なるべく一人で作るマーダーミステリー

1.前置き

 2022/2/8 記事を少し更新(追記:3.⑦,4.(8))
 2022/9/11 記事を少し更新(追記:3.⑧,⑨,➊~➌,4.(9))

 今回は、マーダーミステリー(以下、マダミス)の作り方について書きたいと思います。
 なるべく自論めいたものは入れず、私が見知った方法を紹介するサーベイ論文的なものにしつつ、一例として「自分の場合はこうしました」というように記載したいと思います(思っていましたが、後半はだいぶ好き勝手に書いてしまいました)。
 ご紹介する文献は、有料のものもあるため、「勝手に内容開示してんじゃあねーよっ!!」という場合がございましたら、ご連絡いただければと存じます。「詳細は、当文献をご参照ください」とするつもりですが、書き過ぎがあれば、削除したいと思います。

 それから、なぜタイトルが「なるべく一人で作る」かというと、マダミスの作りやすさや完成度は、「テストプレイが何回できるか」「複数人でチェックできるか」というところで大きく変わってくるかなと思います。
 今回は、なるべくテストプレイをやらずに、修正も一人で行う前提で記載したいためです。

 前置きの最後で、注意点を記載します。
 著者ですが、オンライン用のマダミスを4作品リリースしています。
 最近リリースした「その復讐は誰の手に」「錯視アンタイトルド」という2作品を振り返りつつ記載するため、先入観なしのまっさらな気持ちで遊びたい方は、プレイ後までこちらの記事を読むことはお控えください。
 もちろん、両作品についてのネタバレはございませんので、この記事を読んだ後でもプレイは可能です。

2.とっかかり

(1)どこから考えるか
 マダミス作成において、まずどこから取っかかるか、というところから考えていければと思いますが、『マーダーミステリーフェスティバル2021』のYouTube Live で印象的なお話がありました。

 テラゾー様、ひろゆ~様のトークのなかですが、「マダミス作る時ってギミックとかから作ってますか?ストーリーから練ってますか?」という質問に対し、御二方とも「キャラクターから作ってます」という回答でした。

『マダミス配信GMの頭の中』マダミスフェス2021

 一方で、同イベントでの、酒井様、秀島様のお話のなかでは、以下の手順でプロットを練ると述べておられます。
コアとなるおもしろを作る
(コア=現実に存在し得ない事象であるほど魅力的)
②上記①を現実に存在させる環境を作る
(例えば、天井にドアがないと不可能な殺人だった等)
最後にキャラを作る
 ねじ曲がった環境を作ってしまう(ほど狂った)キャラを作る
 ⇒ 一癖あるキャラが自然に出来上がる

「マダミの監修という仕事・Rabbitholeの作り方」マダミスフェス

 考え方が多種多様で、非常に面白いですね。
 「どういうテーマで作るか」「どこに重きを置きたいか」ということなのかな、と私なりに解釈しました。

(2)テーマ
 テーマという言葉がよいか分かりませんが、マダミスを作る上でまずは、その作品の「柱」「核」「中心」をどこに置くか、という点から考え始めるかと思います。
 テーマ性について、もう一つ印象的な話をご紹介します。久保様のゲームマーケットでのご講演の内容ですが、作品づくりの準備として「夢 妄想 好きなこと」をメモすること、まとめること、これが準備の半分以上を占める、というものです。

ゲムマライブ2021 その5

 私の場合も、「好きなこと」をテーマにすることが多いです。元々理系っぽいもの(物理、宇宙、次元、波、統計など)が好きだったため、「錯視アンタイトルド」という作品では、錯視をテーマにしたい!というところからスタートしました。
 そこから、錯視に関連するギミック、トリック、ゲームシステムを考え、必要となる環境(場所や人物)設定を逆算的に構築していく、という方法です。

 ここで、最初の壁にぶち当たることになろうかと思います。トリックが思い浮かばない!というものです。序盤に考えなくてもよいかもしれませんが、ミステリーと銘打っている以上は、核となる仕掛けやトリックをどこかで考える必要があります。

(3)核となる仕掛け・トリック
 トリックの作り方については、私自身もあまり多くの文献を見つけられていませんが、知り得る限り、いくつかご紹介します。

短編3人用マーダーミステリーを作るワークショップ【マダミスの作り方】

 マダミスに特化したものでは、じゅら9様のこちらの資料がございます。「トリック先行型で作る」「トリックのアレンジ」という章があります。
 ワークショップ用ということもあり、かなり具体的に書かれていて参考になります。

 その他、ミステリー小説における方法として、以下がございます。

ミステリー「トリック」の作り方—「常識反転法」によるトリックの発想方法

 こちらも具体的に書かれていますね(水族館の例がおもしろい)。

 次もミステリー小説における内容ですが、以下で紹介されているものを引用いたします。

ミステリーの書き方 (幻冬舎文庫)

 「トリックを考える時は、最初は自分自身の素朴な疑問から出発するべきだと思います。逆はあまり成功しません」(東野圭吾氏)
 この言葉を知ってから、日常で生じた疑問を大切にしていますが、トリックに直接結びついたケースはまだありません。一朝一夕とはいきませんね。

(4)キャラクター設定
 次に、キャラクターについて考えたいと思います。
 マダミスフェス2021の酒井様、秀島様の対談のなかでも、マダミスは群像劇だ、というお話がありました。また、文献は忘れてしまいましたが、プレイヤーキャラクターの中に主人公を置いてはいけない、という話もよく耳にします。プレイヤー全員の満足感をなるべく均等にする配慮ですね。
 私自身、プレイヤー全員が「自身こそ主人公」と思えるキャラ設定を、と意気込んでいた時期がありましたが、全員がキャストの2番目くらいに考えた方が、バランスを整えやすいと最近は感じています。

 ここで、最適なプレイヤーキャラクター数はどう決めたらよいでしょうか。上記の通り、主人公を作らず、端役を作らずを心掛けると、自然と人数も決まってくるかと思います。
 このキャラは○○という役割、と振っていって、ちゃんと役が振れる最低数が、最適な人数かなと思います。

(5)場面設定
 この章の最後のテーマは、場面(舞台)設定についてです。場面描写は没入感を左右する重要な要素なので、しっかりと書く必要がありますね(耳が痛い)。
 私の場合、以下の文献を参照することがあります。

場面設定類語辞典 類語辞典シリーズ

 海外の事例なので直接使えないこともありますが、事例も多いためとても参考になります。
 類語辞典シリーズは他にもいろいろあるので、困ったら参考にするとよいかもしれません(感情、性格、トラウマなどがあります)。

3.具体的な作り方

 実際に作品を作った手順に沿って、具体的な作り方を書こうと思っていましたが、あまり新鮮な内容にならなさそうでしたので、若干逃げですが、文献紹介に委ねたいと思います。

①マーダーミステリーの作り方
 私が最初に読んだ指南書です。オフラインの作品制作をイメージして記載されていますが、オンライン用に置き換えても問題ないかと思います。
 制作するうえでのポイントが非常に分かりやすく書かれています。とにかく制作のモチベが上がります。「伝える」ということが大事だなぁと改めて思う内容です。

②マダミスの作り方と売り方(オンラインマーダーミステリー)
 方法論が網羅的に記載されており、私がイメージする作り方に近いなかで、ここまで意識が及んでいなかったので気をつけねば、と思える内容が書かれています。
 「ミステリーファンがマダミスを作るには?」という視点が近いかなと感じました。

③短編3人用マーダーミステリーを作るワークショップ【マダミスの作り方】
 トリックの作り方でもご紹介しました。手順が非常に具体的です。実際に試せていませんが、こちらのワークショップの方法に沿って、制限時間内に一つ書き上げるという企画はぜひやってみたいですね。

④マーダーミステリーをつくろう
 こちらも方法論が網羅的に記載されています。更に、イラストをどうするかという点に言及があり、非常に参考になりました。
 また、キャラクターに質問していくことでそのキャラ作りを深めていく方法が紹介されています。脚本作りでも聞いたことがある方法です。

⑤最速で仕上げる!マダミスの作り方!
 動画付きです。視聴しながら、実際に手を動かして制作を進められるので、最初の一歩を踏み出すのに適しているかと思います。
 魅力的なキャラの作り方、どうやって人間臭さを入れるか、という方法が紹介されており、なるほどなぁと感じました。苦手なところ。

⑥マーダーミステリー白書
 個人的に、最も参考になったと感じているかわぐち様の記事です。
 上記の通り、方法論が書かれたものは多々ありますが、その匙加減について言及されているものはこちらの記事くらいかなと思います。例えば、キャラクター同士の相関を持たせましょう、とよく言われますが、どの程度関りを持たせるべき?ということが言及されていたりします。
 「監修で見ているコト」などは特に参考になる内容が多いです。

⑦マーダーミステリーのゲームデザイン
 中村様のnote の記事です。具体的な手法・方法論について記載されており、非常に為になりました。「インタラクション(相互作用)」や「インタラクション的ムーブ」の章が、特に参考になります。常に意識しなければいけないところですが、考えることが多くて、抜けがちになる部分です。
 恐らく、この辺をプロットの段階からしっかり考慮に入れてから、シナリオ執筆に入っていくのがよいのだろうと思いました。いっそチェックリスト作ってしまうのもありかもですね。

⑧初心者のためのマーダーミステリーの作り方
 目新しい内容はあまりないものの、How to が網羅的、俯瞰的に書かれています。ボリュームは結構あります。
 Kindle Unlimited でも読めるそうです。

⑨君がマダミス作家になるために
 最も為になったと感じた文献です。二人の著者様により、前後半に分かれております。前半はエッセンス、後半はより発展的な内容という位置付けですが、どちらも非常に参考になりました。
 前半のデザイン(DTP)のお話と、後半の「ドリフト学概論」と称した創作論については、この文献でしか知り得ない事柄と感じました。

<マダミス作品の資料集・メイキングなど>
 以下では、特定の作品に紐づく資料集などについて、ご紹介いたします。

 ネタバレがあるので、作品を遊んでからではないと読めませんが、一度遊んでしまえば、作者様の意図がどのように反映されたかが明白なので、非常に参考になるかと思います。

➊マーダーミステリー「仄日の筆(そくじつのふで)」メイキングセット
 メイキングのかたちで、制作の過程やどういった考え方で作られているかなど、非常に具体的に書かれています。
 『仄日の筆』はデザインの要素も美しい作品ですが、その部分についても過程を公開いただいており、とても参考になりました。

➋追憶の旅を終えて -ランドルフ・ローレンスの追憶 オフィシャル・パンフレット-
 Rabbithole さんで遊んだ後に購入しました。
 制作秘話が書かれており、どのようなコンセプトで作られたかなど記載がございます。ナレーション・セリフ集を読んで改めて感じますが、表現や文体がとても上品で艶やかな作品です。

➌マダミス「シュレーディンガーの密室」設定資料
 作者の白岩ぱんだ様のGMで遊ばせていただきました。
 設定資料集ですので、ハンドアウト集や台本シート集がメインですが、制作の際のコンセプトのようなものがところどころに記載されています。
 設定資料に至るまで、デザインが綺麗です。本当に凄い。

4.実際に作るうえでの個別論点

 ここまででマダミスの作り方のご紹介はある程度できたかと思いますので、ここからは好き勝手書きたいと思います。
 実際にマダミスを作るうえの論点ということでトピックス的なものを述べていきたいと思います。

(1)どの層をターゲットに置くか
 よく言われるマーケティングの話です。いとはき様が分かりやすく思考開示してくれています。

マダミス製作の手記

 「自分の作品がどの層に刺さるのかを意識する」「自分の作品を届けたい範囲を明確化させることで、作品のコンセプトが決まってくる」という点は非常に大事だなぁと感じました。
 私の場合、「佳作を作りたい」というのが制作のコンセプトにあります。クオリティを担保しつつ、プレイヤーの遊び方を邪魔しない、無難なシナリオを書きたいと考えています。

(2)攻撃力と防御力
 マダミスのシナリオには攻撃力と防御力があると思っています。
 攻撃力の高いシナリオとは、世界観が独特過ぎるもの、尖ったもので、それゆえに魅力的なシナリオです。例を挙げるならば、ドクドグラがまさにそれだなと思います。

精神崩壊マーダーミステリー 『ドクドグラ』

 次に、防御力の高いシナリオについてですが、防御力≒納得感というイメージです。防御力の高いシナリオとは、キャラクターの行動が心情と結び付いている、推理導線に飛躍がない、ゲームシステムに穴がない、物語の結末がしっくりくる、各キャラクターを担当したプレイヤーの満足度が均一などが挙げられるかと思います。
 私が制作するうえでは、とにかく防御力を上げることに労力を全振りします。理由は、
・なるべく一人で作る
・「夢 妄想 好きなこと」を詰め込む
という2つの時点で、ある程度の攻撃力は確保できるからです。
 シナリオの初稿を書き終えたら、後は、無用なこだわりはすべて捨て、ひたすら納得感を高められるようにバランス調整しまくる、くらいがちょうどよいと考えています。

 ここで念のため補足いたしますが、攻撃力と防御力は排反の関係にある訳ではないと思っています。先に挙げたドクドグラは、防御力もとても高めかと思います。おすすめ作品!!

(3)オリジナリティとはなに?
 前述の攻撃力に関連した話ですが、オリジナリティってどう生まれるの?というテーマです。既にオンラインのマダミスはめちゃくちゃ数があるので、だいたいはネタが被ります、とはよく言われることかと思います。
 オリジナリティは組み合わせだと、最近は考えるようになりました。

 一例を挙げます。サカナクションというバンドは、ダンスミュージックとギターロックを融合させ、そこに文学的な歌詞、時にはボヘミアンラプソディのオマージュまで取り入れたりしています。組み合わせによってオリジナリティを獲得し、唯一無二のバンドとなったと思います。

(4)極力自分の趣味・思考は排除する
 今度は、防御力に関連した話です。
 一人で「夢 妄想 好きなこと」を詰め込んだ結果、ナニコレ?というネタが入ってしまうことが多くなります。私の場合、音楽、犬・猫、ジョジョなどですね。
 一つ前に、急にサカナクションの話題を出しましたが、急にどうした?と思われたでしょう。それです。
 押しつけがましさを排除することが、防御力を高めることに繋がると考えています。
 とはいえ、すべて排除する必要はなく、「これは作者の趣味だから関係ないな」と思わせて、実は意味があったことが後で分かるように仕掛けると、作者とプレイヤーがwin-winの関係になれます。

(5)マダミスは本格ミステリーか
 急にぜんぜん違うトピックに飛びます。この話、好きなんですよね。イケメン様の記事です。

考察:マーダーミステリーにおける"ミステリ"とは?

 もう一つご紹介、くりくり様の記事です。

マーダーミステリーはミステリーか?

 マダミスはゲームであってミステリー(小説)とは違うから、その辺意識しなきゃダメよ、というお話です。全く以ってその通りなので、制作の過程で強く意識するようになりました。

(6)一人称と二人称
 こちらもぜんぜん違うトピックです。キャラクターシート(ハンドアウト)は、一人称(私は、僕は、我輩は、など)か、二人称(あなたは)のどちらで書く方がよいか、という話題です。
 二人称で書く場合、地の文で書かれたものは、100%そのままの意味として捉えられるべきとなるかと思います。例えば、「あなたは、山道を歩いていた。そこに青い林檎が落ちていた。」とあれば、青い林檎は林檎であって梨であることはあり得ないかと思います。
 一方、一人称で書く場合、そのキャラクターの主観に基づいた記述になるので、客観事実が出てこないことになります。先ほどの例では、「私は、山道を歩いていた。そこに青い林檎が落ちていた。」という文章自体がやや不親切になってしまいます。「そこに青い林檎が落ちていた。」が主観なのか客観なのか分からないからです。修正するならば、「私は、山道を歩いていた。そこに青い林檎が落ちているのを見つけた。」となるはずです。この場合、「青い林檎」は主観ですので、本当は梨だったかもしれない可能性が残ります。
 いずれにせよ、主観に基づきミスリードを誘うのは、作者がプレイヤーを騙したと解釈されることがあるため、防御力が下がる(納得感が薄れる)ことに繋がります。この手法を使う場合は、細心の注意を払う必要があります。

 上記の一人称と二人称の話は、私はこのように考えていますが、全員が全員このように考えているかは自信がないです。よりキャラクター視点で物語を進めさせたいならば一人称の方がフィットする、という程度で捉えていただければと存じます。

(7)犯人特定の導線
 この章の最後は、方法論的なテーマです。話が色々飛んですみません。
※犯人導線について、改めて読むと、やや断定的過ぎる気がしてきました。
 正解はないと思いますので、筆者の一考察ということでご容赦ください。


 まずは、「犯人以外がすべての情報を出し切ったときに、犯人が一意に定まるか」という指標で考えればよいかなと思います。
 ここからはオープン型(カードあり)かクローズ型(カードなし)かで異なると思うので、それぞれ言及いたします。

①オープン型の場合
 犯人導線を3つの要素に分けると分かりやすいかなと思います。例えば、凶器、タイムテーブル、動機の3つです。
 凶器は、その凶器がどこにあるか、どのように用意されたか等から絞れる要素です。
 タイムテーブルは、被害者を最後に見た時間や死亡推定時刻とキャラクターの行動履歴から絞れる要素です。要はアリバイです。
 動機は、そのまま犯行動機ですね。快楽殺人なども考えれば、動機なんて何でもあり得るから、要素にはならないのですが、「要素にならないにも関わらず、情報として作品に入れ込んでいる」ことが犯人導線の要素になるものです。
 先入観を与えるもの、と捉えると分かりやすいかなと思います。被害者を憎んでいたならば、まずはそのキャラを第一容疑者にさせて、そのキャラを中心とした情報整理をさせよう、などと設計するとよいかと思います。

 3つの要素が決まったら、公開情報としてどの濃度で出すか、を調整していくことになります。3つの要素がすべて一人のキャラクターに向いてしまうと、かなり犯人不利になってしまうので、

・そのうちの2つまでしか公開されないゲームシステムとする
・残りの1つはほぼ気付けない激ムズ要素にする
・犯人や犯人に協力する人物のみが知る情報とし、隠し通せるようにする

などが挙げられます。
 そのうえで、犯人側が重要な情報カードを引いて情報を握りつぶせるように設計することで、「毎回のゲームによって、3つの要素がどの程度まで公開されるか」という幅を持たせることができるかと思います。
 犯人側が情報を隠しやすいような配慮も必要かと思います。取得カードはいつでも全体公開してよいとしてしまうと、怪しまれたら結局公開せざるを得ない状況となってしまう可能性があるため、全体公開に条件を付すなどのゲームシステムでの工夫が何らか必要かと思います。

②クローズ型の場合
 いくつかの要素に分けるという点は、オープン型と同じです。ですが、オープン型と異なり、犯人側が隠せる情報が限られているため、フルオープン状態を前提に、犯人導線を調整することになります。
 そのため、「情報は揃っているのに、なかなか真相が見えてこない」状態を作り上げなければならず、バランス調整が非常に難しいです。

 一つの解決策は、時間コントロールです。ゲーム進行とともに、情報を開示していき、もしかしたらこういうことでは?という方へ誘導していく方法です。しかし、これもやり過ぎると、序盤の情報だけでは真相が全く分からず、最初の議論は何だったの?となりかねないので、その辺の匙加減が非常に重要です。難しいですね。

(8)マーダーミステリーにおける起承転結
 マダミスはよく演劇に喩えられますが、演劇の脚本では、「起承転結」が大事みたいです(もしくは、「序破急」の三幕構成にすることもあるそうです)。
 マダミス制作でも、ゲーム内での起承転結を意識するとゲームデザインが非常にイメージしやすくなるように思います。マダミスにおける起承転結のうち、「起」「承」「結」は、例えばですが、
 ・「起」:物語の導入(イントロダクション)
 ・「承」:全体議論のはじめ
 ・「結」:エンディング
というように割と分かりやすいと思います。
 制作として気を配る必要があるのは、「転」をいかにデザインするか、だと思います。ゲームの後半から終盤にかけて、隠されていた真実が明らかになる、キャラクターが行動を起こす、実際に場面転換する等、その作品を特徴付ける事象が起こる、プレイヤーが起こすことで転換させることになります。
 この「転」をゲームの後半から終盤にかけてうまく引き起こすことが作者の腕の見せ所かと思います。それも、あたかもプレイヤー自身の選択により、「転」が引き起こされたと思わせるように設計することがベストかなと思います。
 評判のよい作品を遊ぶと、大抵、この「転」の部分の設計が巧妙だなと思うことが多いです。店舗公演では特に。

(9)「納得感」を高めたいと思ったら
 最近よく思うことを追記します。割と今まで述べてきたことを否定しているかもしれません。

 納得感(≒防御力)が足りないなぁと感じたら、まずやるべきは、理屈や論拠の補強です。が、そもそもゲームとして成り立たせる時点で、何の矛盾も違和感もなく、誰もが納得するバランスを保つには限界があります。

 納得感を高めたいなら、夢中のままでいさせる、正気に戻させない、これしかありません。
 マダミスに限らずですが、夢中でプレイして感想戦で語彙力なくなって「めちゃくちゃおもしろかった!」「すごかった!」となる作品が素晴らしいです。後から思い返して、「この部分はちょっと唐突でよく理解できなかったなぁ」とかはどうでもいいです。プレイ後に思い返してもらえている時点で、その作品は素晴らしいものだったと思います。

 当たり前ですが、「よくできてる」作品と「おもしろい」作品は、別なんですよね。何かよく分からんがめちゃくちゃおもしろい、が一番強いです。

5.GM用ガイド

 ここまでは、マダミス制作の中でも、シナリオやゲームシステムについて言及してきましたが、GM用ガイド(GM用マニュアル)について触れたいと思います。
 はじめに、にっしー様の記事をご紹介します。

GMフレンドリーなGMガイド制作:より多くの人に遊んでもらうために

 こちらの記事の後半に、GM用ガイドで必要な項目が列挙されています。私の場合も、こちらの項目に沿ってガイドを作成しています(プラスして、GM用Q&Aも付けるようにしています)。

 また、マダミスフェス終了後の交流会において、psyka様から参加者へ、以下のアドバイスがございました(すべて聞いていた訳ではないので、網羅されていないと思います)。

・ダウンロードファイルを開いたときに、最初にアクセスすべきデータファイルを明確にする
・GM用ガイドの最初に目次を付ける
・上から順番に読んでいけばGMができるように記載する
・ガイドは印刷される場合があるため、背景を白とする、もしくは白のものを別途用意する

 株式会社に例えると、プレイヤーはお客様、GM様は株主に当たると思い始めたので、最近では、GM用ガイドは特に丁寧に作らなきゃと心掛けています。

6.テストプレイについて

 最後の章になります。テストプレイ(とそれによる修正)についてです。作品の防御力を高めるうえでは、最も重要な工程かと思われます。
 テストプレイのやり方について、最も参考になるなぁと感じたのが、序盤にもご紹介しました久保様のご講演です。

ゲムマライブ2021 その5

 最初の20分のアドバイスを大事にせよ、など非常に興味深い内容です。こちらのご講演はすべて、大変参考になる内容ばかりなので、マダミス作成の様々な過程のなかで意識できるようにしています。

 上記の内容も踏まえて、「なるべく一人で作る」という制約がなければ、

①シナリオの初稿制作とテストプレイ後の修正は別の人が担当した方がよい
②上記①の前提のもとでは、テストプレイはやれるだけやった方がよい

と思っています。
 しかし実際は、テストプレイにご協力いただける方が限られる、一人で制作している、修正に充てられる時間が限られる等の現実的な縛りのなかでテストプレイを行っていくことになろうかと思います。

(1)何回やればいい?
 私の場合、3回です。一人でシナリオを書いて、修正していると、これくらいの回数で頭打ちとなる可能性が高いです。
 なお、GMレスの作品の場合は、3回のうちの1回をGMレスのテストとしています。制作者はゲーム中聞いているだけで、プレイヤーの一人に進行をお任せし、GMレスでも成立するかチェックするものです。

(2)何を気を付ければよい?
 当たり前ですが、「何をチェックしたいかテストプレイ前に明確にしておく」ということかと思います。テストプレイ後に記載いただくつもりで、アンケート項目を作成しておくとよいと思います(実際に記載していただくかどうかは、プレイヤーの方からアンケートとかありますか?と聞かれた場合にのみ、お出しするようにしています)。

 プレイ後に指摘された事項については、すべて列挙し、無理なく抗弁できるか書き出すようにしています。
 頭の中で何となく、ここはこういう意図で作ったんだけどなぁと思い返すだけでなく、ちゃんと記載してみることが重要だと思います。改めて言語化してみると、ロジカルでなかったり、無用なこだわりを入れているだけだったり、修正点に気付きやすいと思います。
 指摘事項とその内容についての抗弁、抗弁できない場合は修正の方向性を一通り書き、それらを全て終えてから、シナリオの修正に取り掛かるようにしています。

(終わりに)

 以上で、こちらの記事は終了となります。
 なるべく自論を含めず、サーベイ記事にしようと思っておりましたが、後半は好き勝手書いてしまいました。

 お読みいただき、ありがとうございました。 

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