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宅録音声クオリティ向上術 《番外編》 ~クロックジェネレータ導入とケーブル替えたら音激変でぶったまげ!~

橋爪 徹

どうも。音響エンジニア、オーディオライターの橋爪徹です。

以前私がnoteで公開した「宅録音声クオリティ向上術」

おかげさまで、たくさんのナレーターや声優の方々にお読みいただき、公開から半年以上が経っても、ちょくちょく買っていただけるロングセラーとなりました。読んで下さった皆さん、拡散して下さる皆さん、いつも本当にありがとうございます。

今回は、宅録音声クオリティ向上術の番外編として、比較検証企画をやろうと思います。題名の通り、クロックジェネレータを使うというだけでも相当マニアックですが、さらに斜め上を行く「オーディオインターフェースとクロックジェネレータを繋ぐケーブルを交換してみる」という企画です。

『ちょっと何言ってるか分からない』

ですよね! 大丈夫です。基本的な解説もたっぷり盛り込みましたので、クロック自体を知らない方も安心して下さい。将来役立つかもしれない、耳寄りな情報をお伝えさせていただきます!

比較検証のためにプロの声優さんにお願いして、全8種類の音声(WAV生データー)を収録しましたので、そちらも合わせてお楽しみください!

続編ができました! クロックジェネレータを使う上で気を付けたいTIPSをまとめています。ぜひ合わせてお読み下さい。(2022/4/12追記)

橋爪徹は何者か

私は、音声を専門に扱う音響エンジニアです。2006年から活動を開始し、これまでWEBラジオの録音や公開録音のPA、音声系CDのミックス、ボイスサンプルの録音などを手掛けてきました。最近では、生放送のネットテレビで報道番組の音声スタッフを担当しています。

オーディオライターとしても2015年から活動しており、スピーカーやアンプ、PCオーディオからネットワークオーディオまで、ハードのレビューを始め、ハイレゾ音源やアーティストインタビューなどもこなします。微に入り細に入り音を聞き分けて、それを文字や喋りで相手に伝える専門職です。

民生用オーディオだけでなく、吸音パネルのレビューなんかもやっています。

ライター業も含めたポートフォリオはこちら。ライター仕事全履歴はこちらをご覧下さい。

企画の趣旨

宅録音声の音質をグレードアップする方法は、たくさんあります。機材のセッティングから始まって、部屋の環境作り、アクセサリーの活用、機材のグレードを上げる、などなど。

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オーディオインターフェースを買い換えるというのも一つの方法です。オーディオインターフェースには、マイクの信号を増幅するマイクプリアンプが備わっていますし、アナログ信号をデジタル信号に変換するAD回路もあります(主に録音目的)。デジタルに変換された音声は、パソコンにUSBなどで伝送され、パソコン内部のHDDやSSDに記録されます。また、パソコンから送られてくるデジタル信号をアナログ信号に変換するDA回路もあります(主に再生目的)。また、AD/DA回路周りのアナログ回路。これらすべての動作を支える電源部も見逃せないポイントです。それぞれが音質を左右する重要な要素であり、製品のグレードが上がれば音質にも影響してきます。音質向上のために、オーディオインターフェースを買い換えるのは理にかなっていると言えるでしょう。中には、サウンドキャラクター(音色など)を変えたくて買い替えるという人もいます。

一方、外部からのクロックを入力できるオーディオインターフェースは、クロックジェネレータを追加することでさらなる音質の向上を図ることも出来ます。本企画の趣旨は、クロックジェネレータを導入した上で、オーディオインターフェースと繋ぐデジタルケーブルを交換したら音質は変化するのか?ということ。クロック信号には、いわゆるオーディオ信号(音声信号)そのものは含まれていません。にもかかわらず、本当に音が変わるのか。本記事は、そのマニアックな問いに文章と音で答えるべく、筆を進めていきたいと思います。

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↑ 上からオーディオインターフェース、マイクプリアンプ、クロックジェネレータ

なお、既にクロックやクロックジェネレータについてご存じの方は、この先は読み飛ばしていただいて、上の方にある「目次」から『クロックジェネレータ VS インターナルクロック』の項へジャンプしていただくと、すぐにレビュー部分をご覧になれます。

クロックってなんじゃらほい?

クロックというのは、デジタルの世界において、とても大切な制御の要です。音声信号をアナログからデジタルにする(AD)とき、録音された音声をDAWで再生してオーディオインターフェースでデジタルからアナログにする(DA)とき。それを正確なリズムで処理するためにクロックは存在します。(音声以外にも活用範囲は幅広いですが、本稿では音声録音と再生に絞って解説します)

いきなりですが、サンプリングレートってありますよね。「●●kHzで録って下さい」とクライアントに指定されるアレです。皆さんにとって馴染みの深い48kHzでいうと、1秒間に48000回、アナログのオーディオ信号をサンプリング(標本化)してデジタルデータに変換しています。このとき、乱れなく等間隔に48000回サンプリングするために必要な基準信号がクロックなのです。

例えるならば、みんなで一斉に同じ作業をするときに、タイミングを合わせるために手を叩いてリズム取る人を決めるとします。「パン!、パン!、パン!……」と手拍子する人がいて、みんなは手拍子に合わせて同じタイミングで作業をします。その手拍子の間隔は同じです。48kHzとか44.1kHzというPCMフォーマットは、”手拍子する人”が同じ間隔で合図を出していることを前提にしているので、拍手する人が下手=クロックの精度が低い(ズレたり揺らいでいる)と、記録される音質に影響します。マイクに入ってきた音、(正確にはアナログからデジタルに変換される直前の音)をどれだけ正確にデジタルで再現・記録できるかが変わってきます。音の再現性に直結するという訳です。

逆にデジタルをアナログにするときもクロックは重要です。デジタル⇒アナログの処理は仕組みが多様なのですが、基準となるリズムを送出するのはクロックなので、その精度いかんで、録音した音をどれだけ本来の音質で聴けるかが決まってきます。

クロックの揺らぎのことをジッターと呼びますが、ジッターが小さいとそのクロックは高品質です。ジッターの単位は、ns(ナノ[10-9] セコンド)やps(ピコ[10-12] セコンド)、fs(フェムト[10-15] セコンド)と非常に短い時間で表されます。

クロックは、オーディオインターフェースには必ず搭載されています。オーディオインターフェースに最初から備わっているクロックは「インターナル(内部)クロック」とも呼ばれます。もちろん、家庭用のデジタルオーディオ機器にも搭載されています。スマートフォンやパソコンはもちろん、ミニコンポや携帯音楽プレーヤーにもあります。

オーディオインターフェースや家庭用のオーディオ機器に搭載されているクロックの心臓部である発振器は、そのほとんどがSPXO(温度補償/温度制御なし)です。高級機になるとTCXO(温度補償型)、ハイエンドになるとOCXO(恒温槽付)が使われます。発信器には水晶が使われているのですが、発振の精度は水晶周辺の温度変化に左右されます。そのため、温度を一定にするべく工夫が凝らされています。本企画で取り上げるクロックジェネレータは、OCXOを採用している例が多いです。温度を一定に保つための容器に水晶を入れて、さらにその容器をオーブンで暖める機構を備えています。

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※写真は水晶のイメージです

超高級オーディオ向けの単体クロックや、校正用のクロックには、ルビジウム発振器を使うこともあります。さらに上は、セシウム発振器があるのですが、これはあらゆるクロックの基準となるべき存在。例えば電波時計の大元となる日本標準時間は、東京NICTにあるセシウム時計(原子時計)が刻んでいます。その標準時間を元に、大鷹鳥谷山と羽金山の送信所から日本全国に電波を飛ばしています。

https://www.nict.go.jp/JST/JST5.html

↑ パソコンやスマートフォンの時計と日本標準時のズレを教えてくれるサイト

皆さんがスマートフォンで使っているGPS。このシステムを提供するための人口衛星には、セシウムオシレーターが使われています。セシウム発振器は、1万~10万年に1秒しかずれないので、長期にわたってメンテナンスフリー。宇宙空間にもぴったりです。(最高精度のセシウムクロックは1億年に1秒程度の誤差とか!)

クロックの精度が上がることで、音質面にも様々な効果があります。如実に表れるのが、音の立ち上がりと立ち上がりの精度向上、いわゆるトランジェントの改善です。他にも、高域や低域の再現性が上がったり、位相が改善したり、空気感が増したように感じられます。

クロックジェネレータって何?

話が長くなりましたが、いよいよクロックジェネレータのことを説明しましょう。アナログからデジタル、デジタルからアナログに変換するにあたって、クロックが大事なことは何となくでもお分かりいただけたでしょうか。クロックが音のクオリティに関わってくるというのは事実としてあるものの、普及価格帯のオーディオインターフェースでは、その点(インターナルクロックの品質)を強調している製品は少ないです。

実のところ、普及価格帯(数万円から10万円前後)のオーディオインターフェースにあらかじめ内蔵されているクロックは必ずしも高品質なものではありません。そのため、外部からより高精度なクロックを供給してあげると音質が変わります。そのクロックを供給する機材が「クロックジェネレータ」なのです。

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そもそもの話をすると、クロックジェネレータというのは、複数のデジタル機器を同期させるための機材であり、マスターとなるクロックを各機器に送るための機材です。映像/放送業界でも使われていて、音質の向上は主目的ではないのですが、本稿ではこの辺りの説明をまるっと割愛します。ややこしくなるし、本題からはブレてしまいますので。

ちなみに、RMEのオーディオインターフェースですと、自らクロックの揺らぎ(ジッター)を抑制してしまうSteadyClock FSという機能を搭載していますが、ひとまずSteadyClockは例外とします。この後の話が続かなくなりますので(笑い)。RMEの製品をお持ちの方は、SteadyClock FSやほぼ全ての製品に搭載されているSteadyClockの恩恵を享受していただければよいかと思います。

外部クロックを入力できる製品の例

ここまで読み進めたところで、「いや、そんなこと言われても、クロックの入力端子なんて、自分のオーディオインターフェースには無いよ」と思っている方いらっしゃるかと思います。「自分には遠い世界の話」、「お金が貯まったらの話」と思われるかもしれませんが、ちょっと待って下さい。そんなに対応製品はバカ高くありません。詳しくは後述しますが、お持ちの製品が対応している可能性だってあります。

外部からのクロックを受け取るための入力は、WORD CLOCK IN、WORD INといった名称で呼ばれていて、端子の規格はBNCと呼びます。

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↑ WORD INと書かれたBNCの端子があれば、外部からのクロックを入力することが可能です。

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BNCケーブルのコネクタ部分はこんな感じです。差し込んで回すことでしっかりとロック出来ます。容易に抜けないようにすると共に、接点が確実に接触することで、安定した信号伝送が期待できるという訳です。

WORD CLOCKの入力端子を持つ製品は、例えばこの辺りです。

【注意】本稿で掲載している全ての機材は、相対での動作確認を行っていません。製品情報には気を付けていますが、手持ちの機器との相性や、紹介した機器同士の動作可否は、個別に問い合わせるなどしてご自身で確認を取って下さい。

TASCAM SERIES 208i 実売4万円程度

PRESONUS Quantum 2626 実売8万8千円程度

MOTU 828mk3 Hybrid 実売11万8千円程度

ご覧のように、がんばってお金を貯めればなんとか購入できそうな価格帯にもWORD INの機能がある製品が存在します。

また、もう一つの選択肢として、SPDIF入力のある製品が候補となります。SPDIF入力(本稿では同軸デジタルとします)は、基本的にデジタル音声信号を入力するのですが、ここにクロックを入力することも出来る機種が存在します。つまり音声を入力して録音するための端子に、クロックを供給して、それを元にオーディオインターフェースを動作させることが出来るわけです。クロックジェネーターからの出力はBNCが基本ですが、SPIDIFからでも出力できる機種が多いです。

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↑ オーディオインターフェースのSPDIF入力の例。SPDIFには、光(オプティカル)と同軸(コアキシャル)があって、写真で見ると上側の黄色い端子が同軸デジタルの入力端子。ここに同軸デジタルケーブルを繋ぐ。ただ繋いだだけでは、音声入力として働いてしまうので、オーディオインターフェースのコントロールアプリでクロックソースを内部クロックからSPDIFに変更する

各種メーカーや輸入代理店に問い合わせた結果、複数のオーディオインターフェースがSPDIFからのクロック入力に対応していることが分かりました。

PRESONUS Studio 1810c  実売5万円程度

クロックは、内部(インターナル)・SPDIF・ADATから選択可能。切り替えはUniversal Contorolというソフトウェアや、Macの場合はAUDIO MIDI設定からも可能。

MOTU UltraLite mk3 Hybrid 実売6万4千円程度

設定アプリケーションにてクロックソースを、インターナルからSPDIFに変更する。SPDIFのほか、Opticalからもクロックを受けられる。ただし、SPDIF / Opticalを使用する場合は192kHzには対応しない(96kHzまで)

FOCUSRITE Clarett+ 4 Pre USB 実売7万円程度

ユーティリティーソフトウェア「FocusriteContorl」にてクロックソースをSPDIFに設定する。対応サンプリングレートは、44.1 kHz、48 kHz、88.2 kHz、96 kHz、176.4 kHz、192kHz。

……ということで、あまりお手頃な価格の製品がないため、ちょっとガックリしてしまった方もいらっしゃるかもしれません。こればかりは、徐々に慣れて欲しいなと思うのが個人的な気持ちです。宅録で使う録音機材は、1万円や2万円でも構いませんが、お仕事で使うのであれば、10万円以下の製品は率直に言って高くはありません。音質も機能も違ってきますので、ぜひ前向きに捉えてもらえたら嬉しいです。

話題を戻しまして、皆さんがお持ちのオーディオインターフェースで、SPDIFのIN(入力)がある製品は、外部からのクロックを受けられるかもしれません。ぜひ、メーカー付属のコントロールアプリを見直したり、マニュアルを読み直したりしてみて下さい。

SPDIF入力にクロックを供給する場合、クロックジェネレータからはSPDIF形式でクロックを出力してあげます。筆者が使用しているCG-1000という機材の場合、AES3もしくはSPDIFという2種類のフォーマットがあるので、SPDIFに設定します。ちなみにWORD INからBNCケーブルで受け取る場合と、SPDIFから同軸デジタルケーブルで受け取る場合と、クロックの精度的には優劣はないと言われています。もちろん、(本稿の趣旨でもありますが)ケーブルのグレードによって音質に影響は出ますので、しっかり強固にロックできるBNCが望ましいとは思います。

クロックジェネレータはどんな製品が?

続いて、肝心のクロックジェネレータの実例を見ていきましょう。前述のOCXO(恒温槽付水晶発振器)というパーツは、単体でも数万円の世界ですから、さぞかし高額だと思いきや……

TASCAM CG-1800 実売21万8千円程度

アンテロープ OCX HD 実売18万4千円程度

Black Lion Audio Micro Clock MKIII XB 実売13万2千程度

ART SyncGen 実売1万6千円程度

ということで、エントリークラスの製品を選んで紹介しても、いいお値段ですね(汗

最後のSyncGenは安すぎるので、おそらく発振器はOCXOじゃなくてTCXOだと思います。スペック上の精度も値段相応な模様。これと近い価格帯のオーディオインターフェースを組み合わせたら、効果はあるかもしれません。

本稿では解説を省略していますが、クロックジェネレータというのは、そもそも1台のオーディオインターフェースの音質を向上させるためのアイテムではなく、いろんな機能や役割を持っていますから、高額なのは仕方ないのです。どうかドン引きしないで下さい(涙

ともあれ、クロックジェネレータは一度買ったら、数年で買い換えるような代物ではありません。どんどん新型が出て、さらなる高精度&高機能に追いつかなきゃ!という類いの製品でもありません。また、クロックの精度は時間と共にズレてしまうのでいずれは較正が必要なのですが、例えばTASCAMのCG-1800の場合、10~20年以内で1回必要になるというレベルの話です。そもそも、周波数安定度が高く『+/-0.005ppm/日』となっていますから、言い換えると『+/-0.0000005%/日』という訳で、ほとんどズレません。それほど較正は気にする必要はないのでは、というのがメーカーサポートの回答でした。

ちなみに、クロックジェネレータの音質への影響は、一般に時間軸精度つまり、周波数精度が重要視されますが、それよりも近傍位相ノイズが小さい方が大事という説もあります。ここを深掘りすると、オーディオの深淵に足を踏み入れることになるので、本稿では止めておきましょう。

クロックジェネレータをオーディオインターフェースに組み合わせることで、音質が変化するのは確かです。少なくとも、10万円前後~それ以下のオーディオインターフェースに組み合わせれば、その効果は絶大なものであると言えるでしょう。次項では、いよいよ具体的な音の違いを確認していきます。

クロックジェネレータ VS インターナルクロック

まず、ケーブル違い云々の前に、オーディオインターフェース内蔵のクロックと、クロックジェネレータから供給されたクロックによる音質差を確認してみましょう。使用したシステム構成は以下の通りです。我が家のホームスタジオStudio 0.xにてレコーディングしました。

オーディオインターフェース:TASCAM US-20×20 (販売終了)
クロックジェネレータ:TASCAM CG-1000 (販売終了)
マイクプリアンプ:Focusrite ISA Two
マイク:SONY C-100
BNCケーブル:COX-1.0TripleC-FM-BNC

同じ台詞を同じくらいの声量で、何度も収録しました。演じていただいたのは、フリーランスの声優・ナレーターの冷水優果さん。

当初、声優さんを公募した段階では、本記事の有料部分に音声を掲載する予定でした。収録してみたところ、ぜひとも広く聞いていただきたい音声が出来上がったため、ご本人から承諾をいただいた上で、一般公開することにいたしました。

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↑ 収録を終えたばかりの冷水さん WEBサイトはこちら Twitterはこちら

ProTools 96kHz/32bit浮動小数点数セッションで収録し、最小限の手動ノイズ切りを行っただけのモノラル音声です。ソフト側でEQやコンプ、レベルの増減は一切行っていません。C-100のローカットスイッチのみONにしています。

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INTERNAL クロック(US-20×20の内蔵クロック)

WORD クロック(CG-1000より供給される外部クロック)

いかがでしょうか。組み合わせたUS-20×20は、惜しくも終売になってしまったTASCAMのフラグシップオーディオインターフェースです。フラグシップとはいっても、5万円ちょっとで販売されていたので、ホームスタジオの入門機として適当な製品かと思います。このオーディオインターフェースに、10万円台中盤のCG-1000を組み合わせる。価格的にアンバランスかもしれませんが、オーディオインターフェースを買い換えずにグレードアップする方法として、間違いなく効果的であることが一聴してお分かりいただけるかと思います。

言葉の粒立ちがクロックジェネレータを使用すると、格段に明瞭になっています。冷水さんの少年ボイスによる表情豊かな台詞は、あえてこのような素材を選ばせてもらいましたが、繊細な感情表現が明らかにクロックジェネレータを使った方がリアルに捉えられています。なるべく同じような芝居をしていただき、波形の大きさもほとんど変わらないように声をコントロールしてもらいました。でも、聞いてみてどうでしょう。なんだか色彩豊かなお芝居に変わったように思えませんか。これはトランジェントの改善により、もたらされた効果だと推測しています。そして、空気感の向上は、一瞬違う部屋で録ったのかと思うほど、大きな変化を遂げています。特に後半「ふふっ」と不敵に笑うシーン。ゾクゾクしませんか? 声のディテールは、実に生々しくて、聞いているこっちが動揺してしまうほど口元感が出ています。

一般的なケーブル VS アコースティックリバイブのケーブル

クロックジェネレータの効果が明らかになったところで、本稿のメインディッシュ。BNCケーブルの音質差に参りましょう。前述のとおり、SPDIFでもクロックは供給可能なので、同軸デジタルケーブルでもケーブルによる音質差は現われます。これらのデジタルケーブルはインピーダンスが75Ωと決められており、ケーブル自体の違いは、端子がRCAピンなのか、BNCコネクタなのかの違いだけです。今回は、オーディオインターフェースにBNCのWORD INがあるので、BNCケーブルで接続しました。

一般的なケーブル(CANARE製 D3C01A-S Black)

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何の変哲も無いBNCの同軸ケーブル。メーカーは色付けの無いサウンドで定評のあるCANARE。ド定番のプロ向けケーブルメーカーです。

ハイグレードなケーブル(ACOUSTIC REVIVE COX-1.0TripleC-FM-BNC

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「何も引かない 加えない」でお馴染みのアコースティックリバイブ、通称アコリバのハイエンドデジタルケーブル。アコースティックリバイブは、機材の性能を極限まで引き出すべく、損失や劣化を最小限に抑えて伝送するという設計思想がすべての製品に貫かれており、スタジオユースにも相性抜群のケーブル・アクセサリーブランドです。

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BNCコネクタは、制振構造を取り入れた同社オリジナル。見た目もカッコいいです。ケーブル自体は太いですが、曲げやすく扱いやすいと思います。

その他の特徴はこちら。

・オーディオ専用導体PC-TripleCの楕円単線で迷走電流と固有の共振を解消
・フッ素樹脂による絶縁材で伝送スピードを改善
・テフロンコーティングしたフレキシブル銅管により、高いシールド性能と取り回し易さを実現
・天然シルクチューブの緩衝材により帯電防止
・ケーブル最外周は、カーボンを含浸したCSFチューブで幅射ノイズカット、電磁波吸収効果を発揮
・ノイズ除去素材ファインメットビーズを内部に装着することで、ケーブル自体がノイズ除去機能を持つ

話題は逸れますが、オーディオインターフェースとPCを繋ぐUSBケーブルには、録音している音声信号は通ります。モニター(再生)しているときも音声信号は通ります。USBケーブルで音が変わるというのは、そこそこ有名な話です。「え!? そうなの?」って思った方、マジです。メッチャ変わります。デジタルのケーブルは音が変わらないというのは、逆の意味でオカルト、言ってしまえば迷信です。

でも、クロックジェネレータからのBNCデジタルケーブルには、音声信号は通っていません。だから、「ケーブルのグレードが違うだけで音って変わるの?」って思われる方もいるでしょう。私もどこまで変わるかは半信半疑でした。とにかく、百聞は一見(一聴)にしかずなので、音声収録ではド定番の48kHzで録った音源からお聞き下さい。

ちなみに本稿で述べている音のインプレッションは、全てPLENUE R2という携帯型のデジタルオーディオプレーヤーを使って比較試聴しています。録ったときのオーディオインターフェースで聞いてもいいのですが、我が家で最も正確な音を鳴らせるヘッドフォン試聴機器ということで、PLENUE R2を使用しました。内蔵のTCXOクロックは高性能で位相ジッターは1.0psと小さいです。SN比がとても優秀で、歪み率も小さいので、我が家のオーディオインターフェースよりも正しい音でチェック出来ます。モニターヘッドフォンはヤマハのHPH-MT8を使用しました。

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CANAREのケーブル 48kHz

アコースティックリバイブのケーブル 48kHz

うっそーん! いえ、マジです。こんなに変わるんです。

繰り返しますが、音源には一切細工してないです。無音部分をカットして音声の頭と終わりにフェードを掛けていますが、それ以外は録って出しです。音量もいじってません。マイク距離も録音のたびに等距離で発声してもらうよう配慮してもらっています。

聞いてみて「アレ?」って思ったのが、CANAREのケーブルだと高域に歪み感があります。決して音が破綻している訳ではないのですが、耳障りなザラつきが中高域に纏わり付いていて終始気になります。せっかくの冷水さんの「神ボイス」がちょっともったいない録り音になっています。アコースティックリバイブのケーブルに替えると、歪み感や耳障りなピークが一掃され、ISA Twoの質感まで滑らかに感じられるようになりました。CANAREは、音量(声量)の変化に瞬時に追従しきっておらず、平面的な音声に聞こえました。アコースティックリバイブは、高域と低域のレンジも広がったように感じられ、特に中低域に芯が入ったことで、声の実在感が格段にアップしています。

続いて、音がハイレゾらしくなってくる96kHzの音源を聞いてみましょう。

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CANAREのケーブル 96kHz

アコースティックリバイブのケーブル 96kHz

いかがでしょうか。

48kHzのときに感じた高域の歪み感はだいぶ緩和されていますが、CANAREはやや高域がピーキーで耳に刺さるような感覚が全体的に残っています。その他の変化は48kHzと似ていますが、96kHzになったことによって、お芝居がよりカラフルに感じられるようになりました。CANAREは単体で聞くと悪くないのですが、比べてみると平坦な演技をしているように聞こえます。アコースティックリバイブで録った音声は、感情がコロコロ変化するゲーマー少年の躍動感を十二分に味わうことができます。それこそ役者さん自身の表情の変化まで浮かんできませんか? アコースティックリバイブのケーブルで送ったクロックでは、冷水さんが絶妙なコントロールを行いながらも、カラフルにお芝居をなさっている様子が実によく分かる音声になっていると思います。

最後に僕も滅多に録らないフォーマットである、192kHzで録った音源も聞いてみて下さい。

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CANAREのケーブル 192kHz

アコースティックリバイブのケーブル 192kHz

ここまで来ると、192kHzの音のリアルさに聴き惚れます。私は、96kHz以上でハイレゾらしくなり、192kHzは思わず目をつぶりたくなる音に変わると、評論でも書いたことがあります。まさに冷水さんがスタジオに来てくれて生で台詞を言ってくれているような錯覚に陥ります。CANAREのケーブルでは、「録音されたリアルな音」って感じなのが、アコースティックリバイブになると「今そこで発声してくれている生の音」って感じられるから驚きです。思わず収録ブースのドアを開けて、「冷水さん、最高でした!」ってもう一度お礼を言いたくなる、そんな圧倒的なリアリティがあります。CANAREも192kHzまでくると、単体で聞いたら何の不満もないのですが、BNCケーブルを変えることで究極のリアリズム、マイクはここまで正確に声を記録しているという事実を思い知ることになりました。人間の聴覚は、周波数よりも時間解像度に敏感といわれていますが、改めてクロックの重要性を思い知ると同時に、ケーブルの違いにここまで影響されることに驚きと少しの戸惑いも覚えます。BNCケーブルが変わることで、オーディオインターフェースに供給される信号が高品質になり、より機材の性能が引き出された……その結果が音声にも現われていると思います。

なお、今回使用したCOX-1.0TripleC-FM-BNCは、実売7万4千円程度ですが、価格を抑えたモデルであるCLOCK-1.0BNC-TripleC-FMもあることを補足しておきます。CLOCK-1.0BNC-TripleC-FMは、実売1万4千円程度ですが、COX-1.0TripleC-FM-BNCのノウハウをいくつも取り入れているため、実力も上位モデルに肉薄すると思われます。私は、普及価格帯の同社製RCAケーブルをオーディオ用途で使っていますが、「これでも十分音が良い」と思えるクオリティです。それほど普及価格帯の製品のクオリティは良質です。

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CLOCK-1.0BNC-TripleC-FM 実売1万4千円程度

アコースティックリバイブは、無料貸し出しサービスを実施しています。往復の送料は負担になりますが、実際に試して効果を確認してから購入を決められるのは嬉しい取り組みですね。興味のある方は、試してみては。

なぜデジタルケーブルで音が変わるのか

そもそも論として、デジタルケーブルとはいっても、信号を伝送しているのは銅線であり、流れているのは電気信号です(光デジタルは除きます)。当たり前ですが、電気はデジタルではありません。アナログの物理現象です。ということは、ケーブルの素材や構造が結果に影響しないわけがないと考えるのが逆に自然とさえ思えます。例を挙げると、ケーブルの外側からの外来ノイズが信号に混入し伝送先の機器で悪さをするだとか、ケーブルの構造が柔だと振動の影響がノイズとなってこれまた伝送先の機器で悪影響を及ぼすだとか、音が変わりそうな理由は存在します。ここでいう伝送先の機器とは、今回の場合オーディオインターフェースです。デジタル情報(0,1,0,1の情報)そのものは変わらないとしても、伝えるべき情報と一緒に余計なノイズなどが伝送先の機器に運ばれてしまい、結果として悪影響を及ぼすのでは無いか、ということです。

ただし、クロック信号を正しく伝送できない、いわゆる「ロックしない」といった現象は、ケーブルの種類違いでは起きないと思います。そこまで症状が出てしまうなら、機材かケーブルが故障していると思われるので、本稿のテーマからは逸れます。要するに、目に見えた不具合が出ていない通常状態をさらに改善するのがハイグレードなデジタルケーブルの効能と言えるのかもしれません。デジタルケーブルには、いろんな意見があっていいと思いますが、少なくとも私はそう考えています。

おわりに

いかがだったでしょうか。宅録音声クオリティ向上術の本編やおかわりもそこそこマニアックでしたが、本記事はそれに輪を掛けてマニアックになってしまいました。技術的な話は、なるべく簡略化するか省略して「クロックジェネレータの役割と効果」「BNCケーブルの違いによる音質差」この2点が伝わるように努めました。

宅録をなさっている皆さん、音を良くする対策はいろいろやってきたけど、さらにもう一段上を目指したい、そんなときにクロックジェネレータは選択肢の1つかもしれません。そして、オーディオインターフェースとクロックジェネレータを繋ぐケーブルにも目を向けてもらえたら嬉しいです。

ここまで読んでいただきありがとうございました!

続編を書きました! クロックジェネレータを使う上での留意点、お役立ちTIPSなどより深く掘る内容になっています。本記事が面白かった!興味深かった!という方、ぜひ買って応援して下さると嬉しいです。今後の活動の励みになります。

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橋爪 徹

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