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醤油と私と彼女と

海外に行くと、食の違いに驚くことが少なくない。

インドに行くとカレーの違いを如実に感じるし、台湾に行くと水餃子のあまりのおいしさに感動したりもした。
この”違い”は、感動をもたらしてくれると同時に、時に悲しみももたらす。
世の中には、自分に合った食べ物ばかりではない。

それは日本でもたびたび起こり得る。

僕は心底、醤油が好きだ。

醤油をそのままかけて食べるものというのは、意外と限られている気がする。
お刺身、お豆腐、漬物、そして卵かけご飯。
僕が頻繁に口にするのはこれくらい?

生活の中に醤油は欠かせないという日本人は少なくないと思うが、僕を含め福岡のひとたちにとってはわけが違う。と思う。

醤油屋さんの数も日本で一番多いし、正直なところ福岡の醤油が日本で一番おいしい。

異論は認めない。

この醤油というのは南に行けば行くほど甘くなり、北に行けば行くほど甘みはなくなっていくらしい。

つまり、沖縄が最も甘くて、北海道が最も塩辛いらしい。

僕も含めた福岡の人たちは、この甘い醤油をべったりとつけて、刺身なんかも食べる。
その姿たるや、醤油をより味わうために新鮮な魚が用意されていると言っても過言ではない。

こんなに醤油が好きなのだが、僕自身、実は醤油アレルギーで食べすぎると唇あたりが腫れたり、痒くなったりする。

神様は、なんて試練を与えたんだ。

醤油をこよなく愛し、醤油と共に人生を歩んできた僕が、地域による醤油の違いを如実に感じたのは彼女ができてからだ。

僕の彼女は鹿児島出身で、地元から醤油を送ってもらっていた。
ある日、彼女の家で卵かけご飯を食べようとした時に気付いた。

「??、、!!!」
醤油が甘い!

九州の中でもこんなに違うものか。

申し訳ないことに、その醤油が本当に食べられず、それ以降は彼女の家に僕の好きな醤油を置かせてもらうようにした。

そんな彼女が、冬にお餅を焼いて食べた時、ただでさえその甘い醤油に砂糖を加え、”さとう醤油”と称し、おいしそうにお餅をほおばっていた時などは笑ってしまうほかなかった。

鹿児島の醤油以外でも、そういったことはよくある。
四国に旅行に行ったこともあるが、魚が旨い!!と豪語するある居酒屋に行った時も、僕の前では、醤油が塩辛い店と格下げされてしまう始末だった。
かわいそうに。

福岡以外の醤油のアンチと化している僕だが、その醤油に悪気があるわけではないことも重々承知している。

おそらく他県の人間からすると、福岡の醤油が甘すぎる、ということもあると思うし、様々な批判、不満、文句、嫌悪、排除運動、等々あるだろう。

だが、この重大かつ命に関わる問題は、お互いを認め合うしか解決が見えない。

食も含めた文化というのは、生きてきた証であるし、この違いに良し悪しをつけるのは健全ではない。

自分の中で、”この醤油がイチバン!”。これで終わりでいいのだ。

そう結論付けた僕は、行く予定も、行く将来も見えない銀座の超高級お寿司屋で、

「お醤油でお食べください」
なんて言われたらどうしましょう、などと意味のない妄想ばかりしている。

「My 醤油があるので、そのお醤油は結構です」
などと答えたりなんかしたら、長年にわたる修行を経た寿司職人にはムッとされやしないだろうか。いまだに答えは出ていない。

行く予定がなくてよかったな。

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