見出し画像

小説『FLY ME TO THE MOON』第61話 【外伝】羽鐘のミッション4

ㇱゅんっ・・・・・・・・・・!

羽鐘が修正した3mm、この修正が的中し、2発目は頬をかすめもしなかった。
弾道を読み、羽鐘の初弾。
羽鐘を砂塵が取り囲む…『ふぅ…生きてる、私生きてる』
この小さな島での狙撃にキロ単位をカバーする狙撃銃は持ってこないと読んだ羽鐘は、島の大きさと弾速から察するとざっと500m以内に居ると判断し、次の射撃を待ってその位置を割り出すことにした。

射撃の瞬間の銃の瞬きをじっと待った。

ㇱゅんっ・・・・・・・・・・!

追加でずらしていた右への3mmがまたもや的中、耳をかすめた。
相手の瞬き、それは発砲時の火薬の光。
その愛らしいウインクを羽鐘は見逃さなかった。
即座に銃口のズレを調整してトリガーを引いた、その弾丸は相手の瞼に優しいキスをした。

『ふーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー長距離戦は緊張するなぁ…』

バしゅんっ!!!!!

『うぐっ・・・・』

羽鐘の左肩を一発の弾丸が抉って抜けた。

『スティール!!!なんだ!大丈夫か?』

『大丈夫!そっちは!?』

『追いつかれちまってまだ建物に到着できねぇ、でもラブがなんか秘密兵器があるらしくってよ』

『ラブよ、ナノマシンを持ってきてるの、それを放てば銃を見つけて内部に侵入、ファイアリングピン(撃針)を破壊する小型爆弾と思ってくれたらよろしいでござりまするよ、でもそんなに移動距離がないの、プロトタイプだから遠くまでバッテリーが持たないのでござります、傍受が怖いので言いませんけども』

『いや全て言ったよね今、んで?つまり?』

『引き付けないと放てないのでござりまする』

『それで立て籠もりっすか…私も直ぐ向かうっす』

『わかった、気を付けて来いよスティール』

『あ、でもでも、相手が手榴弾とか持っていたらどうするんすか?』

『こんな巨大な対空砲火兵器があって、敵の銃は種類はバラバラで型も古くてござりまする、恐らくでござりまするが金がないと推測しまする。つまり所持していない可能性が高く、加えて島を囲う壁を壊したくないでしょうからあっても使わないような気もしないでもないでござりまする。』

『なんか最後がフェードアウト気味なんすけど…』

ㇱゅんっ・・・・・・・・・・!

羽鐘のずらした距離に確実について来る相手の狙撃手の弾丸。
『おちょくられてる?クソスナイパーが…』
発砲の光は見えるが、羽鐘の弾が当たらない。
相手も発砲した瞬間に移動しているようだ。
となれば発砲後どっちに移動するか、したかである。

左肩がズキズキする…
そのズキズキのリズムに合わせてドクドクと血が噴き出す。

『うあっ…動脈やっちゃったかも・・・意識が…はぁはぁ…』

『スティール!左手の甲をタップして治療と言いなさい、早くなさいまし』

愛の通信を聞き、羽鐘がその通りに左手の甲に指示をする。

『ち…治療』

ウェットスーツの弾痕に近い繊維が傷に入り込み治療する。
血管を繋ぎ、止血し、傷を塞いだ後、ウェットスーツの穴も塞いだ。

『スティール、そろそろ治療終わったでございましょ?あくまでも戦火の中での緊急手術だと思ってね、回復は自分次第、失った血液も知らん、お分かり?』

『あぁ、助かったよ、血が足りないからクラクラするけど』

『ポーチに即血液になるタブレットが入ってるからお食べなさいまし』

『すっげーっすね、ラブの技術は、ありがとう』

ㇱゅんっ・・・・・・・・・・!

『あっぶねぇ~、くっそ舐めやがって…どたまぶち抜いてやっかんな!…どっちに動く…さぁ…』

ㇱゅんっ・・・・・・・・・・!

『ふふっ焦って来たな、弾道に落ち着きが無くなって来たね、もはや勘じゃないの?そんなラッキーショットを私は食らったっすか、ますますムカつく』

ㇱゅんっ・・・・・・・・・・!

『くっそ!違う、読まれないようにリズムを変えてるんだ』

右の頬をかすめた弾道でそれがわかった。
左をずっと狙い続けて右に追い込んでゆく、そしてやがて逃げ道を失った時に仕留める、そんなスナイパーも居るが、今の相手はそうではない、中央に釘付けにして仕留めるつもりだ、元々逃げ道が無い場所での狙撃は危険と隣合わせ、そんな事は羽鐘は100も承知。

『数ミリの戦い…ごめん…ワクワクするっす』

ㇱゅんっ・・・・・・・・・・!

パゅんっ・・・・・・・・・・!

ㇱゅんっ・・・・・・・・・・!

パゅんっ・・・・・・・・・・!

撃っては数ミリ、撃っては数ミリ移動を繰り返す。
右か左かその判断ミスが命取りとなる。
ヒリヒリする命のぶつかり合い、これは敵味方を超えた狙撃手同士の戦いだ。
狙撃手としてのプライド、狙撃手としての意地。

眼を閉じた羽鐘

『パピー…守って』

トリガーを引く羽健…全身全霊の弾丸…いや違う…。
それは落ち着き払った優しい弾丸、静かな川の流れのような美しい弾道だった。

相手の狙撃手からの風切り音が止んだ。

『ぷはっ!!!!!』

呼吸をするのを忘れる程集中した羽鐘。

『恐らくもう狙撃手は居ない、そっちへ向かうっす』

『了解!こっちもなんとか持ちこたえてるぜ』

右肩に銃を背負って移動する羽鐘。
高台を見つけては狙撃をし、線で向かう敵部隊に対して横から1人づつ削って行った。

---------------------------------------------------------------

チュンっ!!!

『ぐはっ…くっそ…治療!!!』

『何発目でござりまするか、ヒゲゴリラマン!』

『マンか…俺は小さい頃から身体がデカくてよ、どんな時でもヒーローに仕立て上げられるんだよ、でも俺は本当は弱くてさ…いつも怖くて怖くて…』

『で?』

『なんか今なら自分からヒーローになれる気がすんだよ、言われて仕方がなくやるんじゃなくてよ、自らの意思でよぉおおおお!!!』

『それはなによりでござりますわね、で?』

『ラブは俺が守る!ついてこい!!!』

『結構です』

『いてぇ!!!!治療!!!!』

『上に向かって突破するのは不利にござります、左を突破して上に!』

『了解だぜお姫様!』

シールドを前に構え突っ込むヒゲゴリ、後ろから爆発音が聞こえる、愛がばら撒いた小型の地雷を敵が踏んだようだ、やはり想像以上に破壊力があり、踏んだ敵は木っ端微塵となって散って行った、しかし同時に場所を知らせるようなもので、敵がどんどん集まって来る。恐らく電波の傍受よる探知もあるかもしれない、だがそれも愛の狙いだった、ナノマシンを発動させるためには分散させず、集める必要があったからだ。

『うらぁ!』

シールドごと体当たりし、敵を吹き飛ばす。
即座にその顔面に飛び、膝を落す。サブマシンガンを拾って右の敵を撃ちながら左の銃撃をシールドで受ける。左の敵にサブマシンガンを投げつけると右の敵の死体の襟首を右手で持ち上げ、左の敵に投げつけた、体勢を崩したその敵の喉にヒゲゴリのシールドがめり込む、同時に相手の流れ弾を喰らうヒゲゴリ。

『はぁはぁ…治療!』

『息も上がってるし弾丸も食らってるじゃござんせんか!』

『心配ねぇ…心配ねぇよ、行くぞ!』

『あまり無理するようなら私が息の根止めて置いていきますでござりまするよ』

左に回り込みながら移動する2人、容赦なく敵の銃弾が降り注ぐ。
迫撃砲が来ない事だけには感謝しながら走ったが、シールドで防ぎきれない弾丸はヒゲゴリの身体にめり込んでいくのだった。

辿り着いた建物はコンクリートで出来ており、元々は観測所だったらしいが、何の観測所だったかは今となってはわからない廃墟となっている。
立て籠もるには十分な場所ではあるが、侵入も容易。
ここを拠点に戦うと言うよりは一時凌ぎと言った方が良い。
ナノマシンが発動したところで銃撃戦が避けられるだけのこと、数百人の敵を相手に肉弾戦をせねばならない、弾丸食らうよりマシだが、絶望感はなんら変わりないのだった。

『ふぅ…少しくらい時間ありそうだな…』

『ブタゴリラ、あんた…』

『どっかで聞いたガキ大将の様な名前だな、大丈夫、心配ねぇよ』

『大丈夫って…血まみれでござりまするよ…』

『お前のウェットスーツのお陰で傷ひとつねぇよ』

『いや、そういう事じゃないでございますからね?』

『わかってるよ、血も補ってる…大丈夫、大丈夫だ、俺さぁ、すっと天涯孤独だったんだよ、だから今スゲー楽しいんだよね、仲間の為に戦える、俺でも役に立つことがあるんだってさ、ダセェだろ?笑っていいぜ』

『で?』

『え?』

『冗談よ、生きて帰れたら一緒に笑うのよ、さぁ少し休んでくださいましな』

カラン!カラン!

ヒゲゴリの身体からウエットスーツの機能により、弾丸が取り出された。

一方敵は取り囲もうと言う作戦なのだろう、数百メートル先の森で一度集結しているようだったので、ヒゲゴリは少しだけ休むことにした。

---------------------------------------------------------------

『集まってる…』

大きく迂回し、高台からスコープで確認する羽鐘。

『今なら楽勝であの建物まで行けるな』

羽鐘は身を屈め、草に紛れつつ、岩陰に潜んでは歩を進め、作戦通り廃墟に辿り着き、2人と合流した。

『スティール、お待ちしておりましたでござりまする、大事ないか?』

『遅くなってごめん、私は大丈夫、マッチョゴリラは?大丈夫なの?』

『ウチを守るためにかなりの弾丸を受けましてね、治療はしたけど出血や痛みで満身創痍でござりまするので、少し休ませてござりまする』

『そっか、大変だったね、狙撃しきれなくってごめん、雑魚の集まりだと思っていたのに狙撃手が2人もいたなんて誤算だったっすよ』

『現実はいつだって誤算だらけですわよ』

枠だけの窓際に立ち、バイザーを双眼鏡モードで確認する愛。
バイザーに表示された敵を示す赤い点がかなり集まって来た。

『そろそろ動き出しますわね、確認して御覧なさいスティール』

『いや…その…』

『あんた!!!!ちょっと!!!え?????バイザーどうしたの?撃たれた?』

『う…うん、まぁそんなところっす』

『安いものじゃないのでござりまするよ、あなたのお給料10年分はあるかと思いまする』

『ぐはっ…すみません』

5分も過ぎただろうか、ここでヒゲゴリが目を覚ました。体中が痛い様子で、すんなりと起き上がることが出来ずに芋虫のようにゴロゴロとしていた。

『いつつつつ・・・』

『痛いっすか、ゴリさん…』

『熟練の刑事にいそうな名前で呼ぶんじゃねーよ、ぐぎぎぎ・・・』

『さぁ、2人とも急いでバリケードをお築きになって下さいまし』

『お…おう…人使いが荒いなぁ』『ゴリラ使いの間違いっすよ』
『俺は哺乳類だ!』『正しくは霊長類にござりまする』

3人で周囲を探り、入れそうな場所や射線が通りそうな箇所に廃材などを積み上げて行った。バリケードと言えるような代物ではなく、子供の秘密基地レベルの仕上がりだったが、ここで愛がリュックからスーパーボールのような丸い物体を出し、バリケードの場所にコロコロと転がす。3秒後にボン!と破裂すると粘々とした液体が飛び散り、一瞬でラバーのように物質が変化した。

『長くは持ちませんけれど、フルメタルジャケットまでは貫通させませぬ』

『なんだこれ!スゲーっすね』

『ほんとだ、柔らかいけど強いなコレ』

ゴムのような素材で廃材を固め、簡易的なバリケード作り、ある程度敵が集まるまで籠城する準備が出来た。

『バイザーの赤い点がまとまって動き出したぜ、来るぜ!!!!』

『弾丸の嵐が来ますわよ、ある程度集まるまでは凌いでくださいまし!』

『了解した!!!!』


この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?