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マイクを比較しまくる集いに参加した

先日、Twitterでフォローしている音響エンジニアの方の主催する集いに参加して来ました。DTMや音声録音の経験のある方がマイクを持ち寄り、ひたすら録音してプレイバックするという、何それ最高じゃん!みたいな集まり。どうやら、こういう催しは「マイク会」と呼ばれているようです。

持ち込まれたマイクは、なんと9種類!

音源は、音声のみ! こういう集まりって、普通楽器を録音するもんじゃないかと思っていたのですが、何の偶然か声優さん2名、シンガーさん1名という布陣に。音声専門の私としては、むしろワクワクする座組となりました。


Twitterにて「 #アライさんマイク会 」で感想をつぶやいているので、そちらもご覧いただければと思います。

本記事では、備忘録の意味も込めて、各マイクの印象を述べてみます。

CM5以外は全てコンデンサーマイクです。

マイク会1

試聴環境

プレーヤー:PLENUE R2

ヘッドフォン:YAMAHA HPH-MT8

CLASSIC PRO ( クラシックプロ )   CM5

サウンドハウスの自社ブランド、クラシックプロの激安ダイナミックマイク。なんと税抜き1080円! (原価どうなってんだ!)

持ち込まれた方も「もし壊れても、買い換えが容易」と仰ってました。

そもそも周波数特性が80Hz-15kHzという時点で、「スピーチ用のマイク?」と思ってしまいます。実際、商品説明にもそのように書かれていました。

実際のサウンドは、中域をグッと押し出すダイナミックマイクの音……なのですが、高域に特徴的な色づけが感じられました。(極端に録音状態の悪いソースで)何を喋ってるか聴き取りやすくするために、DAW上で数kHz付近をEQで持ち上げることもありますが、マイク自身がそれを最初からやっている雰囲気です。

帯域バランス的に、凹凸が激しすぎて、地に足が付いていない軽めの音なのが残念です。これも価格ゆえか……

NEUMANN U47(クローンキットモデル)

U47でググると短めの胴体のマイクが出てきますが、今回使ったのは、長めの胴体のモデルでした。何でもキットモデルを組み立てて、さらに真空管も交換なさっているようです。

真空管なので、専用電源ユニットがありました。230/115Vで使えるそうで、必ずしも200Vコンセントが要らないのは便利ですね。当日は、100Vのコンセントで動いてました。

録り音は、まず質感の豊かさに聞き惚れます。真空管ならではの温かみは確かに感じれるのですが、かといって余計な歪みや雑味は皆無。とてもクリアで低域から高域までウェルバランスに聞かせてくれます。血の通った音、温度感のある音といいますか。デジタル録音しても、デジタル臭さが感じにくいんです。今回試したマイクの中でも、群を抜いて素晴らしいマイクだと思います。

AKG ( アーカーゲー )   C214

手軽にAKGサウンドが欲しい方にお勧めされるモデルみたい。

AKGのヘッドフォンは昔使っていました。モニターヘッドフォンデビューがAKGでしたね。その独特なサウンドは、一度ハマるとリスニング用にも使ってみたくなります

AKGのマイクは初体験でした。C214はずいぶん個性的だなという感想。一言で言うと、「明るい!ブライト!」って感じです。声が否応なしに華やかになる印象。これは地味目の声の人に使ったら、バランス良く録れるんじゃないかと。高域に良い感じのピークがある人に使ったら、強調されすぎてうるさくなってしまうかも。どちらかというとボーカル向きで、台詞やナレーションには、不向きかもしれません。

audio technica ( オーディオテクニカ )   AE3300

自前のマイク、1本目。ライブ用のコンデンサーマイク。ハンドヘルドです。AT2010をずっと使っていましたが、音響の仕事が軌道に乗った当時、奮発してAE3300を3本買いました。これでWEBラジオやボイスドラマなどを録りましたね。

見た目に似合わず、ダイナミクスは大きく、ちゃんとゲイン調整しないと音割れします。逆に言えば、小さい音と大きい音、それぞれ再現性が高いため、プロでも使えるマイクだと思います。

慣れ親しんだサウンドを久しぶりに聞きました。さすがライブ用マイク! 口元感というか、空気感が抜群です。(これは広帯域というより、雰囲気の話) パンチのある音なので、音像を目立たせることが容易でしょう。そして、台詞では喋っている内容が聞き取りやすいです。滑舌も同じ人比30%くらいアップしているように聞こえるから恐ろしい! やっぱりWEBラジオに使ってたのは正解だったかもしれないです。

audio technica ( オーディオテクニカ )   AT4040

自宅にもあるが、絶対被ると思って持っていかなかったら案の定、他の方が持参していました。(笑

テクニカのサイドアドレスとして、ミドルランクに当たるモデルです。私が買った当時は4万円台でしたがずいぶん安くなりました。ボーカルから楽器まで幅広く使えるいわば万能モデルだと思います。

いや~、癖の少ない真面目な音!! とにかくフラット。ただ、聞いた感覚で中域が足りないとかはなくて、核となる部分は逃してない印象。低域から高域まで誇張なくしっかり録っているので、信頼して宅録1本目のマイクに推薦できるモデルです。改めてこんなに優秀なマイクなのかと驚きました。

ただ、ここまで素性が優れているなら、音像の曇りをもう少し取り除いてほしいという欲が沸いてきますね。細かなディテールがまだ捉え切れていない感じがします。価格から考えれば「癖が少ない」ということ自体、凄いことなのですが……

まあ、いずれにしても台詞やナレーションを録るなら、宅録デビューの推薦モデルとして一覧に加えたいところです。私の知り合いのミュージシャン(チェリスト)でも宅録で使っている人いますから楽器にもお勧めかと。

RODE( ロード )   Broadcaster

こちらはラジオとか、ボイスオーバー向けのマイクだそうです。寸胴タイプのコンデンサマイクは、ほとんどがサイドアドレスと言って、ダイヤフラムが円筒に対して横向きに付いていますが、これはエンドアドレス。つまりマイクのてっぺんを目がけて声を出す、見た目はまるでサイドアドレスなのにマイキングはハンドヘルド(手持ちマイク)みたいな絵面になる訳です。

現場で「はて?なんだ、この向きは?」と私は思いましたが、そういうマイクだったということですね。

歌と合わせると、帯域が狭すぎて詰まった感じが気になります。ラジオっぽい音に最初からしたいんだと目的が決まっていればあり得るみたいです。台詞は、往年のアフレコスタジオのサウンドを聞いているようです。(ちゃんと聞いたことないけど) でも、なんか声優さんがスタジオで使うマイクってこういう音で録られているよね、って感性が反応するんですよ。不思議と。音声の帯域にスッと集中して聞けるというか、声を優しく暖かい風合いで表現することが得意なマイクです。ダイナミック型のような詰まった感じや、押し出しがある中域って方向性とはまた違う、リアリティを持って中域を大切に伝える、そんなマイクでした。

RODE ( ロード )   NT2-A

『1950年代と60年代の伝説的マイクの特徴でもあった絹のような滑らかさ』が特徴らしいです。全指向性と、双指向性、単一指向性、切り替えが可能。2種類のパッド&ローカットがあり、スイッチの取り付け場所も個性的ですね。

実売4万円台で2種類のパッドとローカットというのは、なかなかリーズナブルだと思います。使用されている部品のグレードにもよりますが、アナログ回路のローカットはデジタル処理よりも音が好みというか、加工された感が抑えられている傾向があるので、よろしいのではないかと。

録り音は、Broadcasterの癖を弱めて、高域の伸びをプラスした感じでした。本マイクは、女性ボイス(台詞)のみの録音だったため、男性ボイスが聞けませんでした。おそらくですが、RODEのテイストは持ちつつも、用途を幅広く使えるマイクに仕上げたのではないかと思います。

audio technica ( オーディオテクニカ )   PRO70

自前のマイク、2本目。ワイヤードのピンマイクです。自宅のコントロールルームで多人数を録る際に、スタンドを気にせず部屋を広く使うために買いました。

1万円台と手軽に入手できるピンマイクですが、単一指向性なので安価なマイクによくある「無指向性のため、反響も入りすぎて、音像もピンボケ気味」というガッカリ感はありません。今回試した他のマイクと比べるとオフマイク感は明らかですが、単品で使うと結構良い感じです。

特に、映像撮影で使うと効果的。ミラーレス一眼と組み合わせるこんな製品と併用すると、カメラの内蔵マイクとは比較にならない高音質で声が録れますよ! 僕も欲しい!(追記:その後DR-70Dは買いました! これ超いいっす!)

台詞を録ってプレイバックしてみると、コンデンサの音ではありますが、曇った感じは否めません。でも、喋ってる内容はちゃんと聴き取れます。映像向きのマイクであるということを再確認しました。

SONY ( ソニー )   C-100

自前のマイク、3本目。自宅スタジオのメインマイクです。

SONYの業務用マイクは、C-800Gが有名ですが、既に出荷完了となっており新品の入手は厳しいようです。このC-100はハイレゾ時代を意識して、「96kHzのセッションで制作するときに、超高域までフラットに録れるマイクが必要じゃないか」という考えから開発が始まったそうです。2つのマイクカプセルによる2ウェイ式が特徴。ローカットとパッド、指向性切替え(全指向性/双指向性/単一指向性)のスイッチが付いてます。

歌は主催者の方のDAWで、男女の台詞は私のDAWで録りました。私の持参したシステムは以下です。

DAW:ProTools 2020.5
USBケーブル:USB-1.0PL
USBノイズフィルター:iPurifier3
オーディオインターフェース:US-366
マイクケーブル:MOGAMI 2549

音声は、96kHz/32bit-floatで録りました。書き出しは96kHz/24bitで行い、48kHz版は書き出し後にXLDで変換しました。(オリジナルの再現性がバウンス時の変換より高いため)

一聴して、「現代的!」と膝を打ちます。彫りの深いディテール表現力、伸びのある高域、癖の少ない帯域バランス。まさに目の覚めるような鮮烈さを持って耳に襲いかかってきます。

正確無比、誤魔化しの効かない圧倒的なリアリティが、表現者にとっては怖いかもしれません。私も声優志望だった過去がありますので、自分の発声の癖をシビアに再現するマイクにはビビったものです。

ハイレゾで録った台詞の方は、もはやため息が出ますね…… とにかく音がクリーンなんです。付帯音(マイクの個性も含む)の一切感じられないストレートな声色が聞けることがありがたく思えてきます。

マイクは、声質や歌い方に合ったマイクを能動的に選ぶものだと言われています。それがエンジニアの創意工夫であり、面白いところでもあると思うのです。

しかし、C-100の場合は、声や楽器のありのままの姿を録るという、無個性タイプ。これはこれでハイレゾ時代にありなんじゃないかと思わせる説得力がありました。


終わりに

マイク会2

このような機会をくださった主催の方、関係者の皆さんにお礼を申し上げます。本当にありがとうございました!

Beagle Kickとして総合プロデュースもやっている私ですが、音楽の実務的なことはやっていないので、あくまでエンジニアリングは音声専門なのです。そんな私にとって、様々なマイクの音を一同に聞けるというチャンスはなかなかなく、とても貴重な経験でした。

個人的な好みで言うと、U47のキットモデルは最高でしたね。Beagle Kickでは M 149 Tubeと言うマイクを一時期よく使っていましたが、改めて真空管マイクすげー!って思いました。

そして、今後はオーディオインターフェース編も想定されているとのことでした。となると、リファレンスとして信頼できるマイクをチョイスすることが課題になってきます。今回試した中では、U47かC-100かなと思いました。本当に甲乙付けがたい。何を大事にするかによって正解は変わってくるはずです。


ということで、以上、マイク会のレポートでした。

長くなりましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました!


橋爪徹


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