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小説『FLY ME TO THE MOON』第63話 【外伝】羽鐘のミッション6

シンゴは指令室を端から端までウロウロし、立ち止まってはモニターが割れる程に睨みつけた、念力が出るわけでもないのにその思いだけで事態が何とかならないかと、もはや超能力にまで頼ろうとしていた。


『シンゴ様にお伝えします』


『おお!コウメ!待っていたぞ!待ちかねていたぞ!状況は!』


『約500の敵に囲まれ、籠城した3名でしたが、多勢に無勢で倒せたのは約100人程度、3人の生体反応も弱っており、完全に包囲されました。』


『なんてことだ…』


『ヘリが一機向かい、熱探知型対空ミサイルを潜り抜けて特別ゲスト2名を下ろした模様、そのゲストが現在次々と敵を削除しています。』


『ヘリ?特別ゲスト?』


『はい、ヘリの型はNZ2024、垂直離着機(FVL)プログラム、ツインエンジン型でニトロブースト搭載、デュアルローター構成と後部の推進プロペラにより…』


『わかったわかった、そのヘリの名前は?何と呼ばれている』


『ドラゴンフライの愛称のようです、漆黒の機体で…』


『操縦者は誰だ、神楽か?』


『はい、元ゼウス特務機関の神楽 雅(かぐら みやび)様でございます、現在は引退されまして…』


『もういい、神楽の腕なら対空砲火を抜けられるか…』


『神楽に繋いでくれコウメ』『わかりました』


『お繋ぎしました、どうぞ』


『なに!なんか用なのシンゴ!』


『神楽、お前…』


『ええそうよ、レダ島に行ったのは私よ!』


『特別ゲストってまさか…』


『如月睦月とパイ・ロンよ』


『お前っ!あの2人は民間人だろ!誰の判断で』


『私は軍人じゃないから命令も何も関係ないわ、私が趣味でヘリを飛ばしていたらあの2人が勝手に飛び降りた…それだけの事よ』


『それだけ????』


『ええ、それだけよ』


『どういう事だ!責任取れるのか神楽!』


『指令室でイラついてるだけで、何もせず仲間を見殺しにするよりマシじゃなくって?』


『見殺しだと!そんなつもりは…』


『だったらすぐに行きなさいよ!敵は全て侵入者に向かっているんだから対空砲火兵器にミサイルの装填なんかされないわ!今は…の話しだけど。』


『一体どうやって熱感知式のミサイルを…』


『腕よ腕っ…そこからぶっ飛ばせば10分でしょ!ミサイルなんかこねぇから行けよ!シンゴ!』


『あいつらは…あいつらは無事なのか?流石に…』


『彼女たちは本当の死と向き合った娘たちよ、名ばかりの特殊部隊よりずっとずっと強いわ、だから私は彼女たちの申し出を受けたの、羽鐘を救いたいって言うその思いを受け止めたのよ。』


『思いだけじゃ…』


『だから早く行けって言ってるんでしょ!』


『わかった、恩に着る!』


『ノーダイの下着買ってもらうからね』


『了解だ!』


『チームシンゴ精鋭部隊に告げる!今からレダ島に向かい、仲間を救う!準備して甲板に出ろ!3分後に出る!』


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仁王が2人降り立ったかの様な暴れっぷりにラーの逆十字の残党は恐怖した。

恐怖支配されていた人間が解放され、新たなラーの逆十字の復活と言う野望を抱いていたであろう、しかしそれを潰した人間が再度潰しに来たのだ、これは恐怖以外の何物でもない。きっと残党全員にトラウマとして今日の日は植え付けられたに違いない。


鉄パイプとバールだけで数百人の敵の中に突っ込む、これはもう意表を突くと言うレベルの話しではない、意表の向こう側、勇気を超えた奇行。恐れの裏、無、そのさらに先、彼女たち、いや少なくとも如月は楽しんでいる、つまり『楽』


戦いに身を置く如月は今楽しんでいる。

ただ1つ気に食わないのは、ホラーじゃないことだった。


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『丘の上の建造物の約100m手前に着陸する!』


『れーぐ! 新型のC-RABBITの情報収集も兼ねて頼むぞ!』


『はっ!ってチームシンゴ精鋭部隊って私一人ですか!』


『ヘリを置いて行けない、現地に鬼神が2人居るよ、私は上空から援護する』


『はっ!ラビット、頼むぜ』


『お任せください』


プロトタイプ・テスターアンドロイド C-RABBIT(シー・ラビット)

Crazy-Real-Android-Bio-Blake-Intelligence-Tester

(クレイジー・リアル・アンドロイド・バイオ・ブレイク・インテリジェンス・テスター)狂気じみた無制限に学び続けるAIを閉じ込めた、人間と見分けがつかない人造人間と言う意味を持つ名前、通称ラビットが笑顔で応えた。以前制作されたラビットは自爆により破壊され、新型としてアフロヘア―で作り出された。感情を持たないが考え、学ぶアンドロイドは戦場には今必要不可欠であった。


れーぐはもとマタギ。

主に4人1組で大型の有害動物を狩猟していた、その中で尻尾を切り落とした者が戦いの神に愛されていると言われていたのだが、その尻尾斬りが圧倒的に上手いのがれーぐだった、その通り名が『尾斬りのれーぐ』と言われる程に。


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れーぐが現地に降り立つと即戦闘になった。

もっとも敵は銃を使えない、まだナノマシンが残っている可能性があるので、れーぐが持ち込んだ武器は自分の背丈ほどある剣、マタギだった頃の愛刀だ。

重くて振りは遅いものの、相手の動きを即座に読む力が高いれーぐには全く問題がない、むしろ野生のイノシシより人間を狩る方が非力で遅い分だけ楽なのだ。

一方ラビットは人の動きを遥かに超えたスピードで敵を倒していた、良く見ると武器は無く、人差し指だけで戦い、奇声を発している。ネットに落ちていた世紀末が舞台の格闘アニメ作品を見て学んだようだった。


ラビットはれーぐに向かってグッドサインを出す。


れーぐもグッドサインを返した。

『情報収集必要か?つかラビット1人下ろせば解決だったんじゃねーの?』

そんな思いを隠しながら作り笑顔で笑って見せた。


上空からはシンゴがヘリの機関銃で殲滅。


『す、すげぇな、一気に片付いたんじゃねぇか…いつつつ…』


『そのようでござりますね、助かりましたわ、そころであの銀髪と金髪はスティールの…』


『うん、友達であり仲間、そしてバンドメンバーっす!』


籠城する3人に笑顔がでた。


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シンゴが下ろすヘリの暴風が巻き上げる砂埃がほぼ瓦礫となった廃墟の隙間から入り込み、ヒゲゴリ、愛、羽鐘を包む。こんな不愉快な風をとても心地よく感じた3人。


『助かったな、みんな』


『助かったっすね』


『助かりましたでござりまするね』


『まだだぁああああああああああああ!!!』


後ろから回り込んできた残党のリーダー的存在「キャメル」だった。

身長2mを超える大きな身体はそれだけで武器だとういうのに、俊敏で空手の黒帯と言う鬼に金棒を持たせたような男。

もはやかろうじて動くのがやっとのヒゲゴリを蹴り上げ、落ちて来たところに踵を落として地面にたたきつけ、愛を投げ飛ばして羽鐘に投げつけた、更に大きな瓦礫を持ち上げて叩きつけようとしたところに飛び込んできたシンゴが側転し、遠心力を強化して地面に片手を付け、上から蹴りを落とし込むコヤスキックがヒットした。その蹴りは瓦礫を砕き、キャメルの脳天にまで達した、一瞬白目を剥いて倒れそうになるキャメルは両足で踏ん張り、カッ!と眼を見開くと正拳付きを連打してきた。シンゴも両足を地面にしっかり付けてガードする、だがそれはガードに見えて攻撃、つまり肘の先端を相手の拳に合わせてぶつけるもの。『割れただろ、拳』ガードの隙間からニヤリと笑って見せるシンゴは一気に攻めに出る、左ローから右ミドルキック、左ハイキックへと繋げた、ふらつくキャメルに対してもう一発コヤスキックが決まり、キャメルはそのまま後ろにぶっ倒れた。


『俺はコヤス・K・シンゴ…KはキックのK!ババン!!!』

自分で効果音まで入れてポーズを取ったが誰も見ていなかった。


意識が朦朧とする3人に微かに見えた如月とパイの姿。

それはめちゃくちゃ笑顔だった。


『如月さん、パイさん、ご協力感謝します!』

シンゴが2人に敬礼する。


『いいっていいって、友達救うの当たり前じゃん。あ!友達って言うと違和感ないけど、親友って言われると違和感すっごくない?親友って何?言われた方は結構重く感じたりするよね、ねー友達じゃダメなの?つか真の勇者も略せば真勇じゃん、え?もしかして親友ってそゆこと?勇者なの?洞窟行く?』


『勇者睦月!黙りなさい!』


いつもの流れが完成したところで全員がヘリに乗った。

それぞれが楽しく会話した、ヒゲゴリの故郷への思いを聞いたり、愛のチューバー愛をぐったりするほど聞かされたり、愛のチューバーと羽鐘と如月とパイのセッションでフライミー・トゥ・ザ・ムーンを歌ったり、れーぐがマタギ時代の話をしたり、シンゴの武勇伝もたくさん聞けた。


操縦を任されたのはラビット。

最新のAIは「気を利かせる」事が出来るらしく、遠回りして帰還するのだった。


『ラビット!カントリーロードのカラオケかけろ!みんなで歌うぞ!』


『これだから人間は面白い』


『なんか言ったかラビット!』


『いいえ、かけますよ』


Almost heaven, West Virginia


Blue Ridge Mountains, Shenandoah River


Life is old there, older than the trees


Younger than the mountains, blowing like a breeze


Country roads, take me home


To the place I belong


West Virginia, Mountain Mama


Take me home, country roads


All my memories gather round her


Miner’s lady, stranger to blue water


Dark and dusty, painted on the sky


Misty taste of moonshine, teardrop in my eye


Country roads, take me home


To the place I belong


West Virginia, Mountain Mama


Take me home, country roads


I hear her voice, in the morning hour she calls me


The radio reminds me of my home far away


And driving down the road I get the feeling


That I should have been home yesterday, yesterday


Country roads, take me home


To the place I belong


West Virginia, Mountain Mama


Take me home, country roads




Country roads, take me home


To the place I belong


West Virginia, Mountain Mama


Take me home, country roads

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