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13機種じっくり比較したら新たな深みにハマった!? 『マイクを比較しまくる集いVol.1』感想レポート

どうも。音響エンジニア、オーディオライターの橋爪徹です。
私は、音声を専門に扱う音響エンジニアです。2006年から活動を開始し、これまでWEBラジオの録音や公開録音のPA、音声系CDのミックス、ボイスサンプルの録音などを手掛けてきました。最近では、生放送のネットテレビで報道番組の音声スタッフを担当しています。

オーディオライターとしても2015年から活動しており、スピーカーやアンプ、PCオーディオからネットワークオーディオまで、ハードのレビューを始め、ハイレゾ音源やアーティストインタビューなどもこなします。
ライター業も含めたポートフォリオはこちら。ライター仕事全履歴はこちらをご覧下さい。

去る8月6日、私が主催するイベント「マイクを比較しまくる集い」の第一回が開催されました。以前、参加させてもらった「マイク会」がとても面白くて、やってみたいとずっと思っていたのです。

内容としては、参加者が持ち寄ったマイクでひたすら音声を録音し、その場で聴いて、後日データも共有するという謎の集い。これが意外にも楽しいのです!

編注:すぐにマイクのレビューを読みたい方は、下の目次から「マイクを比較しまくった感想」へジャンプして下さい。

マイクを比較するって案外難しい?

マイクによって音が違うというのは、誰もが知るところでしょう。ただ、その音質を実際に確認する方法は? 読者の方は、どうされていますか?
まず、マイクの貸し借りって、そんなに気軽にできるものではないので、横の繋がりでホイホイやっちゃうのは現実的ではないですよね。
楽器屋の店頭で陳列されているマイクは、全てが試聴出来るわけではありません。あらかじめセッティングされているなら確認もできますが、店内では騒音などもあって、必ずしも正確なチェックができる環境になっていないことがあります。
他には、専門の業者からレンタルするという方法があります。一泊二日といった借りやすい期間でレンタルすることが出来、憧れのマイクを購入前に試用できます。もちろん、レコーディング用途に短期間借りる目的でも便利です。ただ、料金は決して安くはなく、購入前に音を確認するだけの目的でレンタルするには、少しハードルが高いかもしれません。

マイクを比較しまくる集いは、宅録で仕事をする(宅録でも仕事をする)ナレーター・声優の方々に向けて、「みんなでマイクを持ち寄って、音の違いを確認してマイクに対する理解を深める」という趣旨で開催しました。
ボーカリストの方が参加対象に入っていないのは、単純に録音を担当する私が歌モノのレコーディングの経験がないためです。(ご要望が多ければ、今後検討してもいいかもしれません)

今回は、横浜マイクロホンの池田 達也さんに特別参加いただき、多数のマイクをお持込みいただきました。ときおり、池田さんから挟まれるマイクのTIPSはトリビア満載で、垂涎モノの貴重な内容でした!

どこで、何を、どうやって比較したのか

開催場所は、八王子駅前から徒歩すぐ。学園都市センターのサウンドルーム。半防音の室内は、会議用の机が並ぶ、いわゆるセミナー室でした。机をどかしてスペースを作り、付帯設備のマイクスタンドを2本立てて、持込みいただいたマイクスタンド1本を加えた3本体制のセッティング。

八王子学園都市センター サウンドルーム

持ち込まれたマイクは全13機種!

ダイナミックマイク
sakura、momiji、SM58、RE20、SM7B
コンデンサーマイク
NT2-A、LCT440PURE、P220、C-100、AT4047/SV、AT4040、AE3300、PRO70

並べられたマイクたち これだけ揃うと圧巻です……

こんなに種類があると、まるで小規模ホームスタジオみたいですね。
私が持ち込んだのは、C-100とAT4040、AE3300にPRO70でした。

参加者は、私と池田さんの他に男性と女性の演者さんを加えた少人数での開催となりました。声優の方ということで、短めな台詞を演じていただきました。余裕を持って一つのマイクに平等に声を入れていく進行は、当初の想定とは異なりましたが、厳密に比較することができたと思います。
募集したときは、その場の雰囲気とか挙手でゆるっと声を入れる人を決めて、多少声入れのアンバランス感が出ても、後日配布する音声データで比較してもらえたらいいかなと考えていたのです。
人数が少なかったのは主催者の私としても反省点ですが、数本録ったらスピーカーに出して聞いてみるという時間を取れたのは、結果としてはよかったなと思っています。(日程の問題、コロナの問題、立地の問題、いろいろ要因はあったかと…)

本稿では、いわゆる”イベントレポート”というより、各マイクの音声データを私が聴いてみた感想をお届けします。つまり、いちエンジニアある私の主観となります。オーディオライターとして、超細かい音の違いを聞き分けて読者に伝えてきた経験を元に書いていますので、何かの参考になれば幸いです。

録音は、私が担当しました。機材システムは以下の通りです。

オーディオインターフェース:Zen Go Synergy Core(外部電源 iPower II 5V
PC:16インチMacBook Pro (2019)
DAW:Pro Tools 2022.6(REC format  96kHz/32bit-float)
USBノイズ対策:iSilencer+(CC)
PCスピーカー:Creative Pebble V3 (Zen Go RCA OUT⇒3.5mm AUXIN)+インシュレータ AET VFE-4010U
マイクケーブル:MOGAMI 2534

個人的なポイントは、Zen Go Synergy Coreの64bit AFCによる高いクロッキング精度と、Pebble V3 のPCスピーカーなのにモニターライクな出音です。単体のオーディオインターフェースは、内部のクロックが必ずしもハイグレードとはいえず、(RMEのSteadyClockは例外として)どうしても時間軸上の精度が物足りないところがありました。Zen Go Synergy Coreは、価格を超える正確な音が録れていると改めて感心しましたね。ボタンを押すとカチカチ鳴るのは難点です……

RCA ⇒3.5mm変換ケーブルは、アコースティックリバイブの特注品

クロックの役割や重要性について知りたい方は、こんな記事も書いています。

マイクを比較しまくった感想

試聴は、ハイレゾ対応のミドルエンド携帯音楽プレーヤーで実施しました。Pro Toolsで書き出したモノラル音声をPCから転送してプレーヤーで試聴します。我が家で最も正確なヘッドフォンサウンドはこれになります。
COWON PLENUE R2
ヘッドフォン:YAMAHA HPH-MT8

SM58

単一指向性
周波数特性:50Hz-15kHz
感度:-56.0dBV/Pa (1.6mV)、at 1kHz

言わずと知れた、ダイナミックのド定番。手頃な価格や耐久性も評価が高いです。ハイレゾで録った音を改めて聞いてみると、意外と落ち着ける音だなと。中低域を中心にふくよかで、温もりを感じるようなバランス。高域にややしゃがれたようなニュアンスの癖があるように聞こえますが、これも味だと思いますね。繊細な表現を取り切るには不向きかも。

RE20

単一指向性カーディオイド
周波数特性:45Hz-18kHz
感度:1.5 mV/pascal、1 kHz

ブロードキャスト、FMアナウンサー向けのマイクとのこと。初めて聞きましたが、本当に声に特化した音色だなと。声の明瞭感を際立たせるために、数kHzの付近にピークがあるようです。ともすると、シビランス(サ行の発声)が目立って、耳に刺さる感じもしますが、ディエッサーなどを適正使えば許容範囲かと。解像感は高いので、台詞の表現を録るにも力不足ということはなさそうです。中域のボリュームがスッキリとしているのは好印象。

SM7B

単一指向性
周波数特性:50Hz~20kHz
感度:-59.0dBV/Pa (1.12mV)、at 1kHz

見た目のとおり、ブロードキャスト、ポッドキャスト用のマイク。YouTubeで話者の方が使ってるケースも見かけますね。音は、”低域寄りの中域”がモッコモコな印象。かなり個性的です。声に太さと存在感を与えるマイクかと思います。マイク距離は、全てのダイナミックマイクでライブのようにかぶり付きではなく、適度に離して録りました。実際にテストして近すぎ/遠すぎは私の方で調整してもらうようお願いしていたので、SM7Bにしても妥当なところで録音したはずです。特に男性ですと、低域の膨らみが気になるので、基本はパスロールをONにして低域をカットするといいかもです。(現場で試してみたかった……)

sakura/momiji

超単一指向性(sakura)、単一指向性(momiji)
有効周波数帯域:50 - 20,000 Hz(sakura/momiji)
感度:-51 dBV(2.82 mV) (sakura/momiji)

特別参加いただいた横浜マイクロホンさんのダイナミックマイク。宅録するナレーターさんの間でも話題騒然。絶賛の嵐です。私も知人の方が録った音を聴かせてもらったのですが、あまりにダイナミックらしからぬ音に感動してすぐ池田さんにメールしてしまいました。(丁寧に対応いただき、またもや感動!)
sakuraは、中低域がしっかり出て、高域は自然に伸びていて、ダイナミックマイクらしい音という感じ。一般的なダイナミック型とは、別次元のトランジェントの高さは一聴の価値ありです。音の立ち上がりと立ち上がりが、実に明瞭で繊細! ダイナミックでもコンデンサ並みに表現の味や深み、妙技を再現できるマイクです。こんな音が録れるのか!、と。
momijiは、sakuraに比べて若干低域がスッキリして、高域が少しブライトになります。トランジェントの再現性は、ほぼ同じです。中低域に美味しい成分が多めの演者さんはsakuraがいいなと思いました。特に低音系の男性の方です。女性の方は、momijiが合うケースが多いかも。どちらか一本を買うなら、まずはsakuraでしょうか。比較的オールマイティ感があります。

AT4040

単一指向性
周波数特性:20~20,000Hz
感度:-32dB(25.1mV)(0dB=1V/Pa, 1kHz)
ノイズ:12dB SPL

宅録で仕事している声優・ナレーターの方で、知らない人はいないんじゃないかと思えるくらい、有名かつ定番のコンデンサーマイク。周波数バランスは実にフラット。気になるピークもありません。解像感は価格相応に高く、3万円前半で購入できるマイクとしては十分以上のレベルに達しています。音の傾向として、人による向き不向きもないので、1万円前後のマイクを使っている方が最初に買い替えるコンデンサーマイクとしては、最適な選択肢と言えるでしょう。後述するトランスについては、入っていません。

AT4047/SV

単一指向性
周波数特性:20~18,000Hz
感度:-35dB(17.7mV)(0dB=1V/Pa, 1kHz)
ノイズ:9dB SPL(A特性)

AT4040と瓜二つですが、こちらはトランス出力タイプ。トランス有りのマイクは、マイクプリの影響を受けやすいマイクとのことで、組み合わせるオーディオインターフェースによって音が変わってくるそうです。マイクプリにインピーダンス変更の機能があるFocusriteのISAシリーズとかだと、ベストな音を探れそうです。トランス出力を持つマイクは独特の質感が出るので、それを目当てに利用するのもオツです。
ご参加いただいた池田さんに聞いたところでは、トランスレスのマイクは「周波数特性をフラットにし易い」というメリットが注目かなと思います。小型軽量にし易いというのも、意外に見逃せません。トランスは、変圧器ですので、一次側と二次側に巻き線が巻いてあります。その巻き線の比率によって、出力側(二次側)の電圧を高くしたり、低くしたりできます。マイクの出力トランスは、昇圧もあれば降圧もあるとのこと。昇圧トランスなら感度が上がり、降圧トランスなら感度が下がります。トランスが有ると、ノイルレベルを下げやすいというメリットもあるそうです。
さて、肝心の音質ですが、若干高域の伸びがAT4040よりも劣るというか、丸くなる感じがあります。その分、聴き疲れはしなさそう。空気感はあまり出なくなります。音の立ち上がり立ち下がりは少し鈍くなりますが、一方でトランス出力ならではの「アナログ感」が付加されます。単体のマイクプリを使わず、オーディオインターフェース直で録ると無機質な音になりがちですが、AT4047/SVはマイク単体でなんとも言えないオーガニックな質感を実現しています。これは何者にも代えがたい最強のメリット。AT4040の方が繊細な表現を拾いきれますが、AT4047のそれが致命的なレベルかというと僕はそう思いません。なので、有機的で血の通った音が欲しいという方には激しくお勧めです。

NT2-A

単一指向 / 無指向 / 双指向(両指向)
周波数特性:20Hz - 20kHz
感度:-36.0dB re 1 Volt/Pascal (16.00mV @ 94 dB SPL) +/- 2 dB @ 1kHz
ノイズ:7dBA(A特性)

ローカットが2段階。指向性は3パターン。パッドは2段階。あらゆる録音状況に対応するという触れ込み。スイッチの配置そのものが既にデザインとして成立しています。音は、まさに声のためのマイクという印象が強く、音声が気持ちよく聞こえてきます。フラットかと問われれば、そうではないと思うのですが、スッと耳に入ってくる違和感ゼロのナチュラルさは見事。どことなく時代を感じるのは私の気のせいでしょうか。子どもの頃にテレビやCDドラマから聞いた音色や質感を思い出します。製品説明には60年代の……とあるので、意図的なのでしょう。独特のRODEサウンド。好きな方にはたまらないと思います。

LCT440PURE

単一指向性
感度:27.4 mV/Pa, -31.2 dBV/Pa
周波数特性:グラフのみ公開
ノイズ:7 dB (A特性)

録り音をリアルタイムで聞いたときから、すごく煌びやかなマイクだなと思いました。書き出した音を聞いてみると、まず高域がブライトで主張が強いことに耳を奪われます、低域は無駄に膨らむことはありませんが、重要な芯の部分は抜けていません。声のディテールを際立たせて、彫り深く音像を描写するタイプのマイクです。言葉の節々や、滑舌を強調させて聞かせたいなら、相性は抜群かと。ただ、ちょっと高域が聴き疲れするかもしれないので、EQで後処理したいです。

P220

単一指向性
周波数特性:20Hz~20kHz
感度:-34dB re 1V/Pa
ノイズ: 16dB SPL(A特性)

AKGのマイクをちゃんと聞くのは初めてでした。モニターヘッドフォンは、昔好きで使っていたのです。確か、K271だったような。中域に特徴があって、その適度に甘い音色はAKGサウンドとして私の耳を魅了しました。マイクは打って変わって、そういった個性は抑えめ。現代的で落ち着いたウェルバランスです。価格もあってか、やや音が細いのはやむなし。高域が少々目立つのもこの価格帯のマイクならありがちなので、全然気にしません。刺激成分とまでは言えないし、許容範囲だと思います。逆に解像感は高いので、価格以上の満足感は得られるでしょう。

C-100

単一指向性/全指向性/両指向性(切替)
周波数特性:20-50,000Hz
感度:単一指向性:-31 dB(偏度±3 dB、0 dB=1 V/Pa, 1 kHz)
ノイズ:単一指向性 19dB SPL以下(A特性)

ハイレゾ録音との相性抜群。どこまでもフラットで、高い解像度を実現。トランジェントも良好で、声の粒立ちの良さにハッとさせられます。空気感も抜群です。マイク前で鳴っている音をすべて忠実に録りきる、そんな正確無比なマイク。セルフノイズさえ目をつぶれば、真のリファレンスたり得る究極の次世代マイクだと思います。ノイズの値が大きいのは、ダイヤフラムが2つあることも影響しているのでしょう。50kHzまでフラットに録れるマイクの開発はとても難しかったそうです。

AE3300

単一指向性
周波数特性:30~18,000Hz
感度:−42dB (0dB=1V/1Pa 1kHz)
ノイズ:19dBSPL

ここからは番外編です。ライブ用のハンドヘルドコンデンサーマイク。機材を持ち出して、外のスタジオや練習室で録音したりするのに便利です。高域に特徴的なピークがあって、子音が目立つように女性も男性も録ることが出来ます。台詞やナレーションには不向きですが、WEBラジオとかなら「何を喋ってるか録り音の段階で分かり易い」ので適任かもです。実際、私もこのマイクを3本使ってWEBラジオをずっと録っていました。

PRO70

単一指向性
周波数特性:100~14,000Hz
感度:-45dB (0dB=1V/Pa,1kHz)
SN比:67dB

有線のピンマイク。「無線のピンマイクを買うお金がない! でも、安価な無指向性のピンマイクだと、シャープな声が録れない!」というときに最適な製品。YouTube撮影などで、スマートに声を収音したいとき、このピンマイクで録れば、カメラ内蔵のマイクとは比較にならないクリアで聞きやすい音を収録することが出来ます。レコーダーには、DR-70Dなどを利用するといいでしょう。高域の伸びは、スペックの通り、それなりです。中域はやや盛り気味ですが、口元から離れて収録する前提なので、妥当な範囲内でしょう。

お礼とまとめ

ご参加いただいた皆さん、ありがとうございました!
そして、興味はあったけど、都合が付かなかった皆さん、次こそはぜひ! コロナももう少し落ち着くといいですね……😅

また八王子でやるか、都内のスタジオを借りるかは検討中です。マイクを持ち寄るのはハードルが高いというお声もいただきましたので、その他、ご意見・ご提案あれば、メッセージやTwitterのDMでお寄せいただけますととてもありがたき。

参加費は、無料の投げ銭制で今後もやっていきます。楽しかった、参考になった、面白かった、という気持ちをイベント終了後に「どねる」で投げ銭いただくことで、施設の利用料をまかないつつ、もしも黒が出たときは今後の展開にも活かしていくという方向性です。(オーディオライターなので、反響次第でやってみたいことあるのですよ……)

Studio 0.xが主催する、「比較しまくる集い」。
今後も、より発展させていきますので、どうかご期待下さいませ!


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