見出し画像

リンダ・リンダ・リンダ (2005)ネタバレあり

〜日常ってそんなにドラマチックじゃない〜


基本情報

映画プロデューサーの根岸洋之によるストーリー企画が、第1回日本映画エンジェル大賞(角川出版映像事業振興基金信託)を受賞し(ちなみに、受賞当時の企画名は『ブルハザウルス17』)、映画製作がスタートした。当初の企画では、留年した中島田花子が主役であった。ギャルバンがライブハウスで演奏合戦、という設定もあった。企画が行き詰まったときに、山下監督が『ほえる犬は噛まない』のペ・ドゥナをふと思い出し、映画祭で会ったことのあるポン・ジュノのコネによって出演が決まったという。ペ・ドゥナは、同監督の『リアリズムの宿』のファンであった。なお、企画の初期段階では木村カエラ主演案もあり、彼女の名も、協力者としてクレジットされている。撮影は2004年9月9日に開始され、ほぼ全てが群馬県高崎市と前橋市で行われた。また、舞台となる高校の撮影場所は、現在では旧校舎となった前橋工業高校(群馬県前橋市岩神町2-23-22)である。ほか、県内の音楽センターなども使用された。フィルム・コミッションの利点が最大限に発揮された作品のひとつであるといえる。劇中に登場する、主人公たちのバンド「パーランマウム」(PARANMAUM、파란 마음、韓国語で青い心=BLUE HEARTS)は、ユニバーサルミュージックよりCDもリリースされた。映画雑誌の『映画芸術』で2005年の邦画ベストランキングで1位を獲得している。同じく映画雑誌の『キネマ旬報』による第79回キネマ旬報ベスト・テンでは日本映画ベスト・テンで6位、読者選出日本映画ベスト・テンで3位に選出された。また、この作品の演技で香椎由宇が第29回山路ふみ子映画賞新人女優賞を受賞した。



ログライン
文化祭の数日前、手の怪我でギターボーカルがバンドを抜けることになったのを発端として分裂したバンドメンバーの残り、恵、響子、望は韓国からの留学生の孫をボーカルに招き、文化祭でTHE BLUE HEARTSの曲をやることに決める。その中で4人は恋に、友情に、青春に揺らめきながら文化祭の舞台へと向かう。

ストーリー
特に何もないストーリーゆえに主人公たちの日常がとても丁寧に感じ取れる。文化祭に間に合わなきゃ、という危機感があるわけでもなく、友情や恋をなんとかしなきゃ、ということでもない。彼女らは淡々と今の時間を紡いでいる。そんなことを訴えてくる話だった。

演技・演出
・4人の個性がとても際立っていることでもっと話を見ていたいと思わせる力がある。男まさりの(この表現も今はアウトか)香椎由宇。とにかくカッコいい上にバンドマンの元カレの前で見せる顔も可愛い。ヒロインっぽいのにわりと赤抜けきれない感じのリアルな女子高生、前田亜季(ドラムがめちゃうまいのにびっくり)。トリックスターのようなぺ・ドゥナ。間違いなくこの映画を唯一無二にした存在。そしてそれに負けない存在感を放つ関根史織(Base Ball Bear)。特に関根さんのキャラクターが他の3人がいないところにスポッといい感じにハマっていて、女優出身でない彼女の素朴さがすごくよく出ている。
・演技がキャピキャピしてる人が一人もいないのがとてもいい。誰しもが激昂したり胸ぐらを掴んだり泣き喚いたりせず、等身大の感情が丁寧にやりとりされている。それは恵(香椎由宇)と元彼の存在だったり、恵と凛子(三村恭代)が喧嘩しつつも最後のステージ裏で準備しているときに淡々と言葉を交わすところにも出ている。
・小出恵介の演技のうまさが序盤の職員室の先生との会話だけでわかる。
・メンバーがいる部室を抜けて放浪するソン。出店を見ながら売り子の真似をする。そしてステージでメンバーに対する印象を想像の観客に向かっていう。そしてそのまま何事もなかったかのように部室へ戻る。その全てが幻なんじゃないかと思うほど異色で、でも違和感なく入っている。
・留年生役の山崎優子さんがストーリー上全く必要ないのに、もはやこうやって見せられてしまうと絶対に不可欠なんだと思ってしまう不思議。後輩から見た留年生像のふわっとした感じを見事に描いている。
・最後のライブシーン、今まで関わってきた部員や先生たちが舞台袖で見守っている。その時セリフや余計な演技がないことで、かえって心情を慮ることができる。

撮影
ドリー移動で学校を動き回る彼女らを追いかけるようなエネルギッシュなショットと、プールや雨のバス停などのフラットな絵作りの両方がいいバランスを持っている。散らかった団地や部室など、全体としては奥行きを感じさせる、ごちゃっとした絵作り。

好きだったところ
・ステージ裏で準備をする恵を凛子は見つめ続けるが、恵は最初目を合わせない。
凛子「遅れてきたのが悪いんだよ」
恵「わかってる」
凛子「・・・大丈夫?」
恵「うん・・大丈夫じゃない」
そして二人がちょっと微笑む。
凛子「頑張っ・・・てよ」
恵「・・・うん」
そして恵を見送る凛子。最高です。
ちなみにこれは冒頭での二人の対立場面とも関連していてその時も凛子は「がんばってよ」という捨て台詞を残して、二人の対立が決定的になる。そして最後に同じセリフで二人の仲はもとに戻るという美しい展開。

・演奏シーンの後半、映るのは誰もいない廊下や下駄箱。その落ち着いた対比が良い。

自分だったらどう撮るか/盗めるポイント
・一番美味しいシーンにこそ、インサートを入れることで胸の中の空っぽな隙間みたいなものが感じられる。
・こっぱずかしいことは劇中の、映画監督に言わせる!

画像引用元:https://images.app.goo.gl/7vRgfzMhJ5fv8Svz7



この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?