう話し合いは多かったと思います。

村松 2話くらいまではそのくらい細かくつくっていましたね。それ以降は、なんとなくネームの作り方の感覚もわかってきたので細かい指摘はどんどん減っていきました。
正直、ネームではそこまで苦戦しませんでした。マンガ編集の立場で言うと、ネームが完成したらマンガ編集の仕事は8割くらい終わっているんですよね。
それなのに「よっしゃー!ネームができた!これでいける!」と一息ついたと思ったら、そのあとの着彩の工程で死ぬ、みたいな(笑)。
最初はこちらも着彩をぜんぜんわかっていなかったので、おおみねさんにはめちゃくちゃ付き合ってもらって、七転八倒しながら感覚をつかんでいきました。

おおみね やっぱり縦読み漫画は、着彩で作品の印象が何倍にも変わりますよね。

竹内 『頂点捕食者~地球最弱の俺が宇宙最強~』は何度も試行錯誤しながらつくられていたなとは思うのですが「この着彩よかったな」というシーンはありますか?

おおみね 回を追うごとに、すごく良くなっています。
現時点で20数話つくっているんですけど「うわー!」って毎回驚くような着彩を仕上げていただいていて、感動しているんですよね。

竹内 個人的に「この着彩すごくいいな」と思ったのは、第7話。
入っていって、グイの底で最強種に出会って襲われて、目を覚まして、能力解除してすっごく焦燥した表情で頭を抱えたセンリちゃんが「私生きてる?」と言うシーン。
センリちゃんの周りを白くぼやかす表現が、キャラクターの感情とすごく合っているなと思っていて。
この着彩を見たときにキャラクターの感情に沿って塗られているなと感じました。

おおみね ぼかし表現は縦読み漫画の特徴ではありますよね。動きも出せますし。

村松 いま記憶が蘇ったんですけど、センリちゃんがパッと目が覚めて「私生きてる?」って言うシーンの背景は真っ白にぼやけていますよね。
実はこのシーン、最初はもっと違う仕上がりだったんです。

おおみね たしかそうですね。

村松 ここはファンタジックな体験みたいなところからパッと目覚めて現実に戻ってきたシーンなので「蛍光灯の真下にいるような白々しさがほしい」という話になって。
蛍光灯の真下で写真を撮ると、白々しくなってピントが甘くなるじゃないですか。
「あの、現実に戻ってきたという感じがほしいですね」といった話し合いから、真っ白にぼやけた背景になったんですよね。

竹内 「最初はもっと違う仕上がり」とのことですが「違う」というのはどういう感覚だったんですか?

村松 いくつかあると思うんですけど、1つは注目させたいポイントと着彩のポイントがずれていること。
たとえば「手に持っているものがすごく重要なアイテムだから、そのときの主人公の表情はどうでもいい」という場合、主人公の顔は影になって隠れていて、手元は明るくなってるような着彩にしてほしいですよね。
でも、うまくコミュニケーションできていないと「主人公の顔だから表情を明るくしないとね」と担当者が思い込んだままになって、結果的にコマの意図がぼやけてしまう。
そういうコミュニケーションミスはたくさんありました。

おおみね 僕はテキストデータで着彩の指示を入れるんですけど「この話のテーマはバトルがカッコよく見えればそれでいい話です」とか「1話単位でのテーマが伝わって、さらに読者さんにかっこいいと思ってもらえればOKです」といったように、まずは大枠のテーマをお伝えするんです。
それから各データに【着彩指定】というフォルダをつくって「このコマの意図は動きがポイントになります」とか、1コマずつ自分が大事にしているところはテキストや資料を貼って着彩をお願いしました。
着彩は、横読み漫画と一番違うところだと思います。

竹内 最終的に読者が読むのは着彩を含めての作品なので、そういったところも込みで考えなきゃいけないですね。

おおみね そうですね。キャラクターデザインは着彩した時点で「映える絵になるか」を想定しないといけないかな。

5 思わぬところにあった「着彩」の落とし穴

竹内 着彩で「この話は苦戦した」「感動したな」というシーンはありますか?

村松 苦戦といったら、1話目ですよね。

おおみね 戦略的に進めたのを覚えています。
1話は一般読者が多く見てくれる可能性が高い話なので、実は着彩は4話からスタートしたんです。線画も描けば描くほどよくなるので、4話からスタートして 4 → 3 → 2 → 1という書き方をしたんですよね。
ある程度描き慣れてベストの状態になったときに1話がくる、という順番でつくりました。

竹内 なるほど。1話から順々につくるのではなく4話からスタートしたんですね。それは戦略的ですね。

おおみね 慣れるまでが大変なので。

村松 でも戦略的につくったからスムーズに進んだのかというと、そうでもなくて……(笑)。

おおみね (笑)

村松 まず最初に進めた4話目で全員がオッケーを出すまでにもいろいろな苦労があって。
不思議なもので、編集も作家も着彩のスタッフも含めてみんなで「この塗り方だ」「このやり方だ」「これが重要なんだ」というポイントを共有できて「よっしゃ、じゃあこの勢いのまま3話いこう!」と幸先が明るいかと思ったら「違う!」みたいな(笑)。

おおみね (笑)

村松 そういう不思議なことが、最初の5話くらいまでは毎回ある状況でしたね。

おおみね 着彩の方向性が合致するまでにも時間がかかりましたね。
村松さんを筆頭にアートディレクターさんや20代の才能ある編集者さんが担当してくださっているんですけど、全員で「着彩どうしようか」という話をしたんです。
そのなかで、僕の感覚とアートディレクターさんの「塗り方」への感覚が180度違うという事実がわかって。
僕は白い背景でもよかったんですけど、アートディレクターさんは背景をガッツリ入れたほうがいいと思っていたんですよね。「お互いの考え方が違うんだね」とわかったとき、着彩の方向性が合致しはじめた感覚がありました。

村松 そのときが、おおみねさんの2度目の「精神と時の部屋」でしたね。
週末を経ておおみねさんが生まれ変わって月曜日に帰ってくる、というのが2回ぐらいあったんですけど、2回目がたしかそのとき(笑)。
本当にすごかったんですよ。僕はすごく感心しました。
白黒の横読み漫画って、背景が抜けているコマがすごく重要なんですよね。全部のコマに背景が入っていると、かなりうるさくなっちゃうので「抜く」ことが大切。
たとえば、場面転換のときは「こういう街ですよ」とわかりやすいように大きな絵で緻密な背景を一回描いて、あとは背景を抜いて余白をつくると読みやすくなる。
キャラクターが心情を吐露しているシーンだとしたら、むしろ背景をなくしてキャラクターだけにしたほうが、すごく印象的になるんです。
だから白く抜くのが大事なんですよね。
「横読み漫画のテンポだとここは抜く、ここはあまり色を入れない」というおおみねさんのイメージは、アートディレクター側からすると「空いているところはちゃんと埋めないといけない」といった考えだったんですよね。

竹内 ちなみに、そのやりとりは何話あたりでされてたんですか?

おおみね 8〜9話くらいじゃないでしょうか。
そこまでは1話ずつ試行を重ねてアジャストしてきたんですけど、このあたりでそもそも方向性と考え方が違うことにやっと気づきました。

竹内 9話でいうと、ちょうど校長先生が登場するあたりでしょうか。

おおみね そうですね。ここまでは横読み漫画風で描いていました。
背景にはしっかり柱がある大空間みたいなものを描いてはいるんですけど、話を聞いてみると、そのアートディレクターさんの考え方は、マンガ的というよりアニメ的だったんです。
アニメは基本的に背景が全部入っていますよね。
でも僕はマンガ的な考えだから、空間的な抜きがほしかったので白色をよく入れていたのですが、アートディレクターさんはそれが空白だと思っていて。
その空白を埋めるために、アートディレクターさんが他のところから自分で背景をコピーして入れていて、すごく苦労されていたのが話し合いでやっとわかりました。

竹内 たとえばどんなコマですか?

おおみね 8話で校長先生が前半で大技を放って「すごい、これでエレメントで剣を強化して放つ校長の剣戟」と言うセンリの台詞があるんですけど、ここは横読み漫画だと、背景を入れないくらいのシーン。「流線」というスピード線だけで終わらせるところなんですけど、うっすらとぼんやり背景が入っているんです。
このシーンの背景は、アートディレクターさんがどこからかコピーしてちょっと背景をぼかして入れてくれました。
そうじゃないと間がもたないという判断だったと思います。

竹内 最終的に、おおみねさん自身は「縦読み漫画だと背景は入っていたほうがいい」という結論になったんですか?

おおみね それは流派によるなと思っていまして。背景が入っていない縦読み漫画もあるんですよね。
そこはイメージを共有してカラーを入れるんですけど、それをやっていくとアートディレクターさんの裁量権がすごく大きくなって、大変な思いをさせてしまうんです。
それがわかってから『頂点捕食者~地球最弱の俺が宇宙最強~』では、背景を全部入れることになりました。
9話からは背景が大体入っていると思います。

竹内 縦読み漫画は、つくり始めてからわかってくることもすごく多いですよね。
おおみねさんは「STUDIO ZOON」が走り始めた最初の段階から一緒に並走されているので、ひとつひとつ考えながら進めてきたんだなと感じます。

村松 僕ら自身がそうでしたからね。
『頂点捕食者~地球最弱の俺が宇宙最強~』は、たぶん「STUDIO ZOON」の着彩でもかなり最初期だったと思う。
こちらも着彩のディレクションは初体験だったんですけど、最初の自分の言動を思い出すと地雷原で踊っているくらい危うい。
ネームをつくるところまでは、横読み漫画で死ぬほどやってきたわけです。
いままでの経験を活かせるので、ネームでは対応としてそんなにまずいことはなかったのに、着彩の工程に入った瞬間に地雷原で踊り始める、みたいな……(笑)。
あとから考えると、ヤバいことをやりすぎている。

おおみね いま思い返すと面白かったですね(笑)。
村松さんは最初から「僕たちはいま、超高速でチームをつくっているところなんです」とおっしゃられていて。
ひとつのチームができあがって、それがどう経過して変化していくのかは、最初の段階から見せていただきました。
ものすごいスピードで変化していくみなさんを間近で見てすごく勉強になりましたし、励みにもなりました。

村松 僕もこの1年半の間に、10年分くらい生きた感覚があります。
たぶん、いまの精神年齢は55歳くらいになっているんですけど(笑)。「もうお腹いっぱい!」ってくらい経験させてもらいました。

おおみね 縦読み漫画って、コミュニケーション量がものすごく多いですよね。

村松 作家さんの意図を受け取って、作品づくりに関わる人たちにしっかり渡していかなきゃいけないじゃないですか。
原作の方もいる作品となれば、横読み漫画よりも1〜2つはコミュニケーションが多くなる。
横読み漫画だと1対1のコミュニケーションで済むところが、たとえば3人のコミュニケーションをずーっとつないでいくイメージです。
意図を持った作品にするとなると、やっぱりコミュニケーションの量はすごく増えますよね。

竹内 関わる人がすごく多いから「ネームを越えたら次は着彩だ!」みたいに、一山越えたらもう一山という感覚はありますね。

6 『頂点捕食者~地球最弱の俺が宇宙最強~』は、まさに日本発の縦読み漫画

竹内 縦読み漫画と横読み漫画を比べると「つくれる話」という点での違いもあるのかなと思っていて。
フルカラーでつくる縦読み漫画でのストーリーテリングはどう工夫されていますか?

おおみね ストーリーテリングはあまり意識していませんでした。
僕は縦読み漫画も、横読み漫画のテンポで描いているので『頂点捕食者~地球最弱の俺が宇宙最強~』は話が進むスピードがすごく速いと思います。
他の縦読み漫画よりもだいぶサクサク進むような気がしています。でも、テンポの速さは作品によるかもしれません。

竹内 これまでつくってきた横読み漫画のイメージと変わらないということですね。

おおみね 僕の場合、横読み漫画は作画なので脚本は担当していません。
ただ、いま連載している『失業賢者の成り上がり ~嫌われた才能は世界最強でした~』は、ページ数で言うと11〜13ページくらいで『頂点捕食者~地球最弱の俺が宇宙最強~』は60コマ。ページ数に換算すると、大体同じ尺の長さがあるんです。
「山を入れて次週への引きをつくる」という感覚で考えると、ほとんど一緒。しっかりと引きをつくらないと、話として成り立たないので。

竹内 話をつくるときの考え方のベースは、それほど大きくは変わらないということですね。

おおみね そうですね。もしかしたら僕自身が身につけたリズム感を縦読み漫画の『頂点捕食者~地球最弱の俺が宇宙最強~』にそのまま応用してしまっているかもしません。

竹内 村松さんはストーリーテリングで違いを感じることはありますか?

村松 縦読み漫画でも表現はいくらでも工夫できるので、表現という意味ではどうとでもできるんですよね。
たしかに、縦読み漫画は横幅が狭いので「一方その頃……」とか、同時並行的に何かが起こっていることを伝えたい場合はちょっと表現しづらいところはある。
たとえば、手前でキャラクターAが何か言っているのに対して、後ろの背景でキャラクターBがそこに突っ込んでいる、さらにその後ろではキャラクターCが別のところを向いている、といった同時並行は若干やりづらいと思います。
でも、やりたい表現があるなら、工夫すればなんでもできるんです。
違いを一番感じるのは話の作り方というよりも、作品を読む側の「お客さん」ですね。そこが大きいんじゃないかな。

竹内 「お客さん」というポイントから考えると『頂点捕食者~地球最弱の俺が宇宙最強~』は、横読み漫画は読むけど縦読み漫画はあまり読まない方も、もとから縦読み漫画をずっと読んでいた方も、どんな立場でもちゃんと楽しんで読めるような作品ですよね。

村松 それができるといいですよね。日本発の縦読み漫画という感じがします。
韓国の縦読み漫画って、また独特な違いがあるじゃないですか。それはそれで面白いのですが、せっかくの日本発だったら横読み漫画のよさもあるといいですよね。

竹内 『頂点捕食者~地球最弱の俺が宇宙最強~』を読みながら、横読み漫画のよさが出ているなとすごく感じていました。

エンディング

竹内 おおみねさんは今回初めてスペース配信で対談をされましたが、いかがでしたか?

おおみね これまでの1年半を思い出せて面白かったです。

竹内 いま公開されている16話の中だけでも、いろいろな歴史が感じられてこれから読み直すのが楽しみになりました。

村松 「STUDIO ZOON」がたどってきた、この1年半はNHKの朝ドラにできるくらいの密度です(笑)。
『頂点捕食者~地球最弱の俺が宇宙最強~』は、お互いゼロから発見しながら、そして縦読み漫画のことも理解していきながら「STUDIO ZOON」というスタジオも成長していったような感覚があります。
すごくありがたいことですし、いま振り返っても面白かったなと思いますね。

おおみね ひとつ、村松さんの特徴的な話があって。
『頂点捕食者~地球最弱の俺が宇宙最強~』をつくる中でいろいろあったので、村松さんに「そろそろ僕、辛くなってきました。ちょっと辞めたい気持ちです」とお伝えしたんです。
そしたら村松さんから「別のところに行かれてもいいと思いますが『頂点捕食者~地球最弱の俺が宇宙最強~』と、おおみねさんの魅力を引き出せるのは僕とSTUDIO ZOONです」という返答がきたんです。
「めっちゃかっこいい、この人!」って、驚きましたね。

竹内 おお〜!

村松 完全に忘れてました。追い詰められすぎて普段は出ない言葉が出ているという感じですね……。

全員 (笑)

村松 ただ、8合目まで登ってきている感覚はあったんですよ。8合目に登るまでにボロボロになってはいるんですけど……。
でも残り2合だし、せっかく8合目まで登ったのに下山するのはもったいないじゃないですか。「高山病がキツくて降りたいです」と言われたとしても「あと2合なので……」と引き止めたい気持ちが強かったんです。
ここまで起きたことは、僕と「STUDIO ZOON」のスタッフたちがずっと至近距離で見て体験してきたからこそ、一緒に山を登り切りたかった。

竹内 さまざまなことを乗り越えて、ついにLINEマンガで公開されたんですね。
新着の「少年・青年ランキング」ではなんと1位にランクインもしているので、リスナーのみなさんにも読んでいただいて、感想などのコメントや「いいね!」もいただけたらうれしいです。
最後にリスナーの方や『頂点捕食者~地球最弱の俺が宇宙最強~』を読んだ方に、おおみねさんと村松さんから一言あればよろしくお願いします。

おおみね この1年半、村松さんの話にあったようにズタボロになりながらつくってきたので、ぜひ読んでみてほしいです。
縦読み漫画らしさでいえば、13話がおすすめです。
縦読み漫画ならではのダイナミックさや着彩など、1番いい表現になっている気がするので、13話だけでも見てもらえたらうれしいです。
縦読み漫画をあまり読んだことがない人からすると「これが縦読み漫画なんだ」というのを知ってもらえるかもしれません。
没入感も感じてもらえるような話になってるかなと思います。

村松 さっきもおおみねさんがおっしゃってましたけど、回を追うごとに面白くなっていきます。クオリティもどんどん上がってきているので、ぜひ引き続き読んでいただければと思います。

竹内 1話と最新の16話を比べてみたんですけど、それだけでもすごくいろんなことを乗り越えてこの進化があったんだろうなと思いました。
作品としての進化も、ぜひ体感していただけるとうれしいなと思います。

この記事で興味を持った方は、ぜひ一度こちらをチェックしてみてください。
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