見出し画像

【設計と実物】夢の防音室を作るまで Vol.4

どうも、こんにちは。

オーディオライター、音響エンジニアの橋爪徹です。
ハイレゾ音楽制作ユニットBeagle Kickでは総合プロデュースも勤めています。

前回は、物件を選ぶ過程を紹介しました。満足する物件を選ぶのは本当に大変で、内見候補を絞り込むことがまず難しかったことを覚えています。予算はもちろん、防音室を作るという大前提はハードルを高くしていました。それでも奇跡的に駅チカの良さそうな物件が見つかり、売買交渉を進めていきました。
次はいよいよ設計を作ってもらう段階に入ります。
物件あっての防音室。事前の夢や妄想は膨らみますが、これからは現実の話です。
はたして、私の防音室はどうなるのでしょうか。

このnoteでは私が防音室を作るまでを書き残すことで、オーディオファン・映画ファンにとって部屋を作ることを身近に感じて欲しいと思っています。
「別世界の話」、「金持ちの道楽」といった、ある種突き抜けた行為だと思わないで欲しいのです。連載を終える頃には、その意図が伝わっていたら本望です。

いよいよ設計スタート!序盤のひな形を特別公開!

一番最初に設計が始まったのは、1回目の内見を済ませたころでした。
私の場合はアコースティックラボの担当が同行してくれたため、割と早い段階で図面を引き始めてもらいました。物件が決まる前から描いてもらえるのは、そうそう無いことだと思うのでありがたかったです。

最初の図面はこんな感じです。

画像1

間取り図と現場で実測した内寸を元に作った図面です。(拡大図はこちら
この図面からは、防音のために壁が厚くなるということと防音ドアは廊下側とWIC(ウォークインクローゼット)側の2枚使うということが分かります。

本記事で掲載する図面は、高解像度版Googleフォトにアップしています。記事と合わせて文字の確認などにご覧下さい。

購入の意志を私が仲介会社に示すことで具体的な交渉が始まります。
予算の厳しい私は、事前に防音室の見積もりが決まらないと物件の購入に踏み切れません。そのため、より具体的な図面(=具体的な見積もり)をあらかじめ確認する必要がありました。具体的な図面を作るためには、内装や電気設備などの仕様面を打ち合わせることはもちろんですが、「設計図書」の閲覧が必須です。
設計図書は、建築基準法によると「建築物、その敷地またはこの法規で規定されている工作物に関する工事用の図面(現寸図その他これに類するものを除く。)及び仕様書をいう」とあります。建築士法では、「設計図書とは建築物の建築工事の実施のために必要な図面(現寸図その他これに類するものを除く。)及び仕様書」となっています。
つまりは建築工事をするために必要な図面になります。住宅を購入する人間が閲覧できるのは、工事が終わった後で業者から管理組合などに提出される図面と仕様書です。
仲介会社から、売り主側の仲介会社経由で管理会社に保管されている設計図書の閲覧承認を取り付ける。すごい面倒な手続きを踏んでようやっと許可が下りました。管理会社にアコースティックラボの担当と私で設計図書を閲覧しに行きました。

画像2

手慣れた様子で担当さんが設計図書をチェックしていきます。管理が雑で順番メチャクチャでしたが、20分くらいで完了しました。設計図書を見ることで、コンクリートの壁や柱の厚みとか設計時の内寸や階高など具体的な図面を引くための情報が得られます。換気口の位置とか、電気配線のルートなどもチェックできましたね。

設計図書閲覧後に作ってもらった図面がこちら。

画像3

画像4

一気にリアルになりました!(拡大図はこちらこちら
埋込みスピーカーの位置や机の配置まで描かれています。収録ブースにケーブルを通す穴が設けられていますが、これは自分のリクエストです(一枚目の図面)。これがあれば防音室からマイクケーブルなどを通すことができます。よく見ると、窓が塞がれてます。これは後述します。


要望を伝え設計に反映 夢の防音室がすぐそこまで!

このあたりまで来ると、インテリアや細かな仕様の打ち合わせが必要です。
私は、アコースティックラボが近所ということもあり、直接出向いて担当さんと話し合いました。(次回お届けする”とある用事”でも出向いており、何度か口頭ベースで打ち合わせは実施していました)

画像5

壁紙の色、造作スピーカーのネットの色、吸音パネルの色、床板の模様や色、パネルを固定する帯板の色、サンプルを見て決めていきます。新築はもちろんリフォームの経験もないので迷いましたが、収録スタジオとしての機能も持たせるという方向性を軸に選んでいきました。(担当もアドバイスをくれます)

画像6

当日検討の資料として描いてもらった図面。ここまで具体的になると、テンションも上がります。あまりにもカッコいいので、本当に自分が作ってもらう防音室なのか、非現実感まで沸いてくる有様。実に夢があります!
これを元に細かな仕様を話し合いました。

【打ち合わせで説明のあった仕様】
・入り口側の防音ドアは、設計図書閲覧の結果、特注で作らないとサイズが合わない(汎用品より高さが低い)。
・WIC(収録ブース)へのドアは内開きで決定。外開きにすると防音室側のプロジェクターに引っかかるため。
・窓はシアター使用時に遮光する必要があり、遮音性の高い窓はコストも掛かることから撤廃で決定。
・吸排気システムは、排気のみ先行して決定。出口近くに設けて脱衣所へダクトを通す。給気は、もう一度現地調査をしてダクトの位置を検討することに。
・スクリーンは予算の関係でワイヤー式を設置する。天井にコンセントを設置することで将来の電動化にも対応。
・BDプレイヤーとAVアンプの置き場所を相談。前方中程に決定。 ⇒ プロジェクターに至るHDMIケーブルの長さを算定 (10m)
・サラウンドスピーカー(計4つ)は少し高めの位置にある。リスニングポイントに向けてやや下向きの角度を付けてもらうことに。
【こちらからリクエスト】
・コンセントの位置を検討。アンプやプレイヤー近くのコンセントはセンターではなく右寄りにしてもらう。
・天井照明はLED。最初はスポットと通常照明の2スイッチだったが、通常の照明は奥と手前で分けて別々にON/OFFできるようにリクエスト。

内見のときにアコースティックラボから提案があり、工事は引っ越しした後に始めることになっていました。間取りが一番奥の部屋で資材の搬入も廊下を通るだけで済むことから、居住しながらの工事は可能だろうという判断です。私自身、当時住んでいたアパートの家賃をなるべく早く終わらせたいということもあって、二つ返事で了承しました。
居住しながら工事というのは、必ず実現できるわけではなくケースバイケースになるでしょう。

コンセントの位置や個数を決めたのもこの打ち合わせです。
屋内配線とコンセントおよびサラウンドスピーカーの配線はアコースティックリバイブの製品を使って欲しいとリクエストしました。私がBeagle Kickの活動でも信頼を寄せる同社の製品は、「何も引かない、加えない」をコンセプトに音源や機材本来の音をそのまま鳴らしてくれます。オーディオライターとして、音響エンジニアとして業務をやる上で最適な製品と思い選択しました。各種製品は私のツテで入手し、工事開始日までに用意しておくことになりました。
また、プロジェクターや天吊り金具、シアタースクリーンは事前に私が買っておくことになりました。アコースティックラボに任せることもできますが、料金的にカツカツだった私は自分で調達することに。こちらも工事開始初日までに用意します。
引っ越して数日で工事が始まる予定のため、注文のタイミングや配送の日にちに気を付けましたね。

ということで、対面での打ち合わせを踏まえて描いてもらった図面がこちら!

画像7

図面1(拡大図はこちら

画像8

図面2(拡大図はこちら

いかがでしょうか。
実際に出来上がったときのイメージが伝わるでしょうか。
まだ引っ越してもいない段階で、この図面を見たときの興奮といったら…
今でも思い出します。必ずあの物件を購入してみせる、資金計画なんとかしてやるという強い決意が漲ってきた日のことを…

設計を担当したアコースティックラボに伺ったところ、橋爪邸の設計についてコメントをいただけました!

橋爪氏の部屋に限らず、全ての案件で必ず検討していることは部屋の寸法比率です。つまり部屋の間口、奥行、天井高の3つの関係ですが、これが悪いと定在波という現象により、特に低音域の響きのクセが強い部屋になってしまうため、大きな音は出せても音楽を楽しめる部屋にはなりません。
マンションの場合は床と天井のコンクリートの高さが絶対的な制約となるので、その中で天井高をやりくりするしかありません。幸い橋爪氏の場合はたまたま比率が良かったので問題になりませんでしたが、問題ある場合は壁の位置を調整したり、壁や天井を斜めに傾けて定在波による影響を小さくすることを検討します。
この行為によって部屋の基本的な形が決まりますが、これを当社では「基本設計」と捉えており、基本設計ができていれば後は細かな事案に対応していく作業に入ります。
これは山登りで例えるとわかりやすいかもしれません。登り口を間違えなければ、あとはルートに沿って登るだけですが、登り口を間違えるとゴール=良いリスニング体験にはなかなかたどり着けないのと同じです。
基本設計はマンション、戸建て、中古、新築に限らず、全てにおいて最も重要な設計行為ですが、これは計画の早い段階であればあるほど有利です。橋爪氏のように購入前の段階で基本設計ができれば、適切な方針を早い段階で出せるため、安心して物件購入に踏み切れるわけです。


実物はこうなった!選り抜きポイント解説

では、この図面を元に実際の部屋にどう反映されたか、いくつかピックアップして紹介しましょう。

画像9

図面1 廊下からの入り口のところに「+130」と書いてあります。
これは遮音のため床が分厚くなり、本来の床面から13センチ上になることを意味しています。13センチといってもイメージし難いと思いましたので、シャチハタとか置いてみました。

画像10

図面1 左側に「床縁切りライン」と書いてあります。
これが床の縁切り部分です。コンクリートの上に浮き床を作るのですが、その基礎の段階から完全に分離しています。スピーカーが置いてあるエリアの床振動をリスニングエリアに伝えないようにする工夫です。

画像11

図面2(A) 「棚板」「吸音パネル」と書いてあります。
吸音パネルは棚板にはまっていますが、可動式となっており手動で位置の移動が可能です。外すこともできます。
写真の真ん中に金属がありますが、これが棚板の中に入っていてパネルが落ちないように支えてくれます。(画鋲で貼ってある布はシルクです)

画像12

図面1 右下ラックの辺りに「梁下配管 要カバー」と書いてあります。
これは実際の図面と工事内容が異なったパターンです。事前の図面では、エアコンの配管はいったん壁から露出してエアコンに入るはずでした。(図面2 Cの図と合わせてご覧下さい)
しかし、実際に解体して工事を進めていくと、エアコンの真裏から接続できることが判明。ご覧のように配管が露出しないクールでカッコいい仕上がりになりました!

画像13

図面1 「造作化粧梁
天井に全部で7本の化粧梁が描かれています。図面2のAとCを見ると天井にほど近い場所に設置されているのが伝わるかと思います。
これは、アコースティックラボの提案で実現した飾りです。もともとの階高が高くないことから、どうしても天井が低くなり圧迫感が出てしまう懸念がありました。
天井を白い壁紙にすることはもちろんですが、この化粧梁を渡すことで実際よりも天井を高く錯覚させることができるそうです。LEDの照明も拡散されるからムード感があります。

ということで、ずいぶん長い第4回でしたが、設計の始まりから実際の反映についてイメージが沸いてきたでしょうか?。

次回は、少し中休みを挟みます。
時を少しだけ戻し、私がアコースティックラボの協力を得て行ったとある収録テストをレポートします。
防音室における響きの重要性、私が求める響きとその研究、そんなテーマでお送りします。
どうかお楽しみに!

技術監修:アコースティックラボ

よろしければサポートをお願いいたします。お気持ちだけでも構いません。 いただいたお金は今後の記事の充実などのために活用させていただきます。