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小説『FLY ME TO THE MOON』第62話 【外伝】羽鐘のミッション5

突貫工事のバリケードで数百人を3人で迎え撃つ作戦のカントリーロード。

好き放題撃たせるのだから得策とは思えない。

しかし今の3人にはある程度集めたら発動させる愛の「銃を無効化するナノマシン」に頼るほかなかった、その後は肉弾戦。

作戦が成功したところで肉弾戦で数百人に立ち向かおうと言うのだ、もはや捨て身の作戦と言う他ならない。


ここで羽鐘が口を開く


『ねぇ、私はほんの少しだけど、あなた達と戦えてよかったよ』


『ああ、俺もだ、初めてできた仲間がお前らで良かったぜ』


『ウチもです、今日の日の記念にチューバーを奏でまする』


『景気づけに頼むぜ!』


愛が手の平に握っていた小さな棒を指でトントンとノックすると、トランスフォームしてチューバーへと姿を変えた。


『なんそれ!すげーっすね』


『私たちのチーム名にちなんで、カントリーロードをお聞きくださいまし』


愛はチューバーでカントリーロードを軽やかに、そして情熱的に演奏した。

そのさなか、建物に弾丸が撃ち込まれ始める。

それでも演奏を止めない愛、そのメロディーに勇気を感じた羽鐘は壁に身を隠してその歌詞をヒゲゴリと一緒に唄い始める。


Almost heaven, West Virginia


Blue Ridge Mountains, Shenandoah River


Life is old there, older than the trees


Younger than the mountains, blowing like a breeze


Country roads, take me home


To the place I belong


West Virginia, Mountain Mama


Take me home, country roads


弾丸の量が明らかに多くなり、その攻撃の激しさを増す。

愛の作ったバリケードも破られつつあるのが目で見て分かった。

その時、愛の演奏が止まった。


『ナノマシン!発進にござりまする!!!!!!』


敵に投げつけたガシャポンのカプセルのようなモノはポン!とおもちゃのような爆発をすると目に見えないナノマシンが飛び出したようだった。

次々と前衛の銃から小さな爆発を起こし始める。

まるで花火大会のように小気味よくその爆発は連鎖していった。


ぱん!


ぱん!


ぱぱぱぱぱん!


準備したナノマシンの数は500機

敵の数は数百人だが、500人以下だと想定する、だとすれば計算上では敵全員の銃を破壊したことになる、だがサブウェポンまでとなると何とも言えないが、明らかに今が好機!銃が無いのならこちらの方が有利、こちらには銃があるのだから。


ぱん!ぱん!ぱん!ぱん!


この瞬間、有利は一気に逆転、状況はイーブンでも数では圧倒的に敵が有利となってしまった。


『ちょっと!ラブ!私のお気に入りのライフル吹っ飛んだんですけど!』


『俺のデザートイーグルもだぜ』


『し…仕方がないでござります!銃に反応するんですもの!でも…ごめんなちゃい』


『ラブ…可愛いぜ…』


『よっしゃいこう!』


羽鐘の掛け声で3人が一気に動く、入り込んできた敵を銃で殴る羽鐘、拳一つでぶっ飛ばしてはぶん投げるヒゲゴリ、硬質金属でできたチューバーで殴り飛ばす愛、みるみる死体の山が築き上げられていく。しかし敵は数の暴力で圧してくるため、倒しても刺しても殴ってもキリがなく、想像以上に3人の体力を削って行った。


少しだけ残していた小型地雷を外にばらまき吹き飛ばそうと試みたが、その爆風で建物が倒壊する。状況はますます不利になるが、崩れた瓦礫で敵をぶん殴り、落ちてきた鉄筋を武器にすることも出来た。


バカン!


またもや地雷を踏んだ敵が吹き飛んだ。

飛んできた破片が愛の脇腹に突き刺さる『あうっ…治療!はぁはぁ…』『大丈夫かラブ!』『ボケゴジラ後ろ!』ライフルの後ろで後頭部を強打されたヒゲゴリ、片膝を付きそうになったがグッと堪え雄たけびを上げて裏拳で殴り、敵の顔面を潰した。『治療!』その隙にヒゲゴリに殴り掛かろうとする敵に羽鐘のタックル、体制を崩した羽鐘の顔面に敵の蹴りが入る!ごろごろと転がる羽鐘を数人が踏みつける。『スティール!動かないで!』

そう叫ぶと、愛はチューバーを思いっきり吹いた。

その瞬間羽鐘の周囲の敵が血を噴き出して吹っ飛んで行った。

『な、なんだ!?』


『一発限りのチューバー型ショットガンでござります!』


『どうせラブの事だからナノマシンが感知しない構造なんだろうな』


『さようにござりまする、もう助けられませんからそのおつもりで!』


起き上がった羽鐘はカランビットナイフを取り出して構えた。

『ありがとうラブ、気合い入ったわ』


ヒゲゴリもナイフを取り出し、愛もチューバー型ショットガンを収納すると、ナイフを構えて敵を迎え撃つ体制を整え、次々となだれ込む敵に応戦するカントリーロードだった。


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何時間戦ったのだろうか、もはや立ってる事もやっとの状態の3人に敵は容赦なく次々と襲って来る、ラーの逆十字復活の為に必死の様だ。

満身創痍、ウェットスーツが治療するとは言え疲労は回復できない、どんどん体力が奪われ圧されて行く。


『はぁはぁ…正直…もう無理じゃねぇ?』


『何を言うのヒゲゴジラ!と言いたいところだけれど、はぁ…はぁ…そうかもしれないですわね…』


『はぁ…はぁ…諦めるのは大嫌い…私は独りでも戦う!』


『羽鐘、もう立ってられねーじゃん、無理だって、よくやったよ…はぁ…うぐっ』


『くっそ…はぁはぁ…くっそ!くっそ!くっそ!』


悔し涙を流す羽鐘にヒゲゴリも愛も静かに貰い涙を流した。


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『いい?ブースターは一度限り、失敗したら全員死ぬからね、この高度じゃなきゃあなたたちの滑空はできないし、限りなく島に近づくから目視される、ジャマーシールドも意味がないから!』


恐ろしいスピードでドラゴンフライをかっ飛ばすのは神楽だった。

漆黒の蜻蛉のスピードを限界まで引き出して闇を切り裂いて飛ぶ。


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ウーーーーーーーー…


島にサイレンが鳴り響き、敵の動きが止まった。

ゴォンゴォン…

重苦しい音と共に対空砲火兵器が動き始めるのが3人に見えた。


『ミサイル発射か?…何か来たのか?』


『さぁ、このミサイルから逃れられる乗り物はこの世にはありませんことよ』


ボシュ―――――――――――――――――――――――


島全体が見えなくなるほどの白煙と共にゆっくりとミサイルが発射された、数メートル打ち上がると一気に加速して空の彼方に消えた。


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『ミサイル接近中、距離300m』


『サンキューコウメ!』


操縦桿を強く握ると、上蓋のキャップを親指で跳ね上げ、真っ赤なボタンにその指を乗せた。


『ミサイル接近中、距離200m』


ドラゴンフライの内部に警報機が激しく鳴り響く。


『死ぬ準備しとけお前ら!でも私を恨むんじゃないわよ!』


『ミサイル接近中、距離50m』


『うらぁ!!!!』


その色気のある容姿からは想像できない声色で叫ぶと、一気に操縦桿を右へ全開に倒し、赤いボタンを押した。


ボフン!!!!!


ブースターを一気に使用することにより、爆発を起こさせ、空中に熱の塊を止まらせた神楽。そこに熱探知ミサイルが直撃して爆発した。

ブースターの熱がドラゴンフライの熱を上回った為、ターゲットが移動したと言うわけだ。神楽の腕が無ければこの芸当は不可能、いや、神楽ですら完璧にできる可能性は限りなくゼロに近い技術だった。


爆風で操縦不能になりグルグルと回転しながら堕ちるドラゴンフライ。


『言う事ききなさい!』


神楽が片方だけジェットブースターを発動させ回転を制御し上昇した。


二発目からの装填は手動、が故に今の島の状況では二発目はない、幸か不幸か島で戦う3人の戦いが侵入不可能な鉄壁の牙城に風穴を開けたのだった。


『よっしゃー!!!!!!!!!!!!』


一気に加速して島の手前で下降する。


『いけいけいけいけいけ!頼むぞ野郎ども!』


神楽の激に親指を立てて地面へ向かってウィングスーツで飛び降りた特別ゲスト。


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『誰か助けに来て撃墜されたんかな、この島はあのミサイルがある限り鉄壁かもな、周囲の島にもこんなに敵が潜んでたしよ・・・』


『今更言ったって遅いでござりまするよ』


『ねー・・・カントリーロード、もう一度歌わない?』


羽鐘の提案に2人は賛成し、3人でカントリーロードを歌い出した。


Almost heaven, West Virginia


Blue Ridge Mountains, Shenandoah River


Life is old there, older than the trees


Younger than the mountains, blowing like a breeze


サビに差し掛かると微かに重なって歌声が外から聞こえて来た気がした3人。


『ねぇ、誰か歌ってないっすか?』


『え?』『ん?』


耳を澄ましてみると確かに敵の方から歌が聞こえて来た。


Country roads, take me home


To the place I belong


West Virginia, Mountain Mama


Take me home, country roads


『え???この声…』


ボロボロの身体を歯を食いしばって何とか立ち上がると、羽鐘の目に飛び込んできたのは敵をなぎ倒している銀色の長い髪と金色のポニーテールの女性2人だった。


All my memories gather round her


Miner’s lady, stranger to blue water


Dark and dusty, painted on the sky


Misty taste of moonshine, teardrop in my eye


Country roads, take me home


To the place I belong


West Virginia, Mountain Mama


Take me home, country roads


歌いながら次々敵を倒す2人、それはまるでハリケーンのようだった。

その女性2人が振り向いて羽鐘に手を振った。


今の状況で、羽鐘にとって絶対にあり得ないが、絶対に会いたかった2人が目の前に居た、一気に涙が溢れ出したが、顔は笑いながら手を振った。それだけ感情がバラバラなのである、海軍でもないし軍隊でもないし、ましてや特殊部隊でもないのにあの2人が居るはずがない、もはや幻覚が見えているのだろうか、羽鐘にとってたとえそれが幻覚でも良かった、最後に大好きな2人…


如月とパイに会えたのだから。


I hear her voice, in the morning hour she calls me


The radio reminds me of my home far away


And driving down the road I get the feeling


That I should have been home yesterday, yesterday


Country roads, take me home


To the place I belong


West Virginia, Mountain Mama


Take me home, country roads


物凄い強さだった、如月は鉄パイプ一本で敵を殴り飛ばす。膝をたたき割り、突きで顎を砕き、肘関節を破壊、肋骨を粉砕してゆく、止めを刺さずに笑って放置するのが如月らしい。


パイはバールで世界のスマッシュを決めて行く。バールが見えないほどのスピードで、『バールでドーン!』と声がしたかと思った瞬間には敵の首がくの字にぐんにゃりと曲がっていた。


『最高じゃん!パイ!めっちゃ最高じゃない?今を最高って言ったらこれより最高な事があった時になんて言ったらわからないけれど今はこれが最高!あ、そうだ!次に最高な事があったらネオ最高ってのはどぉ?いい?いいよね?』


『いいんじゃない?暫く大人しい生活してたもんね、ストレス発散できてよかったね睦月』


『で?』


『申し訳ございません!』『申し訳ございません!』


『カントリーローーーーーーーー♪』


2人の快進撃は止まることを知らなかった。


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