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楽曲分析1 FLY ME TO THE MOON

個人的見解
アニメのエンディングで使われたこともあり、ジャズ・スタンダードの中でも日本では幅広い層に馴染みのある曲ですね。

関係調への転調、Circle of 5th(5度圏)、セカンダリー・ドミナントの使用やモチーフの発展あたりを勉強している方々には良い教材といえると思います。

一見シンプルに理解できそうな楽曲であっても、この楽曲のように音楽と歌詞と連動し(作詞作曲が同一人物)、特有の雰囲気を醸し出し、人の心に残る様な楽曲を作ることは容易ではありません。

構成
Aメロ(m.1-8)
Bメロ(m.9-16)
Aメロ(m.17-24)
B’メロ(m.25-32)

ハーモニー
(概略)A→B
Aメロは、Aマイナー・スケールで始まり、Bメロ前半(11小節目)までひたすら5度ずつ下降していきます。そして、BメロはCメジャー・スケールで9小節目から始まる。つまり、Aメロはマイナー、Bメロはメジャーという調性の変化によるコントラスト(対照)になっていますね。
(↓詳細)
7小節目でAマイナー・スケールのリーディング・トーンであるG#が登場し、Aマイナー・スケールを強調します。しかし、次の8小節目でAマイナー・スケールには存在しないC#が出てきて調が変わる予兆が見られます。そして、9小節目でDm7がピボット・コード(Aマイナー・スケールとCメジャー・スケールの両方に存在するコード)としてスムーズにCメジャー・スケールへ転調します。

B→A
BからAに転調する際は、特に予兆なく、16小節目にビボット・コード(Bm(b5))が現れ、ii-V-iとAマイナー・スケールへ戻ります。

A→B’
B’は25小節目から始まりますが、その3小節後にコーダ、つまり、33小節目に移動します。Bのコード進行とほぼ変わりませんが、メロディーがこの楽曲の中で最も高い音程(E)に達し、それは楽曲のクライマックスであることを示唆しています。そして、Bの後半ではAマイナー・スケールに戻るためのコードが準備されていますが(16小節目)、ここではそれが省かれ、Cメジャー・スケールを維持し、きれいに完全終止でCメジャー・コードで楽曲が終わります。ここに作曲家のラブソングをハッピーエンドにしようとする意図が感じられます。

メロディー & 歌詞
Aメロのメロディーは非常にシンプルに、4小節間隔で、順次音階で下がって、上がって、下がる、という特徴的なメロディーですね。

ここの歌詞は
「Fly me to the moon and let me play among the stars.」
(私を月に飛んで行かせて欲しい。そして、たくさんの星たちの中で遊ばせて。)

「Let me see what spring is like on Jupiter and Mars.」
(木星や火星の春がどんなものなのか見せて欲しい。)

と空想的な内容です。なんとなくですが、メロディーの流れが空を飛んで上がったり下がったりしているように感じませんか?

そして、Bメロでは、Aメロの順次音階ではなく、いきなりDからAへ5度へと跳躍し、同じ音を繰り返し、そしてゆっくり下降していきます。また、歌詞においても、Bメロは、Aメロの空想的な歌詞と対照的に現実的な言葉に言い換えています。

「In other words, hold my hand」
(言い変えると、手をつないで。)

「In other words, darling kiss me」
(言い換えると、ダーリン、キスして。)

コーダ部分は上述した通り、この楽曲のクライマックスであり、調性はAマイナー・スケールに戻らず、Cメジャー・スケールのハッピーエンドで終わりますが、そこに当てられた歌詞は「I love you」です。つまり、ハーモニーだけでなく、歌詞においてもハッピーエンドということですね。

Aメロの、歌詞をそのまま著したような、まるで空を飛んでいるかのようなメロディーの動きや、この楽曲の締めをCメジャー・コードと「I love you」という歌詞に当てているところに作曲家の意図が見え、音楽と歌詞が一致している代表的な例だと言えると思います。

まとめ
冒頭でシンプルな楽曲と言いましたが、メロディー、コード進行、転調、歌詞との連動、コントラストという点で考え抜かれて作られた完璧な楽曲だということがわかります。

余談:アントニオ猪木とFLY ME TO THE MOON

Aメロのコード進行は
Am7 - Dm7 - G7 - Cmaj7
Fmaj7 - Bm7b5 - E7 - Am7 - A7
となりますが、これを完全5度下に下げると
Dm7 - Gm7 - C7 - Fmaj7
Bbmaj7 - Em7b5 - A7- Dm7

そして、これにある印象的なメロディーを乗っけると

そうです。アントニオ猪木のテーマソング”Inoki Bom-Ba-Ye”です!!

”Inoki Bom-Ba-Ye”ではFLY ME TO THE MOONのAメロと同じコード進行だったのです。そして、それを繰り返しています。

そう考えると、メロディーの力はハーモニーを上回るかもしれませんね。「FLY ME TO THE MOON」では、繊細で空想的なラブソングを表現していたメロディーが、(実際にはテンポや楽器の影響もあると思いますが)変わっただけで、燃える闘魂・アントニオ猪木のエネルギッシュなイメージに急変してしまいます。著作権の盗作かどうかを見極める際に、ハーモニーではなくメロディーで判断するという話を聞いたことがありますが、このような理由からかもしれませんね。

歴史的背景
(※本来最初に書くべきものですが、単純にwikipediaからの引用で、若干長いので、最後にしました。)

「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」(: Fly Me to the Moon)は、ジャズのスタンダード・ナンバー楽曲。日本語で「私をに連れて行って」といった意味になる。原題は「イン・アザー・ワーズ」(: In Other Words)。

概要

1954年に、作詞家・作曲家のバート・ハワードによって制作されたもので、初演はニューヨークのキャバレー "Blue Angel" において披露、ヴォーカルのフェリシア・サンダーズ の歌唱によるものであった。ただし、この時の曲のタイトルは "In Other Words"(対訳「言い換えると」)であり、拍も3⁄4拍子で、現在広く認知されているアレンジとは装いをかなり異にしていた。この「In other words」という台詞は歌詞の中にも登場しており、現在でも本作をカバーする際に "Fly Me to the Moon (In Other Words)" というタイトルにするアーティストがいる。同年にはヴォーカルのケイ・バラードによりデッカ・レコードにて初めてレコーディングされた。その数年後(1960年)に、ペギー・リーがアルバム『プリティ・アイズ』収録曲の一つとしてレコーディング(タイトルは "In Other Words")、同時期にTV番組『エド・サリヴァン・ショー』に出演し本作を歌唱。これが切っ掛けで本作は広く知られるようになった。

ケイ・バラードによる3拍子のIn Other Words

1956年には、ポーシャ・ネルソンのアルバム『Let Me Love You』に収録された。同年、ジョニー・マティスが本作を収録する際に初めて「Fly Me to the Moon」の題が登場した。
1959年、フェリシア・サンダーズがデッカ・ヨコードより発売したシングル「サマー・ラブ」のB面に、サンダース歌唱の物が収録された。1961年には本曲をA面としたシングルがデッカより発売された。

現在多く耳にする「Fly Me to the Moon」が完成するのは、1962年のことである。作曲家・編曲家のジョー・ハーネルが4⁄4拍子のボサノヴァ風に書き直したものが、現在よく知られているアレンジの一つである。その後、1964年にフランク・シナトラがカバーして爆発的なヒットとなった。ヴォーカルナンバー以外でもインストナンバーとしても知られ、オスカー・ピーターソン等のジャズ・アーティストが演奏している。

Frank SinatraによるFLY ME TO THE MOON

Oscar PetersonによるFLY ME TO THE MOON

シナトラが本作を発表した1960年代、アメリカ合衆国はアポロ計画の真っ只中にあり、本当に『月に連れて行って貰える』のは「非常に近くまで迫っている、近未来の出来事」であった。そのため本作「Fly Me to the Moon」は一種の時代のテーマソングのように扱われ、これが本作のヒットにつながった。シナトラ・バージョンの録音テープは、アポロ10号11号にも積み込まれ、人類が月に持ち込んだ最初の曲になった。このシナトラ・バージョンは2000年の映画『スペース カウボーイ』(ワーナー・ブラザース)のラストシーン(トミー・リー・ジョーンズ演じる宇宙飛行士が身を挺してミッションをクリアした後、予定外の月にまで到達してしまう)においても使用されている。

非常に数多くの歌手や楽団がカバーしていることでも知られており、劇中曲として使用されることも多い。

その他有名なアレンジ
Astrud GilbertoによるFLY ME TO THE MOON


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