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「嘆きのピエタ」(2012) ネタバレあり

基本情報

『嘆きのピエタ』(なげきのピエタ、原題:피에타、英題:Pietà)は、キム・ギドク監督・脚本による2012年公開の韓国映画。消費者金融の取り立て屋の男とその母親を名乗る女の不思議な関係が描かれる。出資スポンサーが無い、監督の自費製作作品だが、ただ早撮りしただけではなく「スタッフやキャストは原則ノーギャラ・興行成績に応じた出来高払い」という方式で低予算製作を成立させている。第69回ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門で初上映され、金獅子賞を受賞した。韓国映画が三大国際映画祭(ヴェネツィア・カンヌ・ベルリン)の最高賞を受賞するのは本作が初めてであった。タイトルの『ピエタ』(piety/pity)とは、聖母マリアがイエスの亡骸を抱く彫刻や絵を指す。

ログライン
幼い時に母親に捨てられて心を失った借金取りの男、ガンドが母親を名乗る女性と再会し、愛を知っていくが、幸せになるために自分が借金を取り立てるためにしてきた罪と向き合わなければならない。

ストーリー
・折り返しが素晴らしい① 冒頭から借金を返せない人々を障害者にする描写の積み上げ、それが後半の母を失いたくないと駆け回るガンドの前に次々と立ちはだかる。その構成は素晴らしかった。
・折り返しが素晴らしい② どんなことをされても力なく微笑む母、その無償の母の愛、というものを信じかけた時、母が訪れたのは冒頭で出てきたクレーンのある工場。そこで、今までの笑い、言葉、それが全てガンドに向けられたものではないことを知る。
・キリスト教に詳しければ、更に深い考察ができるのも知れない。

----この先ヤン・イクチュン監督の「息もできない」のネタバレあり----

愛を知った上での因果応報、贖罪という流れはヤン・イクチュン監督の「息もできない」に近いが、そこに母親の復讐というエンタメ性を入れている。また、「息もできない」では物理的に主人公に対して応報があるのに対し、本作は本人が罪と向き合う、贖罪という要素が多い。

----ヤン・イクチュン監督の「息もできない」のネタバレ終わり----

演技・演出
・ガンドと母が本当の親子だと疑わせない心理的暗示として、ドアに挟まれる手がある。冒頭、ガンドは借金取りにドアで手を挟まれるが、全く動じない。一方、ガンドを訪れた母もドアに手を挟まれるが全く動じない。これで観客も、ガンドも、ああ、こいつらは同じ血が流れている、と無意識に刷り込まれてしまう。
・母の力ない笑顔、愛にあふれた気遣い、それらは後半に意味が一変するが、それらが全て演技だったかというとそうではなく、自分の本当の息子のためにやっている演技、すなわち(本当の息子への)無償の愛には変わらない。力なく微笑むチョ・ミンス、素敵です。
・冒頭、床に散らばっている内臓?があり、冷たい熱帯魚みたいなエログロを覚悟したが、以降、残酷描写自体はまったく描かれない。起きていることは残酷だが、それを見せずに雰囲気で伝えるというのはとてもうまい。
・自分から子供のために障害者になると言い出す男、そして彼の生きがいはギターを弾くこと。その組み合わせがよい。そして一曲歌ったあと、機械に手を入れる。その時に軍手を咥えながら同じメロディーを口ずさむ。沈黙よりも彼の恐怖、決意、そういったものが歌に乗って伝わってくる。
・冒頭で出てくるクレーンと車いす、それがビジュアルキーリファレンスとして後半に聞いてくる。セリフではなく、絵で見せるからこそ、衝撃が大きい。
・借金を取り立てた相手を訪れるガンドに対し、母親が応対する。彼女らはガンドを罵るでなく、友達だと信じて来訪に感謝する。一方でお墓の前で借金取りには本音を罵る。それがガンドに自分がしてきたことを気づかせていく。本人に向けられるのは感謝、そして本来受けるはずの非難は受けられない、そこが重くともこってりさを感じさせないうまいやり方。
・セーターを楽しみにしていたガンドだが、ミンスを埋める穴を掘っていた時に彼女の本当の息子がセーターを着せられて埋まっているのを知る。だが、次のカットではそのセーターを着てミンスの隣へ横たわる。事の真相を知ってなお、ガンドは彼女を拒めない。
・最後、鎖に引きずられていくガンド。トラックから延々と続く赤い道、こういうのをとても映画的、というのではないだろうか。言葉では説明しないがそのカットが、主人公のしてきたこと、それらへの果てしない償い、それらを全て表している。

撮影
・中盤、カメラのズーム、それもスムーズではなく、メイキングみたいな不自然なズームが入ったり、ジャンプカットが入る。意図があるのかがわからないが、狙いがぜひ知りたい。その時点で、没入感がちょっと薄れたが、それは必ずしも悪いことではなく、ドキュメンタリーを観ているような感覚が呼び起こされた。そしてちょっと第9地区が観たくなった笑
・以下のサイトにある赤と緑の対比、あまり意識してなかったので次回確認したい。https://www.cinemacafe.net/article/2013/06/18/17616.html

好きだったところ
・借金の取り立てができなくてウサギをぶら下げて戻ってくるところ。
・最後の赤い道。
・機械に手を入れたあと、歌う男。

自分だったらどう撮るか/盗めるポイント
・登場人物に何かを気づかせるときは面と向かっていうのではなく、逆に優しさを向ける。同時にイマジナリーの登場人物に対して本音をぶつける。
・何かを失うモブには、それと生きがいを関連付けさせる。
・死ぬ、何かを失う人には関連する歌を歌わせる。
・贖罪の際は、冒頭で罪を積み上げ、後半でそれらと向き合わせる。
・どうすれば映画的なショットになるか、テーマを絵で表すには。

画像引用元:https://www.cinemacafe.net/article/2013/06/18/17616.html

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