見出し画像

第二十九話 経済の仕組みと米国金融政策

なんだか固いタイトルがついてしまいましたが、難しい話はしません。昨年、”アメリカの利上げ”という言葉が盛んに使われましたね。その背景で何が起こっているのかを流れを追いながら簡単に説明します。

アメリカの金融政策は誰が決める?

日本では「日銀」という中央銀行が金利などの金融政策を決めます。アメリカではそれにあたるのが「FRB」(Federal Reserve Board)連邦準備制度理事会 です。正確には、全国に連邦準備銀行という中央銀行が12あり、FRBが統括しています。

そのFRBが、「FOMC」(Federal Open Market Committee)連邦公開市場委員会 という会合を年8回開催します。日本でいうところの日銀の金融政策決定会合です。そこでは現在の景気はどうなのか、金利をどうするのかが決められます。

FF金利(Federal Funds Rate)といって、民間の銀行が資金をやり取りする際の短期金利を、景気や物価の安定を目的に上げたり下げたり調整します。景気の加熱やインフレを抑えたい時は金利を上げ、景気が悪く物価上昇率が低い時は金利を下げます。金利を上げることを”利上げ”下げることを”利下げ”と言います。

アメリカは、景気が悪い時は利下げをして企業などがお金を借りやすくし、景気を回復させます。逆に景気が加熱している時は利上げをして経済活動を抑えるという政策金利をダイナミックに繰り広げています。この仕組み自体はアメリカも日本も同じですが、日本はいろいろな意味で安定しているのでここまでわかりやすく動きません。

近年の流れ

①2008年のリーマンショック時にFRBはゼロ金利政策を導入しました。リーマンショックは100年に一度の恐慌と言われるほどの金融危機や世界同時不況を巻き起こし、株価も回復に5年以上かかりました。

金利と株価は反対の動きをすると言われています。金利を下げることで投資や消費が活発になり、結果株価上昇につながるのです。また、このような最悪な時でも世界の投資家はこぞって米国債を買いました。どんな時でもアメリカ政府は破綻することなく元本と利息をきちんと払ってくれるだろうという大きな信用力があるのです。

②その後2015年から徐々に利上げを進めました。劇的な回復力でアメリカ経済が活性化したからです。金利を上げることで投資や消費が抑制され、過熱ぎみの景気を冷やしてインフレを抑えます。

インフレ(インフレーション)は、物価が上がることを言うのですが、賃金が上がるスピードが物価が上がるスピードに追いつかなければ家計は圧迫されてしまいます。また、物の値段が上がると相対的に貨幣の価値が下がってしまうので、急激なインフレは避けなければいけません。

③2019年からは利下げに転じ、コロナショックを受けて2020年には再び政策金利をゼロに引き下げました。また、「量的金融緩和」を行い、金融機関が保有する国債などを中央銀行が買い取って、世の中にお金がたくさん出回るようにしました。

金利が下がったので企業も資金を借りやすくなり、経済活動が活発になりました。また、量的金融緩和によって資金が株式市場に流れ、株価も驚異的なスピードで回復し、景気は上向きになりました。景気の指標にもなる失業率も改善されました。

④2022年から、インフレが起きました。景気が再び過熱してきたとの判断から、量的緩和の縮小(テーパリング)をし、中央銀行から金融機関へ出すお金の量を徐々に減らしていきました。今度は金融政策の”引き締め”です。その後には金利を年複数回に分けて上げていきます。

金利を上げれば株価は下がることが多いと先ほども述べましたが、蓋を開けてみれば2022年、2023年米国株は好調に推移してきました。

⑤2023年3月、アメリカの銀行破綻が相次ぎました。シルバーゲートバンク、シリコンバレーバンク、シグネチャーバンク、ファーストリパブリックバンクと2ヶ月間に4行も。理由の一つにFRBの金融引き締め、利上げの影響だと言われています。

でもいずれも資産規模が大きく、実際はそれほど経営状況に問題はない銀行がそんなに簡単に潰れるわけはありません。その背景には「デジタル・バンク・ラン」があるのです。デジタル時代の預金の取り付け騒ぎのことです。

アメリカの銀行は3か月ごとに経営の状態を公表することになっています。それがSNS上で「シリコンバレーで損失が出ているらしい」と経営不安の書き込みが拡散してしまいました。損失自体は重大ではないが、窓口に並ぶことなくネットで簡単にお金を移すことができるので念のためにと別の口座に移す人が相次ぎ、「多額の出金があったらしい」と言う書き込みから「シリコンバレーが危ない」と変わり、どんどん預金流出のスピードが上がりました。そしてわずか2日で経営破綻してしまったのです。

ちょっと話が横道にそれますが、この一連の金融機関の破綻を背景に現金から「金」に資産を移す人が増えたため、金価格が上昇しました。金の詳しいことは前回の記事をご覧くださいね。

お話を戻します。そんなこともあって少し足踏みをしながらも利上げを続行しました。にもかかわらず、2024年1月、S&P500もダウもNASDAQも最高値を更新しました。アメリカからはちょっとやそっとではブレない自信のようなものを感じます。

どうした?!日本株高騰

日本でもインフレが起きましたね?それでもまだ日銀の目標のインフレ率2%には届いていませんし、賃金が追いついていないということで日銀も少しずつ利上げを匂わせています。一部では賃金上昇に踏み切った企業もありますが、まだまだこれからでしょう。

冒頭でも言いましたが、日本の動きは良くも悪くもゆーっくりなので、対策の取り方自体アメリカと同じようにはいかないのです。私はこのスタイルは嫌いではありません。いかにも日本らしいところです。

米国利上げの日本への影響として言えるのは、「円安」でしょう。金利が上がった通貨はみんなが欲しがるのでドルが買われてドル高になり、円から離れるので円安となります。

その円安も手伝ってか、海外投資家が日本株を大量に買って2023年、2024年と日本株は高騰しています。もしかすると中国経済が傾いているので同じアジアでも日本に資金を移しているのかもしれませんが、なぜなのかは不明です。

日本株高騰の恩恵を受けた方も少なからずいらっしゃることと思いますが、かのウォーレン・バフェットも「株を買うのに世界一愚かな理由は株が上がっているから、というものだ」と言っていることですし、ここで慌てずブレずに長期、分散を貫くことといたしましょう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?