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ひとり酒と、ロマンスの行方

初手から、ちゃんぽん。

旅先にてひとり飯の機会を得たので、焼き鳥大好きマンとして駅ビル地下の焼き鳥居酒屋を選んだ。
休日の夜、カウンター席もカップルや友達同士の客で賑わっていた。
画像のとおりビール(小)と赤ワイン(メルロー)が並んでいるのは、何も私が「のっけからちゃんぽん」を意図したわけではなく、お店の手間を考慮してのことである。こんなに混んでいる店内では、女性ひとり客の追加オーダーなど忘れられたり後回しにされる可能性もあるよなあと思い、すべての料理とドリンクを先に頼んでおくことにした。

可愛らしい女性の店員さんが「焼き物はお時間がかかるので…」というので先付け一品リストから選んだ鶏皮ポン酢が、焼き鳥のはるか後に運ばれてくるのは一体どういうことだろう、考えながら食事を始める。

つき出しが、じゅんけい。


カウンター席の人間模様

カウンター席の右隣は若い男性2人組。
片方がもう一方に「アース·ウィンド·アンド·ファイアーは曲は悪くないけどさ、俺はコテコテの感じが好きじゃないんだよね」と熱心に語っている。
中学生のときに『セプテンバー』を初めてテレビで聴いて「こんなおしゃれな曲があるのか…!」と衝撃を受けた私としてはEW&Fの良さについて語り掛けたい気もするが、怪奇R&Bおばさんになりたくないのでビール(小)を飲んで堪える。

さて、左隣は20代の男女。
青いワイシャツの刈上げくん(以下、青シャツくん)と黒いニットにキャメルのスカートの外巻きカールちゃん(以下、カールちゃん)が会話している。あえて「カップル・恋人」と表現しないのは、2人の空気感がまだ完全に打ち解けていないような雰囲気だったからだ。
これからロマンスが始まるのね…いいわね…楽しい時期よね…とメルローに手を出して1人微笑む。
(結局ちゃんぽん。)

帆立頼んじゃう。


迷走・ロマンスの行方

駅ビルでお茶・食事・飲酒をしていると、こういう場面を見かけることは結構多い。
マッチングアプリ等で出会った初対面の男女、まだ「恋人になるか」の距離を測り途中の2人。待ち合わせにも解散にも、利便性が高いのだと察する。

今回の青シャツくん×カールちゃんの場合もそうなのだが、こういう場面では男性のほうが一生懸命自分のことを語り、女性はほぼ聞き役に徹している。
それでお互いが楽しんでいるのなら全く問題ないのだが、カールちゃんを見る限りうつろな瞳、ネイルや毛先をイジる仕草、弱めの相槌…
会話に倦んでいる気がしてならない。

畳みかけるように自分の海外留学や仕事の苦労、悪友との冒険譚を繰り広げる青シャツくん。
気づいてくれ、もう食事を終えて、コップも空ではないか、青シャツくん!
せめて追加のドリンクかデザートを、生体反応弱めのカールちゃんに勧めてはどうだ、青シャツくん!!
(もう断られた後なのかもしれん。)


なんでもいいけどさ、

青シャツくんも会話が途切れぬよう自己PRに必死なのかもしれないが、カールちゃんの自己主張ターンがあったらいいのにね、と私は誰にも求められていない意見を脳内で主張する。

海外での華々しい経験や、誰をも笑わせられるネタなどなくていい。
相手の些細な日常の話を聴いて、受けとめ、「そうなんだ。」「素敵だね。」「大変だったね。」とひねりのない相槌を打つだけで、青シャツくんは『青シャツくん極みプレミアム』に昇格する可能性があるのだ。
(もちろん好みの問題なので、昇格しない可能性もある。)


盗み聞き野郎、帰る。

さて妖怪聞き耳おばさんになる前に(時すでに遅し)、ホテルに帰ることにする。
本音を言えばもう1‐2杯飲みたいところだが、我がホテルは「熟女キャバクラ」「ビキニバー」「セクシーエステ」が軒を連ねるフワーオ♡な立地のため、遅くならないうちに戻りたい。

この程度のアルコールでは酔わないが、それでもシラフとは異なる意識で夜の街を歩く。

何にせよ、誰かと待ち合わせて食事なんて素敵なことだね、と考えながら。

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