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小説『FLY ME TO THE MOON』第51話 ジャッカル

『大統領!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』



驚いた神楽の前に現れた、パワードスーツ姿のジャッカル。

現ゼウスシティの大統領アレースである。




『人のお楽しみを邪魔しているのは貴様らのようだね』




ニヤニヤとした顔つきだが眼光は鋭い。

ゆっくりと周囲を見渡し虎徹を見つける。


『おや?我が国の防衛部隊を捨てた男じゃないですか』


『アレースじゃな、貴様何をしておる、このゼウスを良き街にするんじゃなかったのか?貴様の仕業じゃそうじゃな、この騒ぎは』


『おやおや、貴方は私の指示で戦ったラーの逆十字の詳しいお話を聞いてないようですね…』


『なんの話じゃ』


『残念ながら貴方の敵だった男、ラミア・ラーは殺されましたけどね・・・弟は生きているんですよジャッカル・ラーがね・・・』


『まさかお前がジャッカルだと言うのか・・・赤足と言われた男がお前だったと言うのか!?ワシらの上に立ってゼウスを作り上げようとしていた、お前がそうだと言うのか?』


『ラーの逆十字は終わってはいません、神に背く逆十字!それを背負い続けるのが私だ!私こそ神なのですよ!』


そう告げるといきなり周囲のゾンキーの死体を蹴り飛ばした。

次から次へと蹴り飛ばす。

壁に叩きつけられる死体、砕け、飛び散る死体、遠くまで飛んで行く死体・・・・狂ったように死体を蹴り飛ばすジャッカルに、如月たちはあっけにとられ、言葉を発するのを忘れた。


それほど人間の行う行動としては不可解だったのである。


体感だが10分ほど経過したと感じた如月の目に映ったのは、人工芝があらわとなった、直径周囲7~8メートル程の円。ミステリーサークルならぬゾンキーサークル。


『この様子も放送されている事だろう・・・神楽・・・失敗だったな、誰も助けになんか来ませんよ、むしろ世界配信大歓迎!さぁ、公開処刑の場所は出来上がりましたよ!晒したまえ!貴様らの醜態を!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』


『こ・・・・こいつ・・・戦う場所を作っていたのか』


如月、羽鐘、パイロンが歯を食いしばり、ギリギリしながらジャッカルを睨みつけた。


『さぁ、みんなで来ますか?1人1人来ますか?』


『生意気なおっさん!』


前に出ようとした如月に割って入った。


『ワシがやろう・・・』


虎徹が愛刀を構え、前に出る。




ジャッカルが右手の中指で「来い」のモーションをした。

虎徹が更に円の中心に向かって数歩歩き進め、止まった。

鼻で息を吸い、口からヒュー!と吐き出すとフッ!と止め、深く一礼をした。


ドン!


そこへ一気に間合いを詰めて左のパンチを振ってきたジャッカル。

顔の横わずか数ミリで右へかわす虎徹。

返しの右フックもバックステップ1つで避ける。

続く左ハイキックは頭を少し下げるだけで頭上を通り過ぎた。


『そんな良いモノを身にまとっても、当たらなければゴミじゃな、そういうのを宝の持ち腐れっちゅーんじゃ』


すーーーっとゆっくり刀を右から円を描くように回して下ろし、斜め右下で止め、短くフッと息を吐くと同時に刃を内側に向けた。


如月が気づいた・・・


『あれは・・・白竜(リヴァイアサン)の構え・・・まさか虎徹さんって「幻獣派」!?昔、抜刀術で如月流ともう一つ、幻獣派があると聞いたんだけど、その構えは伝説の獣だと・・・書物でしか見たことなかった…まさか虎徹さんだとは・・・』


『流石じゃ如月、実は古い通り名があってな・・・・ファンタ爺(じぃ)じゃ!はっはっは。我こそは幻獣派最後の伝承者 長曽禰 虎徹 参る!!!!!』


『るせぇ!』


振り上げたジャッカルの拳は地面にめり込む。

虎徹は風に揺れるカーテンのようにハラりといなしたのだ、だがその切先だけは移動せずに残していた、そして凄まじい速度で切先を上に向けると同時に跳ね上げる。


キィン!


金属音が響く。


引っこ抜いた拳を横に振るジャッカルだが、パワードスーツのスピードでは虎徹を捉える事が出来ず、白竜を2度3度と受け続けた。


『じじぃ、見事な動きだが体力が持つのかな?このスーツには傷1つついてませんよ?ふふふふ』


笑いながら攻撃を続けるジャッカル。


全てをユラリユラリと紙一重でかわしながら、跳ね上がる切先「白竜」で攻撃を繰り返した。虎徹が右に移動したとき、ジャッカルの開けた穴につまづき、姿勢を崩す、それを見逃すことなく上から平手を叩きつけた。パワードスーツは人間よりも2回りほど大きい、その掌は虎徹の頭を握り潰すくらいには大きかった。避ける余裕もない虎徹は頭の上で刀を横に構え、左手を刀の棟にしっかりと添え、腰を落とした。


『大地(タイタン)!!!!!!』


なんと虎徹の構えはジャッカルの叩き落すような平手を止めた。押し込まれて地面に虎徹の足が少し沈む。押し込む力を瞬間的に右へ逸らすと、その掌は地面に落ち、ジャッカルの体制はグラリと大きく崩れた。瞬時にその手の甲に右足で飛び乗り、そのまま左前方へジャンプ。


顔面を狙っての攻撃だった、空中で刀を両手持ちに構え、後ろに引き込んで突きの姿勢に!


「黒龍(バハムート)!!!!!!」


鋭い突きで周囲が真空になったのか、かろうじて避けたジャッカルの左頬が触れていないのに裂けた。即、後ろに離れるジャッカル。


『装甲の無いところを突いてきましたか、流石ですね』


その間にも虎徹は間合いを詰めていた!


『おしゃべりが過ぎるッ!』


走り込む虎徹、既に腰の鞘に仕舞い込まれている刀に右手をかけ、姿勢をより一層低くしてまるで浮いているかのように詰める!


『速い!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』


『幻獣派 甲冑の騎士(オーディン)の構え!』


『くそっ!間に合わねぇ!』


ジャッカルは腕をクロスさせてパワードスーツの装甲の厚さに賭けた!


『斬鉄剣!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』


虎徹が恐ろしく低い姿勢からジャッカルを横切る瞬間に、1度だけ抜刀した!居合切りと言えば伝わりやすいだろうけれど、その姿勢の低さ故、通常の居合切りとは大きく違った。まるで音がしなかった・・・外したのだろうか。


『ふふ・・・・正直焦ったよ・・・でも外したら意味が・・・』




ガゴン!・・・・




パワードスーツの腕関節をつなぐサスペンションが落ち、2つに割れた。




シュー!!!!!!




ジャッカルの乗るパワードスーツの左腕からガスが噴き出し、その手がだらりと下がってブラブラしてる。




『貴様!!!!!金属も斬ると言うのか!』




『柔も剛も抜刀術には存在する、大事なのは何を斬るか、そしてその形状、硬さを見極め、刃を合わせる事。力だけでは斬れぬものもあると知れ!愚か者が!』


虎徹が突きの構え「黒龍(バハムート)」でジャッカルの後ろから狙う。ジャッカルはとっさに落ちたサスペンションの破片を拾い、バックステップしながら虎徹に投げつける。切先を少しの動きだけで飛んできた部品の軌道を逸らし、そのまま突っ込んでくる虎徹。


一気に間合いが詰まった時、ジャッカルはパワードスーツの動かなくなった左手首を右手で掴み、引っこ抜いてぶん回した!流石に予想していなかった虎徹は自分のスピードを殺せず、受けの構えも取れないまま、金属の左腕が直撃してしまった。凄まじい衝撃が虎徹の右大腿部に走り、そのまま壁に叩きつけられた。その直後、虎徹の金属の義足が2つ落ちてきた。




『歳じゃねーか?ジィさんよ』




引っこ抜いた左腕を持ったままスタジアム入口に進み、まだまだ入ってくるゾンキーをその腕で薙ぎ倒すジャッカル。チャッキーの車を除いた3台の車を使って入口を塞ぎ、ゾンキーの死体を蹴り飛ばして積み上げ、外部からの邪魔が入らない様にしたジャッカル。




『ジィさん!まだやるかい?』




『卑怯よ!!!!』




『はぁ?』


いきなり罵ってきた如月に目線を合わせるジャッカル。

しかし臆することなく如月が煽る。


『お前さぁ、なにそれ?キメェんだよ変なもんに乗ってさ、まだやるかいだって?いいかよく聞け!まだやるかい?って言って良いのは日本一の喧嘩師と言われたあのヤクザだけだからね!』



『睦月!!!!やばいと思って申し訳ございません。』


『ほう、元気ですね、見たところ女子高生ですかね、あれですか、ジェーケーって言うやつですかね』


『はぁ?うっせーよおっさん、何がジェーケーだよバーカキメェんだよ!ペッペッ!』




『口の利き方がなってませんね・・・・』




『だいたいそんなもん着込んで乗り込んできて、いいお年寄りを痛めつけて勝ち誇って、お前ガキ以下だな、いやガキでも今時やんねーわそんなダッセェこと。さすが おっさん!おっさーん!おっさーん!おっさーん!おっさーん!おっさーん!おっさーん!おっさーん!おっさーん!』




『チカラこそ全てなのだよ、貴様らのような・・・』




『おっさーん!おっさーん!おっさーん!おっさーん!おっさーん!おっさーん!おっさーん!おっさーん!』




『チッ・・・ボキャブラリーが貧困ですね、もう一度・・・』




『おっさーん!おっさーん!おっさーん!おっさーん!おっさーん!おっさーん!おっさーん!おっさーん!』




『皆殺しにして良いですかね?気が済みましたか?』




『済んでねぇよ、済まねぇんだよ、済まさねぇんだよ!それ脱いで私とタイマンしろやコラ!おっさん!』




『睦月!!!!』『如月さんそれはちょっと・・・』


『ミントちゃん、流石に無理じゃ・・・』




『脱ぎませんよ、それでも良ければお相手します。ダメなら今から皆殺しにします。』




『なんや、見た目よりもっとクソ野郎で面白いやんけおっさん、ええでー!その代り虎徹さんの刀をワシに使わせーや、そんくらいええやろ?それでトントンにしたるわ。』




『いいでしょう、拾って来たまえ』




如月は立ち上がって深く息を吸って吐き出した。


『睦月、やめなって、機械には勝てなくて申し訳ございません。』




『パイロン、これは私には勝ち負けじゃないんだよ。てゆーか負けるつもりで喧嘩なんか売らないよ、やるからには勝つよ勝ちに行くよ、いや挑んだ時点で私は勝者なんだよ、勝利者じゃなくて勝者ね。でもぶっ倒して勝利者になるから・・・あいつボッコボコにして勝つから見てな。いい?華麗に美しく勝つから、いいよね?』


しばしの沈黙の後、パイロンが口を開き、皆が続いた。




『わかった・・・勝ってよ睦月!』




『如月さん、頼みます』




『ミントちゃん、しっかり撮るから勝ってよね』




みんなの期待を背負って如月は歩き出した。


もちろん勝算なんかない、いつもの勢いだ。


だがこの勢い、時には人間の奥底に眠るチカラを引き出すことだってあるから大事なのだ、そう、勢いも大事だ。ましてや勢いに乗せてはいけない如月が勢いに乗るのだ、嫌な予感も良い予感も、なんか色々する仲間達。


虎徹の側に行くと、しゃがみこみ、刀を手にした。


虎徹の頬に手を置き『仇は私がとるから、休んでて』そう言うと虎徹が目を開き『そのパンツ見たら元気出たよ、女子高生にしては大人なパンツじゃな』と笑顔で返した。


『見てんじゃねぇよエロジジィ』そう言いながら如月も笑った。


それを見ていたジャッカルが急かす。


『早くしたまえ、世界放送ですよ、ギャラリーがモニターの前で飽きてしまいます。』


『うっせーなぁ、ボクシング中継だって選手の生い立ちとかで試合前に1時間くらい使うじゃねーかよ、焦んなおっさん。』


『口の減らない小娘ですね』


『あ、小娘って小さい娘って書くよね?あれなんなん?年齢のこと?背のこと?イラっとすんだけど』


『器のことじゃないですか?お前みたいな低能のガキにはわからないでしょうけど』


『わかるよ馬鹿にすんな、小さい器だろ?しってるよ、おちょこだろ、おちょこ』


『早くしろ!クソガキが!!!!!!!!』


『ふふ、本性出したね大工の統領!』


如月が刀を構え、2人が向かい合った。


パワーアーマーからエアーがシュ!と一度出る。


如月は刀を上段で構え、とても自然にその場にたたずむ。




虎徹がそれを見て思う。


『如月流抜刀術・・・ワシも初めて見るが・・・・ワシの目には隙が1mmも無く見えるわ・・・構えだけで寒気がする・・・・高校生で、レースのヒモパンの女子が出す覇気じゃないぞありゃ・・・』


覇気だけで近づく事を許さない如月、その射程距離が分からないだけにジャッカルが踏み込めない。覇気をまるで蜘蛛の糸のように張り巡らせ、網にかかるモノを待っているかのようにも見えた。


パイロンも如月の出す覇気にビリビリとしたものを感じていた。


『これだから睦月は怖いのよね・・・普段抜けてるくせに、こういう時はまるで鬼か悪魔のよう・・・・で。。。。申し訳ございません。』


ここでもし如月が負けたら、恐らく全てが終わる事だろう。

他の国に寄生菌を散布したらまた同じことになる。

ゼウスのゾンキーを一掃しても何も変わらないと言えば変わらないのだ、諸悪の根源を絶たなければ、目の前にいるジャッカルを葬らなければ、この男はまた同じことをするのだ。




言うなれば、人類の未来を背負った如月。




その戦いを全人類が見守っているのだった・・・・。


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