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「プロになるために大事なのは●●ではなく●●!」STUDIO ZOON 編集長 × マンガ家・ヨシアキ対談スペース

クエリエイターの採用を進めるべく開始したコンテンツスタジオ「STUDIO ZOON」のスペース第5回を配信いたしました!
今回は初のゲストとして、『殺し屋は今日もBBAを殺せない。』(小学館)や、『雷雷雷』(小学館)の作者で知られる、ヨシアキ先生をお招きいたしました。
お話を聞くのは、マンガ家&編集者と2足の草鞋を履く「STUDIO ZOON」第一編集部 編集長、鍛治。
作家同士ならではの作品づくりの喜び、苦労、葛藤を分かち合いながら、作品の裏話やヨシアキ先生からみる「Webtoon」について伺いました。

\スペースはこちらからいつでもご視聴いただけます/

\第1~4回の配信の内容はこちらにまとまっています/
第1回:https://note.com/studiozoon/n/n6913ec34b8ca
第2回:https://note.com/studiozoon/n/nca38225763a4
第3回:https://note.com/studiozoon/n/n048b2775f489
第4回:https://note.com/studiozoon/n/n3f16c5d7d375


1 描きたいものと、描けるものは違う

鍛治 みなさん、こんばんは。本日はSTUDIO ZOONのスペース 第5回をお届けします。いつもは僕を含めて、村松と萩原と、STUDIO ZOONの編集長同士で話をしてきましたが、今回はちょっと一味変えて現役バリバリの作家さんをゲストにお招きしてお話ししたいと思います。今回のゲストは、現在小学館さんの「マンガワン」で『雷雷雷』を連載中のヨシアキさんです。

ヨシアキ どうも、はじめまして。ヨシアキです。

鍛治 せっかくなので、いままで描いたマンガ作品についてお話ししてもらえるとうれしいです。

ヨシアキ 最初はマンガ雑誌アプリ「マンガボックス」で『蝕人孤蟲』(講談社)というサスペンスマンガを2巻まで刊行して、そのあとは「マンガワン」で『殺し屋は今日もBBAを殺せない。』を連載しました。

鍛治 『殺し屋は今日もBBAを殺せない。』というタイトルを初めて聞いたときは衝撃的でした(笑)。

ヨシアキ 僕もいまだに「このタイトルでいいのかな」と思っています(笑)。『殺し屋は今日もBBAを殺せない。』は5巻で完結して、いまは「マンガワン」で『雷雷雷』という作品を連載しはじめたばかりです。

鍛治 僕もマンガ家として「マンガワン」で作品を描いていたんです。僕とヨシアキさんが出会った経緯にもつながりますが、「マンガワン」での掲載時期はかぶっているけど、そのときはお互い知り合っていないんですよね。『殺し屋は今日もBBAを殺せない。』は、いつから描きはじめたんですか?

ヨシアキ 2020年じゃなかったかな。

鍛治 じゃあ、多少は被っているんですね。僕は『殺し屋は今日もBBAを殺せない。』を読者として楽しんでいたのですが、自分の作品の連載が終わったとき、ちょうどXでヨシアキさんのアカウントを見つけたんです。「あ!『殺し屋は今日もBBAを殺せない。』を描いている人だ!」って。僕は人たらしだから、すぐに「作品読んでます。めっちゃ好きです」っていうDMを送ったんですよね(笑)。

ヨシアキ いきなり「飯どうですか?」と連絡がきたので、最初は「なんなんだ?」って思いました(笑)。

鍛治 すぐ食事に誘っちゃうのは僕のいいところでもあり、悪いところでもあるんだよね(笑)。ちょっと話が逸れちゃいましたが、今日はいろいろ話したいと思っているので、トークテーマをいくつか用意してきたんです。まず、初めての担当がついてからの作家歴は何年目ですか?

ヨシアキ 9年目なんですけど、気持ち的には新人なんですよ(笑)。

鍛治 (笑)。マンガ家を9年も続けて、さらに第一線で作品を連載しているのを考えると、ちゃんとマンガ一本で食べているプロだと思うのですが。そんななかで、編集者とはどのように付き合っているのかをお聞きしたいです。僕はSTUDIO ZOONで編集者を務めていて、初めて作家さんと向き合う側になっているんです。ヨシアキ先生は編集者との付き合い方で気をつけていることはありますか?

ヨシアキ 仕事仲間として、リスペクトの気持ちはもっています。作品づくりではお互いにリスペクトしないとダメだと思う

鍛治 そうですよね。前回のSTUDIO ZOON スペースでは、第2編集部 編集長の村松とちょうどそういう話をしたんです。逆に、編集者と一緒に作品をつくっていて、カチンとくるようなこともありますか?

ヨシアキ 過去の話ですが、初めて連載作品をもったとき、連載中に原稿を失くされました。バイク便でやりとりをしていたのですが、編集者から「一枚足りないですよ!」とすぐに電話がかかってきて。でも、僕は家から一歩も出ていないし、原稿をそろえてしっかり入れているので絶対に足りないわけがないんですよ。僕の家を探してみてもやっぱりないから、担当に「どこにいったの!?」と聞いても「わからない」って。

鍛治 それも含めて人間ですから(笑)。ただ正直、作家としてはたまったもんじゃない。ちなみに、僕が作品を描くときはデジタルに移行しているんですけど、ヨシアキさんはいまだにアナログで原稿を描かれていますよね。当時も原稿は紙だったと思うのですが、失くされてしまった原稿はどうなったんですか?

ヨシアキ わからないです。でも、原稿のバックアップは取ってあったので、ことなきを得ました。

鍛治 作品を描くときはアナログだけど、データにはちゃんと残しておくんですね。

ヨシアキ はい、念のために。でも一人の担当が悪いわけではなくて、マンガ家にはいろいろな担当者がいるんですよ。たとえば、単行本の担当者とか。担当者が何人もいるからこそ、やりとりに行き違いが起きているんだと思います。

鍛治 なるほど。編集者と向き合うとき、リスペクトはあるけれど意見が食い違うこともありますよね。意見が違うだけじゃなくて、編集者によって考え方や好みも全く違うわけじゃないですか。その点、普段の打ち合わせで食い違いが起きた場合、どう折り合いをつけているんですか?

ヨシアキ 一回、意見は全部聞きます。聞いてみて、あとから自分で咀嚼して考えて、編集者が提案した意見の通りだなと思えれば、そのまま描いています。でも違うなと思ったら、「しっくりこないから、こういうふうにした」と言って提出するようにしています。

鍛治 作家と編集者でお互いに積み重ねられた経験や関係性があるから、編集者側が「ヨシアキ先生が言うなら……」と折れることはある?

ヨシアキ 折れませんね(笑)。「いや、ここは絶対にこうしたほうがいい」とはっきり言われます。

鍛治 僕はマンガ家を続けながら編集者1年目としても作品づくりにかかわってきましたが、編集の仕事を経験してからより一層「マンガ家ってすごい仕事だな」と思うんですよ。マンガを描くときって、根性がいるじゃないですか。作家からしたらマンガを何回も描き直すのは当たり前だけど、正直言って面倒くさいですよね。

ヨシアキ 面倒くさいです(笑)。

鍛治 でも「さらに良くなるんだったらいい」「たしかに提案されたもののほうが面白いな」と思えるから描くけれど、ラクなわけがないんですよ。その辛さと大変さを理解しているうえで、編集者としての僕は作家さんに描き直させている。申し訳ないと思いつつも、「申し訳ない」と言ってしまえば仕事にならないからはっきり言うんだけど。
トークテーマから話は逸れちゃいましたが、編集者側に立つと、改めてマンガ家ってすごい仕事だなと感じるんです。

ヨシアキ 時には全ボツにしなくちゃいけないときもありますもんね。

鍛治 いまでも全ボツにされるときはありますか?

ヨシアキ めちゃくちゃあります。一番辛いのは、連載中に全ボツをくらうこと(笑)。

鍛治 (笑)。マンガを描くとき、スケジュールはどういう感覚で進めていますか?連載前から話の大枠は仕込んでいると思うのですが、プロットは切っていますか?

※切る:マンガづくりの過程においては、「仕上げる」。

ヨシアキ 適当なプロットは切っています。セリフは抜きで、起こる出来事を箇条書きにしています。ペース的に言えば、僕は隔週の連載なのでネームは大体3〜4日で切って、残りの日にちで作画を進めるという感じですね。

鍛治 そのスケジュールって、日にちに余裕はありますか?

ヨシアキ いや、ギリギリです。むしろアウト(笑)。

鍛治 (笑)。ネームが一番しんどい?

ヨシアキ ネームをやっているときはネームが一番しんどいんですけど、作画をやっているときは作画が一番しんどいです(笑)。

鍛治 めっちゃわかる、それ!でも、ネームが仕上がったときが一番達成感はあるよね。特に気合いを入れて取り組まなきゃいけないから。

ヨシアキ ネームが仕上がった時点でマンガが完成しているんですよね。あとはネームを清書しなくちゃいけないから、作画は描いているものを単になぞるだけの作業でしかない。面白くなくて、めちゃくちゃしんどいです。

鍛治 作業と言いつつ、あれだけいい線を描けるのはすごいな。ヨシアキ先生はすごくいい線を入れますよね。

ヨシアキ いい線になっていればいいんですけどね。僕の場合は手癖でやっているだけなので。鍛治さんも線がめちゃくちゃ綺麗じゃないですか。

鍛治 でも、僕は器用貧乏なんですよ。変な意味ではないけど、絵も、話も、ヨシアキ先生は尖ってる。『殺し屋は今日もBBAを殺せない。』を読んだときはめちゃくちゃ笑ったけど、僕には描けない。作品として好きだし、もちろん描きたいとは思うんだけど、自分の好きなものと、自分が描けるものは違うんですよ。たとえば、僕はSF映画が好きなので「自分もこういう作品を描きたいな」「次はこういう話を描こうかな」と思うんだけど、実際に描くと面白くない。「コメディ作品をつくったら?」と言われて描いてみたら、そっちのほうが面白かったことってよくありますよね。

ヨシアキ ありますね。

鍛治 どちらかといえば、僕はまんべんなくやろうと思えばできるんだけど、尖ってないから読者の印象に残りづらい。「線がすごく綺麗」って言ってもらえるのはうれしいのですが、「この人の絵だな」とすぐにわかる個性的な絵がすごくうらやましい。

2 作品づくりで重要なのは、一貫性と客観性

鍛治 ヨシアキさんが、マンガをつくるうえで大事にしていることはなんですか?特に気を遣っている部分があれば教えていただきたいです。

ヨシアキ 客観性ですかね。読みやすさを一番意識しています。ネームを仕上げるとき、特に「ここのコマ、つなぎは読みにくくないかな」という点は注意しているかな。

鍛治 僕も同じ。「つまらないものになっていないか」という客観性は、すごく考えています。その「つまらない」の基準は、自分がただ描きたいものになっていないか。特にセリフとか、どうしても説明したくなるじゃないですか。ラクだから。たとえば、ネームでトリッキーな面白いシーンをひらめいたとしても、「ちゃんと読者に理解してもらえるかな」と不安になって状況をキャラに言わせようとしちゃう。でも、あとから見返すと、読者に何も考えさせる余白がなくて、つまらない。

ヨシアキ わかります。

鍛治 言葉って、万能じゃないくせに便利なんです。僕は説明しすぎないように「絵として面白いか」を重視しています。ネームをつくるとき、コマの中にセリフを全部入れて流れをつくったあとに、わざとセリフだけ消してみることもあって。そうすると「絵だけで一連の流れがなんとなくわかるか」「絵だけを見てクスッと笑えるか」「ちゃんと面白くなっているか」を客観的にチェックできるんですよね。

ヨシアキ 全部説明しちゃうとつまらないですよね。マンガだからこそキャラの表情で状況を物語るとか、説明しなくていいところは極力しません。

鍛治 『殺し屋は今日もBBAを殺せない。』の話ばかりで申し訳ないんだけど、ところどころ何が起こっているのかよくわかっていないもん(笑)。

ヨシアキ でしょうね(笑)。

鍛治 「何が起きたんだろうな」と思うんだけど、そういうことじゃない。何が起きているのかを説明されると、逆に面白くなくなっちゃうんですよね。ほかに大事にしていることはありますか?

ヨシアキ 「キャラクターに一貫性があるかどうか」ですね。すぐにブレてしまうので気を付けています(笑)。

鍛治 ブレているかどうかは、どうやって自分で見定めて軌道修正しているんですか?

ヨシアキ ネームを見返しています。一度寝て起きて見返すと、面白くないんですよ。「こういう特徴の人物だったらこう言うだろうな。こう返すだろうな」と、予定調和のような感じでキャラクターが普通のことをしていると、面白くない。

鍛治 「お!これは面白くなったぞ!」と思えるのはどんなときですか?

ヨシアキ 自分がニヤニヤしながら描いているときかな……(笑)。自分で描いていて、気持ち悪い顔で笑っているんです。

鍛治 新人のときは緊張するけれど、ネームを人に見せるのに慣れたり、編集者と打ち解けてきたりすると、そろそろ「クスッ」と笑えるシーンが近づいてきたときに思い通りになると「しめしめ……」って思いますよね(笑)。そこはすごく楽しい。

ヨシアキ そうならないことも多くないですか?「あれ。ここ、笑いどころなんだけど……」って(笑)。

鍛治 わかります(笑)。あと、自分が面白いと思っているところはすっ飛ばされるのに「そこで笑うんだ」っていうこともありますよね。ただ、キャラクターの一貫性や客観性における感覚って、どうしても最初は手探りになるじゃないですか。自分が生み出した作品だとしても「このキャラクターって、こんなときはどう反応するんだろう」みたいな。はじめは、なんとなく「こういうキャラクターがいいな」っていう設定があるとはいえ、実際に動かしてみないとわからない。はじめは作家自身が大きなボールを転がしているけど、回を追ってそのキャラを知っていくうちに、キャラクターが自分の中でハマって勝手にボールがどんどん転がっていく感じがあるんですよね。そういう実感はありますか?

ヨシアキ そうですね。最初は手探りで向き合っているけれど、途中からだんだん「このキャラは、こういう行動はしないな」っていうのがわかってくるんですよ。『殺し屋は今日もBBAを殺せない。』に「ヨネ」というキャラクターがいるのですが、話を進めるうちに「こいつ、喋んなくてもいいな」って。

鍛治 天才だと思いました(笑)。ヨネの作画もコピペですよね?

ヨシアキ コピペしてました(笑)。このキャラは1つの表情パターンだけで、さらに無言でもキャラが立つなと。逆に喋らないほうがキャラが立つのかなと思って、途中から一切喋らせていません(笑)。

鍛治 はっきりした個性のあるキャラが一人でもいると、ものすごく頼りになりますよね。何か困ったときに、そのキャラを投入させておけばどうにかしてくれる。

ヨシアキ (笑)

鍛治 ちなみに、ネームはどういう書き方をしているんですか?

ヨシアキ 最初は大雑把な “ミニネーム” をつくります。適当な紙に物語の方向性をなんとなく書いて、マルチョンで簡単にキャラクターを書いて、紙の片側にセリフを一気に書き出していく。それを何パターンか用意して、うまくいきそうな話を組み合わせていくんです。

鍛治 ネームは一発書きする作家さんも多いと思うのですが、ミニネームを実践してみようと思ったきっかけはなんですか?

ヨシアキ いきなり清書するのは労力が大きくて。たとえば、描いた絵がぜんぜん面白くないとき、それをまた描き直すのがしんどい。だから適当な紙に、まずはセリフと起きる出来事やキャラの行動を描いておけば、直すときがラクなんですよね。

鍛治 その方法は自分で考えたんですか?

ヨシアキ そうですね。最初はきっちりネームを切っていたのですが、とにかく直しがしんどかった。

鍛治 ネームにするときは、どの程度まで描いていますか?

ヨシアキ キャラの表情は割と描き込んでいます。キャラの表情がないと、僕も気持ちがのってこないので。行動一つとっても、キャラの表情でリアクションの様子を描かないと、自分でも話の雰囲気を掴めなくなってしまうんです。

鍛治 “マンガ家あるある” かもしれないけど、いざ本番の原稿を描くとき、ネームで描いたキャラの表情を越えられなくない?ネームだと、力が抜けているのがいいのかもしれないけど。

ヨシアキ そうそうそう!僕はトレース台の上にネームを乗せて、下書きしています。横にネームを置いて描くと、どうしてもネームのほうがいい表情になるんですよ。だったら、なぞったほうが早いなって。だから、ネームはトレースすることが多いです。その点、デジタルでトレースするのはすごく早いですよね。

鍛治 デジタルに移行しようとは思わないんですか?

ヨシアキ いまは半分デジタルです。線画だけは紙で描くようにしていますが、仕上げはデジタルを使うようになりました。

鍛治 作画をデジタルにすることはない?

ヨシアキ デジタルにすると、めちゃくちゃ直せるじゃないですか。自分が気に食わないところは全部直してしまうので、諦めがつかず終わらなくなりそう。アナログで描いていても、よっぽど気になるところはデジタルで調整していますが。

鍛治 これからもアナログとデジタルを使い分ける方向性は変わりませんか?

ヨシアキ わかりません。拡大縮小できる部分が、個人的には使いこなすのが難しそうだなと思っています。人によっては、作業が遅くなるって言いますし……。

鍛治 結局のところは、慣れだと思う。アナログでの作品づくりを9年間も続けていたら、アナログのほうがラクなんじゃないかな。

ヨシアキ いやー、とにかくGペンが描きにくくて。9年間やっていても、いまだに慣れていません(笑)。

3 現役マンガ家からみたWebtoonとは?

鍛治 ヨシアキさんからは、Webtoonってどう見えていますか?

ヨシアキ 完全にスマホに特化した、新しいマンガのジャンルの一つだなと思っています。アメコミも、日本のマンガも、一つのジャンルじゃないですか。新しく登場したのがWebtoonという媒体かなと。

鍛治 カテゴリが1個増えた感じですよね。ヨシアキさんは、Webtoonで作品をつくることに興味はありますか?

ヨシアキ やってみてもいいかなという気はあります。でも、Webtoon自体をほとんど読んだことがなく、まだ媒体に慣れていないので不安が大きいです。

鍛治 Webtoonには、どんなイメージをもっていますか?作家さんによっては、「個性を発揮しにくいんじゃないか」という印象がある人もいる。あと、Webtoonの場合は着彩があるから、普段白黒のマンガに慣れている作家さんは着彩へのハードルが高いんですよね。ヨシアキさんは自分でカラーをつけているから、着彩もある程度イメージはついているかもしれないけれど。そもそも横のマンガが縦になっているぶん、いろいろなイメージがあると思うんです。その点では、どういうイメージをもっているのか聞いてみたいです。

ヨシアキ 僕は着彩があってもなくても、クオリティが高くなくても、面白ければ読む。ただ、マンガは白黒が基本なのに「みんなはなんでこんなに色をつけているんだろう」と不思議に思うことはあります。着彩って、めちゃくちゃ手間がかかるじゃないですか。お金もかかるし。だから、僕は白黒でも面白ければ読む。

鍛治 マンガ家ならではの考えだよね。すごくわかるのが「工程が増えて大変なら、別にその工程にこだわらなきゃいいじゃん」ってところ。ただ、実際に自分がWebtoonでの作品づくりに携わって思うのは、着彩はマンガのもう一段上の昇華があるという感覚があるんです。マンガをつくる工程って、お話を考えて、ネームを切って、絵を入れる、っていう3工程。当然だけど、この3工程を踏まえていく段階で、自分がイメージしているものよりも、どんどんいいものになっていく。着彩も、同じような感じなんです。僕も最初は「白黒に色を塗るだけ」だと思っていたんだけど、どちらかというと線画でみたときとはまた違う顔になっている。イメージがぜんぜん違う。

ヨシアキ ほほう。

鍛治 たとえば色を失った世界があって、主人公が世界に色を取り戻すお話があるとします。このお話を白黒のマンガでつくると、当たり前だけどトーンかベタで表現するパターンしかない。でも着彩で仕上げると、色を取り戻す感覚が身体的に実感できて、かなりリアルな感覚になっていく。Webtoonに携わってから、着彩は「表現として1段階上に昇華できるものになっているんだな」とすごく感じるようになった。ヨシアキさんには前から話しているけれど、機会があれば一回くらいは描いてみてもらいたいなと、僕は本気で思っている。

ヨシアキ Webtoonはまだ描いたことがないからなぁ。ネームを描くとき、横のマンガとは変わるところはありますか?

鍛治 根本的な考え方は同じ。読者に物語を読ませていくうえでの、キャラクターの一貫性を大切にするのはまったく一緒です。でも、表現できる幅はぜんぜん違う。横読みの場合、「見開き1ページの表現を、どうやって次の見開きを読ませることにつなげるか」という視点誘導が重視される。だから、見開き1ページをパッと見れば、どういう状況が起こっているのかがすぐにわかりますよね。でも、Webtoonの場合はどんどん上に流れていってしまう。この点がかなり映像作品に似ていて、作品づくりとして難しいところでもあるし、面白いところでもある。面白いのは、読者に見てもらうシーンをコントロールできること。横読みだと、ページをめくってもらうための “引き金” が左端にしかつくれない。この構造は絶対変わりませんよね。ところが、Webtoonは下にスクロールさせるための “引き金” を、常に、ずっと置いているような感覚が強い。

ヨシアキ なるほど。横読みの場合は2ページしかないですもんね。

鍛治 そうそう。しかも、右ページ下の部分に “引き金” をもってくることって、あまりないじゃないですか。

ヨシアキ ないですね。

鍛治  “引き金” をコントロールしやすいのは新感覚ですよね。横読みではできないから。僕が言いたいのは、「Webtoonのほうが面白いよ」「横読みのほうが面白いよ」とか、そういう話ではなくて。さっきヨシアキさんがおっしゃったように、カテゴリとして違いますし。シンプルに、一つの表現やエンタメとして、Webtoonはすごく面白いカテゴリだと僕は思っています。

ヨシアキ Webtoonは、映画で言うところの絵コンテに近い感覚なんですかね。

鍛治 まさにそう!

ヨシアキ Webtoonがアニメ化されることもあるんでしょうか?

鍛治 これから増えるとは思います。Webtoonはまだ歴史が浅いから、横読みに比べたら世の中に浸透している作品数がすごく少ない。横読みって、自分が読者側だったら「こんな作品に出会っちゃった」と思うときがあるじゃないですか。自分がマンガを描いていても、誰かが「このマンガが面白かったのでぜひ読んでみてください」とおすすめしてくれたら、「見つけてもらえた!」と思いますよね。でも、横読みと比較するとまだ「出会っちゃった」「見つけてもらえた」という回数が少ないのがWebtoon。Webtoon業界が大きくなって認知されれば、カテゴリとしてもっと挑戦しがいのある媒体になるのかなと。やっぱり、いまはまだ横読みに比べると劣るのは事実かもしれない。

ヨシアキ 書籍化は難しいんですかね。

鍛治 難しいだろうね〜。かなりリアルな話ですが、いくつかハードルがあるんです。たとえば、出版社がWebtoon事業を進めていたら、書籍化できる可能性は高いと思います。なぜなら、単行本を刷れば刷るほど在庫を抱えなくちゃいけないぶん、出版社は在庫を抱えることを前提にしているので、めちゃくちゃ大きい倉庫をもっているから管理できるんですよ。でも、僕らみたいなIT会社は大きな倉庫をもっていないから、たくさんの在庫を管理できない。だって、データをITで管理しているんだから(笑)。

ヨシアキ 出版社とは真逆で、在庫をもたないようにしていますもんね(笑)。

鍛治 あとは、Webtoonを書籍化するとなると、結局は作家が縦のものを横に切り直す手間が増えるんですよね。でも、この2つをクリアできれば書籍化の可能性は出てくる。ただ、電子マンガを買う人が多い現状を考えると、単行本って記念品のようなものになっているじゃないですか。単行本を買って「読む」というよりは、一つのアイテムになっている気がします。

ヨシアキ そうですね。トロフィーみたいな感覚かもしれない。

鍛治 そうそう。作家にとってもトロフィーのようなものだし、読者側も「この作品が好きだからコレクションしておく」って感覚に近い。最近は、発行部数の多さが「すごいマンガ」という評価につながっているのかと言われると、別にそうでもないのかなと。

ヨシアキ でも作家側からしたら、紙の単行本を発行するのはめちゃくちゃ大事なポイントですよ。

鍛治 そりゃそうだよね。ちなみに、そう思うのはなぜですか?

ヨシアキ 紙のマンガは昔からあったものだし、僕も名作を紙で読んでいたから、やっぱり自分でもモノとして取っておきたい。本棚に並べて、目にみえるのがうれしいんです。

鍛治 たしかに。データって、ちょっと味気ないし、モノとして寂しいよね。じゃあ、自分の作品がフィギュア化されるのと、紙として単行本が刊行されるのは意味が違う?

ヨシアキ 違うと思います。

鍛治 『殺し屋は今日もBBAを殺せない。』、いろいろな人に読んでほしい。めちゃくちゃ面白いんだけどな。僕は『雷雷雷』も読んでいますけど、面白いので多くの人に読んでもらいたいです。

ヨシアキ ありがとうございます。

鍛治×ヨシアキ先生サイン入りコラボサムネ

4 プロになれるのは、やり続けた人

鍛治 最後に、連載を目指していた昔の自分に会えたとして、何を伝えたいですか?「こうしておけよ」「こういうことは苦労するから」「こういうことをやっておいて偉かった」とか。

ヨシアキ とりあえず諦めんなよ、って。これしかないぞ、と伝えたいです。

鍛治 (笑)。苦しいことも、跳ね返されることも、なんだったら原稿を失くされてしまうこともあるぞ、と(笑)。

ヨシアキ 編集者にボロクソ言われると思うけど大丈夫。やり続ければなんとかなる。

鍛治 すばらしい答えですね。

ヨシアキ やり続けた人がプロになっていくと思うんですよ。

鍛治 まったく同意見です。プロになるために大事なのは才能ではなく、やり続けることですよね。

ヨシアキ 僕が知る限り、しつこくやってきた人は連載を勝ち取ってますもん。「この人はいい絵を描くな〜」「才能があるな〜」と思っていた人が、いつの間にか描かなくなって辞めちゃったこともありますし。逆に、普通レベルの絵でも「めっちゃしつこく描き続けているな〜」って人は連載を取ってますから。下手でもなんでも、とにかくやり続けることが大事だと思います。

鍛治 これが当たり前のようでいて、一番難しいことだよね。

ヨシアキ しんどいですから。

鍛治 そうそう、しんどいよ。第一話でも、読切でも、作品を一本仕上げるのって、めちゃくちゃしんどい。描いている途中で「これ面白いのかな」「やる意味あるのかな」と思うときもあれば、「この話ちょっと飽きたな」と思うときもあるし。そういうのをひっくるめて、我慢強くやり切るって大変ですよね。

ヨシアキ 描いている途中で「面白くないな」っていうのが自分でもわかるんですよ。嫌になるんですけど、一回最後まで描かないと次につなげられない。途中で放り出してしまうのはラクだけれど、結局同じことを繰り返してしまう。

鍛治 「マンガ家になりたいな」と思っている頃は、3ページ描いては誰かに見せようとしていたんです。不安だから。マンガを描きはじめた当初って、途中でやめる理由をずっと探すんですよね。でも、いつからか一回やり切ってみようと思えるようになった。

ヨシアキ 僕も途中で見せて、最後まで描き切らずにやめちゃった作品がたくさんある。編集者からしたら、「せっかくどう直せばよくなるのかアドバイスしているのに、違うのもってきやがった」という繰り返しになっているので。僕もやっちゃってましたが、その人にとってあまり意味がない気がします。

鍛治 最後に今日一番のいい話が出ましたね。

ヨシアキ みんなが経験しますよね。「途中でダメ出しくらって、なんか嫌になっちゃった」って。

鍛治 なりますよね。それをくぐり抜けちゃえば、ぜんぜん違うよね。

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