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小説『FLY ME TO THE MOON』第14話 All I Want

『安全な場所を探さなければ』

『羽鐘ガールのトーキング通りだな、この車庫は逃げ場がないからノットランナウェイ』

『そうね、外のファッキンベイベーも少なくなったし』

如月、パイロンと別れた羽鐘親子は車庫で決意を固めていた。

『いい、パピー、マーム、奴らの名前はゾンキーと言うらしいの、そのゾンキーは頭を破壊すると動きは止まる、逆に言うと頭を壊さない限りバラバラにしても噛みつくのをやめないの、絶対に油断したらだめっすよ』

『ワオ!ファンキーなヒッピーだな、最高にパンクだぜ』

『そんな貴方にアイラーヴュー』

『で・・どこを目指したらいいかな・・・』

『パンクでロックにデパートなんていいけれど、ファッキューゾンキーがたくさんいそうだからなぁ・・・あーそうだ!チャイルドプレイにゴーアウェイ!あそこはスタジオも完備してるからコンクリート造りで俺のハートよりも厚くてぶち抜けねぇぜ!』

『そんな貴方にアイラーヴュー』

『パピーとマームが一緒にやってるバンドのメンバー、チャッキーさんね、顔傷だらけの!うわー懐かしい!元気でいるのかな』

『あの要塞のようなショップならきっと元気にやってるベイベー、メンバー集まって歌いながらロングロンガーロンゲストに過ごせば、そのうち何とかなるさケセラセラ。』

『そんな貴方にアイラーヴュー』

『パピーとマームのバンド【テキサス・チェーンソウ】最高だよねー、チャッキーさんがドラムでパピーがベース、ジェイソンさんがギターで、マームがボーカル、かっこいいよねぇ~』

『キーボードだったババ・ソーヤーは映画俳優になっちゃったけどな、あいつの映画もクールだぜ、クールすぎてベリーコールド!凍っちまうぜメーン!』

『そんな貴方にアイラーヴュー』

『うるせぇんだよさっきからマイワイフ!』

『そんな貴方にアイニードュー』

『もうたまんねぇな俺のマイワイフ!マイワイフ・イズ・マイライフ!ノーワイフノーライフ!』

『じゃぁチャイルドプレイに向かうっすよ。』


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『この辺りからは気を付けなきゃだね』

『うん』

如月の言葉に、不安ながらも【うん】と応えるパイロン。その目は少しうつろ、それはそうだろう、もうすぐ家にたどり着くけれど、両親が生きているかわからない。

生きていなかったらどうしよう、生きていたらこの先逆にどうしたら。

どちらであってもまともで居られる自信がない。

如月に頼りたい、でも3人で決めたことだし。

家族が居なかったら一緒に行けるけど・・・彼女の重荷になるかも。

そんな思いが駆け巡っているのだから無理もない。

アポロン街の標識をくぐり映画館のシネマアポロンが見えたが、やはりゾンキーがうろついているのが目視できた。

『3人居たら10人居ると思った方がいいわね、迂回しましょう』

『そうだね、無理に戦わない方が良いと思って申し訳ございません。』

映画館の手前2軒分ほどの距離を取って大回りした2人。特にゾンキーの影も気配も見当たらず進むことができた。場所によってやはりゾンキーが多いか少ないかはあるようだ。

『あの角だっけ?』

『はい、あの角を曲がれば見えるはずで申し訳ございません。』

『よし・・・』如月は小さく気合を入れた。

角の手前で一度止まって確認作業。

角は危険!のルールをしっかり実践で守って見せる如月。

垂れる前髪を左手でそっと上げながら覗き込む。

約0.5秒覗いてスッと引っ込み、また覗き込む。

『ゾンキーなし!でもパイロンちの玄関の前で赤いランプが点滅してるけど何あれ・・・』

『合図よ、私たちは大丈夫だって知らせる装置、うち、アポロ警備【クリード】と契約してるから、多分災害時で、ここにいます!とか、家で犯罪が起きてます!とかに使う意思表示ランプで申し訳ございません』

『そうなんだ、じゃぁ中に居るんだね、良かったじゃん』

『うん、じゃぁ私行くから・・・睦月、気を付けてね、ゴーゴンスタジアムできっと会おうね、きっとだよ、何日でも待ってるから、何日でもで申し訳ございません。』

そう言うと如月に強く抱きついた。

如月がパイロンの背中をポンポンと二度叩くと、振り向かずにパイロンは自分の家に向かった。

如月は方向を変え、一人で家の方じゃない方角へ歩を進めた。

大切な相棒、シェルビーを迎えに。


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『ふーう・・・流石にもと人間とは言え、頭をバットでブレイクすんのはグッドじゃなくてバッドだぜ!』

『バッドだけにフーズ・バッド!ポウ!』

『あのね、マーム!パピー!ふざけないでちゃんとして!噛まれたらアウトなんだから!わかる?死んじゃうんだからね!』

『ハガネガール・・・アイムソーリーすまねぇ』

『ごめんねハガネガール、少しでもこんなワールドをヒッピハッピシェイクしてあげたくて・・・』

『う・・・うん、私もごめん言い過ぎた。』

『ハガネガール!!!!!!!』

羽鐘の母親が叫び、振り向くとゾンキーが目の前にいた。とっさに後ろに飛びのいたが、つまづき転倒。学校でくじいた箇所がまだ痛むのを忘れて、痛む足で踏み込んでしまいバランスを崩したのだった。

羽鐘に覆いかぶさるゾンキー!父親がバットを振り上げるが、母親が止める『待って!羽鐘の口に血がイートインしたらベリベリデンジャラス!』そう言うと羽鐘の母親は父親からバットを奪い、ゾンキーの後ろに回って口にバットを噛み付かせ、思い切り身体ごとのけぞって引いた。

『ハ・・ガネ・・・ガール!ランナウェーーーイ!』

ゾンキーの上顎が強制的に持ち上げられ、可動範囲を超えてガコガコと音をたてながら、メリメリと口角を引き裂いていく。

羽鐘は動けるようになったのでゾンキーの下から這い出た。

羽鐘を起こす父親『怪我はナッスィング?』

『それよりマームを!』

羽鐘の父親が妻を救いに振り返った瞬間だった・・・・。もう一体現れたゾンキーが母親の肩に噛み付き、筋肉をブチブチと音をたてて引きちぎった。

『ファーーーーーック!!』声を荒げる母親。

噛みついたゾンキーをなんとか引きはがし、父親に手を伸ばすが再度首に噛み付かれ血がまるでホースでもついているかのようにビュー!と噴き出した。首を自分の手で押さえつけ、しっかりした目で羽鐘と夫を見た。声は出ていないが、口が動いていた。

アイ・ラブ・ユー

母親が死を覚悟した瞬間だった。

『マーム!嫌だ!マーム!だめー!!!!』

駆け寄ろうとする羽鐘を父親が引き離して、その勢いのまま後ろにぶん投げた。

『ハガネガール!ライブ!!!!!生きろ!生き抜け!』

そう言うと煙草をくわえて1つ煙を吐き出した。

背中越しに中指を立てて見せて、父親は妻の元へ走った。

『パピー!!!!!!!!!だめーーーーーーーーー!!!』

母親の悲鳴でゾンキーが集まってきた、その中に突っ込んだ父親。ゾンキー複数に対し、素手で殴る蹴る投げるで応戦するが、次々と噛まれる姿が羽鐘の目に映る。

そんな羽鐘の耳に父親の歌が聞こえてきた。

Day after day your home life's a wreck

毎日毎日お前の生活はガラクタ同然だ

The powers that be just breathe down your neck

その力はお前につきまとって離れない

You get no respect, you get no relief

尊敬も得ず、安心も得ない

You goota speak up and yell out your piece

お前は大声を浴び、自分の考えを叫んだ


So back off your rules

自分のルールを撤回しろ

Back off your jive

意味不明な行動を取り消せ

Cause I'm sick of not living to stay alive

死ぬために生きるのはうんざりだから

Leave me alone

ひとりにしてくれ

I'm not asking a lot

多くは聞かない

I just don't want to be controlled

俺はただ操られたくないだけだ

That's all I want

それだけが俺の望みだ

How many times is it gonna take

いったい何回それをやるんだ?

Till someone around you hears what you say?

周りの誰かがお前のことを聞くまでに

You've tried being cool, you feel like a lie

お前はクールになろうとしている、嘘のように感じている

You've played by their rules

お前はやつらに踊らされている

Now it's their turn to try

今はやつらの順番だ


I said it before

おれは前にも言った

I'll say it again

もう一度言うぞ

If you could just listen then it might make sense

もしお前がちゃんと聞けば理解できるだろう


マームの手を握り、しっかりと覆いかぶさり、守るパピーの姿が焼き付いた。

『メタルじゃねーじゃん!』

と大声を張り上げるも、そのツッコミは父親には届かなかった。

ここで私が生きるのを諦めたら父親の死が無駄になる。

そう自分に言い聞かせ、羽鐘は走り出した。


『All I Want・・・俺の望み・・・私が生きることがそうなの?だったら・・・絶対生きてやるからね!パピー!マーム!』

不思議と涙は出なかった、驚くほど前向きだった。

歯を食いしばって走った。

どれだけ走ったか覚えていない・・・

足が痛いのも忘れていた、これがアドレナリン効果ってやつ?そんな今必要ない事も含めて色んな事が頭を駆け巡った。

やっと歯を食いしばるのをやめた時、顎がもう痛かった。

一軒の家を見つけて入り込んだ羽鐘。

落ち着いた途端に大粒の涙がボタボタと、止めどもなく流れ落ちた。


※作中和訳は翻訳サイトを参考にさせていただきました。

※作中楽曲:Offspring/All I Want


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