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松岡正剛「日本文化の核心」-日本文化について理解出来ているか?

日本という国についてどうすれば理解できるか
日本文化とは何か自分の言葉で説明できるか
松岡正剛「日本文化の核心」には日本文化について考えるヒントが散りばめられている


そもそも日本はあやふやな国家である
皇統も謎めいたところが多く、神話のイザナギノミコトとイザナミノミコトの国産み信仰のように国家としては起源年も不明確である
日本という国号も「にほん」とも「にっぽん」とも読める
本書で触れらているように、8世紀ごろの統治機構である大和朝廷も大和を「やまと」の訓読みも「だいわ」の音読みもでき、どこかミステリアスな面を感じる

年間行事も曖昧さを内包している
仏滅の日にケルト民族行事のハロウィンを祝い、キリスト教行事のクリスマスの1週間後には神道行事として氏神様を迎える
最近流行りの言葉でいえば多様性があるとも表現されるが、起源も知らずに狂乱している様は猥雑さを感じる

本書は日本文化の定義やサブタイトルにある「ジャパンスタイル」について直接的回答は無く、即座に理解できる内容にはなっていない
これまでの日本論の名著のように限定された範囲の日本論ではない
核心とその周辺を重層的に考えることで日本という対象物に迫ることが出来る

著者は松岡正剛
夥しい文字数で書物について語るウェブサイト「千夜千冊」を主催する編集工学者である
紅白歌合戦でYOASOBI「夜に駆ける」が披露された角川ミュージアムの館長も務める

本書を一言で現すなら松岡正剛によるライブだ
黒板を前にした一方通行の講義形式ではなく読者と双方向の形式で進むライブだ
過去に類を見ないほど洋の東西、時の前後、形の有無、対象の硬軟を問わず語り合う内容だ
さながらプラネタリウムのナレーションを聴き遠い宇宙空間に思いを馳せる感覚に近い
読者と共にプロジェクターで映し出された映像を見ながらストーリーテラー松岡正剛による日本についてのライブである
一般的な日本礼賛でも日本批判の論調でもない
松岡正剛の言葉を借りるならばまさに「寿ぐ」リズムで洗練された文体で進行する
松岡正剛のフィールドである「編集」とは異質なモノを掛け合わせて付加価値を生み出すことだ
本書も言葉と言葉繋いで文章となり、文章を繋ぎ合わせ日本という物語に到達した一冊である

本書のエッセンスは295ページ目「第14講 ニュースとお笑い」の「社会文化がモノカルチャー化している」という一文に集約している
松岡正剛も「分かりやすさ」のほうに大きく流れていっていると言うように社会全体が単線的、簡便的なものを求めている
試しに「日本文化」とGoogleで検索してみると「日本文化 とは」「日本文化 分かりやすく」とサジェストされる
検索結果は約0.76秒で得られた、非常にインスタントである
それで理解したつもりになっていいのだろうか
しかしデジタル的な表層的理解でいいのだろうか

松岡正剛の知識の幅広さにも驚かされる
「型・間・拍子」の「定型の成立」では米津玄師にまで言及が及んでいる
77歳を超えながらJ-POPヒットチャートの覇者まで対象物とすることに知的好奇心を感じる
米津玄師も「アイネクライネ」ではアコースティックギターのシンプルな弾き語りの一方、ボカロPとして打ち込みを多用する面もあり音楽を編集する第一人者だ

日本とは何か、日本文化とは何か
核心の周縁をぐるぐると周り数多くの名著、言説に触れそれでも失速せず語りあげていく松岡正剛の力漲る姿勢に打ちのめされる一冊だ


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