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マーダーミステリーはミステリーか?

1-1.はじめに

最近、マーダーミステリーとミステリーの関係について議論が起こったり
私自身考えるところがあるのでブログの形で私の意見をまとめてみました。最初はどうしてもミステリーとはなんぞやとの話になるし、なんだか長くなってしまいましたが、興味ある見出しだけでも読んでいただければ幸いです。

1-2.自己紹介


知らない人もいると思うので自己紹介しますとくりくり(twitter: @kurikuri3sei)と言います。
マーダーミステリーにはまっていて、最近「古鐘のなる頃に」という作品を作りました。好きな作品は業火館殺人事件です。

ミステリーは古典作品が好きです。一気に読むともったいないので少しずつ読んでいるところです。

1-3.この記事の目標

論旨がずれないよう、この記事の目標を定めておこうかと思います。

目標は
・マーダーミステリーとミステリーの違いを整理する。
・本格ミステリってどういうのなの?という人におすすめを紹介する。とします。

2-1.ミステリーとは

本来の意味合いはミステリーとは神秘とか不思議まで含むと思いますが、ここでは推理小説のことを指すものとします。
では、推理小説とは何かというと作品中に謎が提示され、それが解かれる過程を楽しむ小説と言えるでしょう。

謎自体は殺人じゃなくてもかまわないと思います。消えた財布の謎を追いかけるでも立派なミステリーの範疇です。

一方で例え殺人をテーマにしていたとしても、犯人・殺害手段・動機は最初から判明していて謎が存在せず、あくまで警察や探偵との心理戦を主に扱うものはサスペンスなどのジャンルに含まれると思います。

2-2.ミステリーと本格ミステリー


さて、ここで「本格ミステリー」という概念を紹介します。
本格ミステリーとはミステリーの中のジャンルの1つです。

さて、本格という名前からなんだか重厚なイメージがありますが、実際なにをもって本格というのでしょうか。

これについては解説はたくさんあり、検索すれば沢山でてきますのでここでは詳細を述べず紹介だけに留めます。
例えば
http://www3.plala.or.jp/Baldwin/mystery/what%27s_honkaku/what%27s_honkaku.htm
を見れば大体分かると思います。

が、ここでは議論が拡散するのを防ぐため、以下のような考えで本格ミステリーを再定義してみたいと思います。

先ほど推理小説は謎が提示され、それが解かれる過程を楽しむ小説だと述べました。

私はこの記事内ではその推理小説を2つのジャンル
①提示された謎につき、読者が小説内の情報からきちんと解ける点を意識したもの。これを本格ミステリーとする。
②特に読者に解ける手がかりを用意するわけではなく、あくまで探偵等が謎を解く展開を楽しむことを目的としたもの。これを非本格ミステリーとする。

として分けたいと思います。

ここでミステリーに詳しい人の中には、いやいやその定義はほにゃららら~~~などと色々物申したくなるかもしれません。

が、ここでジャンル論争を行うのは本意ではないので
どうしても受け付けなければ私が勝手に、単純に本格という単語を用いずに
①:読者が解けるようにしたミステリー
②:読者が解けることを気にしていないミステリー

と分類したと思ってください。

そしてここが重要なのですが上記分類において「トリックの有無」は問わないものとします。


もっとも①であれば大体は何らかのトリックが用いられていますが、トリックがあるからと言って①とは限らず、②のケースも有り得るということです。

2-3.(脱線)新本格ってなに


人によっては新本格という単語を耳にしたことがあるかもしれません。
これはミステリー小説の世界において、犯人がトリックを駆使して犯行を行う古典的な本格と言われるジャンルに対し、どちらかと言えばリアリティのある犯罪を題材にした時期がありました。社会派推理小説などと言われています。

そして結果としてですが上記で言うなら、①より②のパターンで描かれることが多かったと思います。
そういった中、ある時再び本格ミステリーを!という意識をした作品が出てきました。
綾辻行人先生のデビュー作「十角館の殺人」がそれです。

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以降、本格要素を含む作品を総じて「新本格」と呼んだりします。
非常にざっくりいえば、本格→社会派→新本格 の流れです。

上記①か②かの観点で言えば本格と新本格に区別はないと私は考えます。

2-4.本格ミステリーはあくまでジャンル分けの話であって別に高尚とかそういうわけではない


さて、ミステリーとかあまり普段読まない人の場合、どうしても「本格」という単語を聞くと本格の方が偉いというイメージを受け取るかもしれません。
本格イタリアンと普通のイタリアンであれば前者の方がなんかすごそうです。

ですが、この記事におけるミステリーの定義ではそういう意味合いではありません。

例えばかの「シャーロックホームズの冒険」は誰もが一度は名前を聞いたことがあるミステリー短編集だと思いますが、ここに載っている作品群は上記ジャンル分けで言えば私は②だと思います。

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シャーロックホームズの推理過程を楽しむ話ですが読者が解けるようにフェアな手がかりの記述があるとは私は言い難いと思います。

ですが、それはかの短編集の面白さの評価とは全く別軸です。本格かどうかは単なる分類であることが分かって頂けると思います。

*そもそも本格という呼称は日本独自ですしね

2-5.フェアとは


上記の例でさらっと「フェア」という単語が出てきましたので軽く補足します。本格ミステリーの作品を評する時よく「フェアかどうか」という概念がでてきます。
①:読者が解けるようにしたミステリー
なのですから、読者が手がかりや伏線を追って考察すればきちんと解けるものでないといけません。

例えばですが、密室殺人があって真相として隠し通路を利用した殺人だったとしましょう。
この時、隠し通路の存在につき明示的でもさりげなくでもいいのですが、作品文中内にきちんと知ることが出来るように手がかりがあれば「フェア」、
隠し通路につき全く言及されておらず、最後の最後に実は隠し通路があったのでしたー。という場合は「アンフェア」と言われます。

2-6.マーダーミステリーはミステリーか?


ようやく本題に入れます。マーダーミステリーはミステリーか?
この問いに私はYesと答えます。

既に述べたようにミステリーとは
「謎が提示され、それが解かれる過程を楽しむ」ものですから
Yesでしょう。

①:読者が解けるようにしたミステリー
②:読者が解けることを気にしていないミステリー
の違いはここではマーダーミステリーがミステリーであることに影響しません。

2-7.マーダーミステリーとは本格ミステリーか?


さて、ここが一番の難題です。これにはあえて分かりやすく言えば
Noだと思います。

もっというとYesであろうとするとマーダーミステリーとしての楽しみがかなり削がれる危険性が高いと思います。

①:読者が解けるようにしたミステリー
をマーダーミステリーに置き換えると
「手がかりは全て提示されて、非犯人プレイヤーは論理的に考えればきちんと犯人を特定できる」
となります。ここでの犯人とは参加者のうちの誰かが担当するものとなります。

それがどういうゲーム展開になるかは、マーダーミステリーに参加したことがある人ならまあ想像しやすいでしょう。犯人側からすると非常に辛い展開となります。

一方でまた当然、手がかりはマーダーミステリーではしばしば隠されるものです。
その点も本格ミステリーのイメージとは相容れないのではないかと思います。

この点を掘り下げたい人はイケメンさんの記事
https://ameblo.jp/ikemen410/entry-12612862340.html
をご覧ください。非常に丁寧に書かれています。

3-1.マーダーミステリーとは推理小説の世界に入るかのような体験ができるについて~その1~

さて、マーダーミステリーの紹介キャッチフレーズで「推理小説の世界に入るかのような体験ができる」というものがあります。

私はこの言い回しはヒキが強く魅力的なフレーズだと思いますが、誤解を大いに含むミスリードな表現だと思っています。こちらについては批判するつもりはないのですが、もし気分を害した方はごめんなさいと最初に言っておきます。

上記の「推理小説」は
①:読者が解けるようにしたミステリー
②:読者が解けることを気にしていないミステリー
に分類されることをきちんとケアした上で述べるか、別の言い回しをするべきだと思っています。


3-2.(ちょっとだけ寄り道)ミステリー小説の好きな人って①(本格)と②(非本格)のどちらをイメージするものなの?


私が断言しましょう!①です!やはりミステリーと言えば本格ミステリーです!それ以外はミステリーにあらず!

…というと猛烈な反発を食らうでしょう。
いやいや推理小説読む際にそんな推理しないことが多いし、②で面白いものなんていくらでもあると言う人の方が多いんじゃないでしょうか。

じゃあ②と断言するのもどうでしょうか。これまた謎なんだからフェアであるべきである!という人もたくさんいるんじゃないでしょうか。

結局どちらもそれぞれ好きな人がいるし、別に相容れないものでもないです。

ですが、ここで大事なのは上記の違いを意識しているのがどれくらいいるのかという話で、①が好きな人はミステリーと言えばまず①を連想するし、②が好きな人は②を連想する傾向があるように私には思えます。

相手がミステリーという単語を使った場合、果たしてどちらの意味で使っているのかなあというのは私は割と気になります。
幸い材料には事欠かないと思うので、ミステリーという単語を用いている発言・呟きを拾って、①と②のどっちの意味か考えてみると面白いです。

3-3.マーダーミステリーとは推理小説の世界に入るかのような体験ができるについて~その2~


ここまで書くと、このキャッチフレーズのどの点がミスリードを含むのか分かる人もいるのではないでしょうか
このキャッチフレーズだとミステリーと言えば①のイメージを持っている人には期待していたものと違うものとなります。

(本格)ミステリーの世界に入れると聞いたのに手がかりは隠されるし、仮に手がかりが全オープンになっても犯人が決まらないことがあるし、場合によってはエンディング後の解説を聞いても全然納得せんぞー!ってなるのです。

色々慣れている人にとっては「いや、それはミステリーイベントへ行きましょう」となるのかもですが、とにもかくにも
「推理小説の世界に入るかのような体験ができる」と聞いて来たので、彼らにとっては騙された感があるんじゃないかなと思います。

ましてや時々聞く「マーダーミステリーはマーダーミステリーというジャンルでありミステリーとは別」という主張は
「マーダーミステリーは推理小説の世界に入れる体験」
というキャッチフレーズに惹かれた人にとっては「どっちやねん!嘘つき!」となっても仕方ないんじゃないかなあと思います。

3-4.じゃあなんて言えばいいのさ


誤解があるよとだけ言ってもしょうがないので以下代案ですが、
「従来の推理ジャンルにはない新しいミステリー体験ができる」
あたりはどうでしょう?商売としてのヒキの良さは犠牲にされるかもしれませんが…。ミスマッチングは解消されるんじゃないかなと思いますがどうでしょう。

3-5.いったんのまとめ


・マーダーミステリーはミステリーである
・マーダーミステリーは本格ミステリーではない

4-1.本格要素のあるマーダーミステリーは作れないものか?


さて、マーダーミステリーは本格ミステリーたりえないと説明しました。

ですが、本格のあっとなるトリックや不可解な殺人、探偵による真相解明を聞いた際のやられた感や逆に推理が当たっていた時の高揚はやはりミステリーの醍醐味だと私は思っています。

一方で国内のおおよそのマーダーミステリーは大体の場合トリックを使うわけでもなく殺意があるとも限らず、なんなら偶発的に出くわして殺したのものさえあります。


ゲームとしての面白さはプレイヤー同士の駆け引きやロールプレイが主で、事件そのものが(本格ミステリーの観点で)面白かった例はあまりないように思います。

ではマーダーミステリーに本格要素をただ取り入れればいいのでしょうか?これについてはNoじゃないかなあ?と言っておきます。

本格要素は本格ミステリーにて洗練されていった要素なので基本的に、作者vs読者の前提となっています。そのまま取り入れても上手くいかないでしょう。むしろ変に取り入れると作品の総合的な面白さの観点ではマイナスになる可能性すらあります。

ただ、本格要素を一旦分解し、必要なエッセンスだけうまい塩梅で取り入れれば、とても魅力的な作品になるのは間違いないと思っています。

*私のマーダーミステリープレイ回数
これは書くかどうか迷ったのですが2020年1月現在大体300オーバーです。別にマウントをしたいとかではないのですが、上述のようなことを書くからにはある程度裏付けがいると思い記載しました。300超えという数字は十分作品経験を経ていると思います。

4-2.じゃあ事件そのものが面白い実例を挙げてよ


ここで挙げようかと思ったのですが、微妙なので今回はやめておきます。
何故なら本格要素のある魅力的な作品だったよ!と述べるのがある種のネタバレになるからです。
ただいくつかの作品は単に本格要素を足したのではなく、マーダーミステリーと本格ミステリーの間で上手く組み合わせたものだったと言っておきます。

そしてまだまだ本格要素を取り入れた作品は進化の余地があると感じています。

4-3.じゃああなたの制作した作品はどうなのさ

プレイしてみてください!これくらいしか言えませぬ。興味をもったけどプレイするにどうしたらいいか分からない方はtwitterにてお問い合わせください。 @kurikuri3sei です。

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5-1.本格ミステリーを読んでみたいと思うのだけれど何かおすすめある?

以上、マーダーミステリーとミステリーについて述べてみましたが、
上記の流れでじゃあ本格ミステリーがどんなものか興味あるという方向けにお勧めを書きます。

最初に言うとめちゃくちゃあるし、私が読んでいない作品にも沢山あると思います。

ただここでは想定として
・普段あまり活字を読まない
・ミステリーも読まない
・マーダーミステリーは好き
という層を想定します。

せっかく興味をもって貰ったのに彼らが「やっぱ難しいや!」となるともったいないのでとっつきやすいだろうという観点でお勧めをあげます。

下記にない本格・新本格の名作はお勧めでなかったのではなくあくまでとっつきやすさの観点、特に普段活字を読まない層向けゆえに出てこないのだとお考え下さい。

アガサもエラリーもディスクンも今回紹介していません。これらはまさに本格推理小説の極みだと思っていますが、過去お勧めしても読んでくれない人が多いので(´;ω;`) なのでこれら名作を勧めるのは今度にします。

もしお勧めしたい作品があるのであれば、この記事を引用して「かーっ!わかっちゃいないねえ!」と宣伝していただきつつ(笑)
twitterで叫ぶとよいのではないかと思います。

①金田一少年の事件簿

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名前は聞いたことがあるのではないでしょうか。とても有名なミステリー漫画です。
漫画内の「謎は全て解けた!」という台詞が有名ですが実はこれ、その台詞までが出題編で、手がかりはすべて出しましたよ、さあ解いてみてください。という合図です。その台詞が出たら一旦推理をまとめてみましょう。

ただ結構難しいので当たらなくてもお気になさらず。

②閻魔堂沙羅の推理奇譚

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媒体:小説
読みやすさ:読みやすい
推理しやすさ:難しいのもあるが易しいのもあり結構推理しやすい

最近TVドラマ化されていました。こちら小説ではありますがラノベ体の文章なので読みやすいのではないでしょうか。
短編集でそれぞれ出題編、ヒント編、解答編に明確に分かれています。

本格要素を楽しみたいならまずはこれをお勧めしています。

③安楽椅子探偵

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媒体:DVD
読みやすさ:ドラマなので勝手に進む (が、視聴1時間に加えて推理も1~2時間くらいしたほうがいいので結構大変)
推理しやすさ:めちゃくちゃ難しい

昔TVで懸賞金付き推理ドラマとして放送されていたものです。
私もリアタイで見たことはなく友人の勧めでみました。

こちらなんと綾辻行人先生と有栖川有栖先生のタッグとなっています。

これまた明確に出題編と解答編に分かれています。なお難易度はめっちゃ難しいです。
元が懸賞金付きなので当然なのでしょうが…。

また視聴時間も結構取られます。出題編自体は1時間ちょいですが、割と気になるところを繰り返し見たりします。


ただそういった困難を経ても、とても魅力的な事件を扱った面白いシリーズなのである程度自信がついたら挑戦してみてはいかがでしょうか

私はこのシリーズが大好きなので実はまだ全部は見ていません。少しずつ消化していっています。

5-2.本格ミステリーで推理をする際どうすればいいの?

ここが難しくて分からないので敬遠する人もいるかと思います。とはいえこれを細かく書くとこれまた長い記事になると思うので手短に書くと。

色々あると思いますが、まず知っておいた方がいいのが、本格推理の場合「フェア」であることが前提なので、一見どんな不可解な事件でも「必ず手がかりはある」のです。

よって
・気になる箇所をどんどん箇条書きにして出してみる
のがいいかもしれません。

その中に手がかりがきっとあるでしょう。そちらをベースに合理的な説明を考えていくのです。
最初は失敗することが多いと思いますが、慣れると段々「あ!これが手がかりなんだろうな」というのが見えてきます。

その他
・とりあえずは犯人を単独犯で考えてみる。共犯を考えるのはその後
・犯人は登場人物に必ずいる
・手がかりのない隠し通路とかは考えない
・魔法、超能力、SFは特にそういう世界観でないなら一旦考えない
を意識してみるでしょうか。

5-3.さいごに

なんか長くなってしまいましたが、いかがでしたでしょうか?
マーダーミステリー界隈向けかつ、あまり普段ミステリーを知らない人向けに記事を書いてみました。
私の記事内の意見に賛成や反対もあるかもしれませんが、それをきっかけとしての思考整理の一助になれば幸いです。

6-1.蛇足

ミステリーのジャンルについて記述するのは実はとても怖いことなのです。
なぜなら、ジャンル論争大好きな人がワイワイやってきて荒れることが多いからです。

荒れるのは記事の作者本人は別にいいのですがそれを見た読者が「怖ッ」ってなることだけが気になります。
なのでなるべく丁寧に書いてみましたが、どうでしたでしょうか。ミステリーと呼ばれるものがどういう感じか掴めたでしょうか。

ただ荒れるのはそれだけミステリーというジャンルが好きな人が多いからだと私は思っています。

6-2.蛇足の蛇足

もしこの記事を最後まで読んだ上で、本格要素を取り入れたマーダーミステリーを作ったという方は連絡ください。絶対プレイしたいです!

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