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小説家ワーキンググループ掌編企画優秀賞発表

自分が主宰を務める小説家ワーキンググループ内で行われた掌編企画の選考結果発表をいたします。

今回のお題は「三題噺」でした。
ルールは、「指定文字以内」で「出された単語」を使い「作文」をすること。以下のふたつの組合せから好きな方を選んで応募すること。
■「メモ」「天然」「坂道」
■「恋」「地下鉄」「ポテトチップス」

【ほかレギュレーションについて】
・小説限定(ジャンル不問)
・文字数800文字以内(700文字以上だと有難いです)
・含む単語はNG(例:ミカン→アルミカンはNG)

さっそく優秀賞を3作品発表していきたいと思います。
選評などもワーキンググループ内では公表しているのですが、こちらには優秀作品のみを掲載します。


■すぎさりしひ
※三題噺題材:「メモ」「天然」「坂道」
作者:七名

北の一本杉。
私の名を認識したのは、さて、いつのことだったろう。
気づいた時には、遠くの山々を望めるくらいの背丈があった。
鳥は巣をつくり、猫は爪を研ぎ、鹿は私の皮膚をおやつとし、人は私のいる山の麓に集落を作り、暮らしていた。

人は私にとって一瞬にも満たない時間の中でコロコロと姿を変えた。
あるとき見かけた女の子は初め、私の足元でしゃがみ込み、涙を流していた。
そこに、男の子がやってきた。するとどうだろう。さっきまでの涙はどこへやら。二人は手を繋いでせっせと坂道を降りていく。
こんな具合に、人はコロコロと姿を変えるのだ。

二人は頻繁に私の足元を訪れた。
時に笑い、時に怒りながら。雪が降った日も、花が咲いた日も。その間に少し背丈も伸びた。
しかしある時を境に、二人の姿を見なくなった。
男の子の方は、一片のメモ、というのだろうか。いや、手紙というものだろう。それを私の荒れた皮膚に挟み、唇を噛みながら走り去っていった。
数瞬の後、次に現れた女の子は、そのメモを握りしめて泣き崩れた。
もう二人は子供という歳ではおそらくなかった。
それが最後だった。

それから幾度か、遠くに桜を見た。

いつの間にか私は、北の天然杉と名前を変えた。
私がかつて望んだ山々は削られ、同類の姿は見えなくなっていた。

そして今、私の体には、銀色が打ち込まれている。
 足元には様々な姿の人たち。

此処は良いところだ。
見晴らしもいい。鳥も鹿も人も健やかに生きられる。
私はそんなところを随分と独占してしまったようだ。
そろそろ明け渡すのはやぶさかではない。

ふと、足元に覚えのある二人を見た。
雪色の頭と、やや萎れてはいるが、あの二人だ。
ひと時の間に、今度は少し小さくなったか。

おや、また泣いている。今度は二人して。
人には変わらないところもあるようだ。
不思議なものだ。

ほら、もうすぐだ。今に私より大きくなる。
今度は二人で、望むといい。
 此処はとても、良いところだから。

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■aiのエピローグ
※三題噺題材:「メモ」「天然」「坂道」
作者:メイソン・キタミ

 彼女との待ち合わせから30分ほど歩いて、予約していたダイニングバー到着した。
 道中の坂道を登る。子供の頃はきっと一息に登れたのだろうなと息切れしながら店の扉を開ける。入り口の店員に案内され、暖房がよく利いたテーブル席に座る。
コートを着ていたのにすっかり肌が冷えた。僕よりも薄着だった彼女に大丈夫か聞くと、平気だと僕に気をつかってくれている。出会った頃、彼女はいつも同じ服だった。そんな身なりでは可愛そうだと思い、今では僕が買った服を着させるようにしている。
「まさか待ち合わせ場所からこんなにかかると思わなかったよ」
「いつもみたいに私が良いお店探したのに」
「今日は僕達が出会って二年目の日だ。僕がお店探ししたかったんだから」
 予約時に注文したスパーリングワインを店員が持ってきた。
ただ、グラスが足りない。
「彼女のグラスは?」
「――申し訳ございません。直ちにご用意させていただきます」
 一瞬呆気に取られた店員は、すぐに厨房へ向かう。この手の仕打ちはよく受けるが、その度に胃で何かが渦巻く心地になる。
 彼女は平気な様子で、整った顔を向けていた。
 介護ロボットと、齢78の老人を見てカップルと思う人間はいないだろうな。
 今日だって僕はメモを見て20分くらい道に迷ってしまったが、彼女のルート検索であっという間に店に着いた。これでは介護に他ならない。
 あの時の情けなさを想起して、目頭が熱くなる。
「君と人間なんて、人工か天然かの違いに過ぎないのに」
「ロボットに人格は無いと思っているのよ」
「人間が人生経験で人格を形成するように、君だって僕との出会いと深層学習で独立した人格を形成した。ただの介護ロボットじゃあない」
「でもあなたが私を純粋に愛するように、私は介護を通してあなたを愛する。これって、愛も介護も同じじゃない?」
 彼女らしい結論に噴出する。
 介護人生、悪くない気がしてきた。
少し遅くなった乾杯とともに、そう思うのだった。

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■「恋部、入りませんか」
※三題噺題材:「恋」「地下鉄」「ポテトチップス」
 作者:蛙田アメコ

「恋部、入りませんか」
 入学式の初日に声をかけてきてくれたのが部長だった。
 金色の丸眼鏡とつややかな黒髪マッシュルームが古風な学ランに全然似合っていなかった。
「え?」
「ですから。恋部、入りませんか」
 今となってはどうしてだか分からないが「コイブ」という妙な名前と活動内容のわからなさに私は思わず頷いてしまった。「とりあえずイエスと言え」が我が家の家訓だったのだ。
 嘘だけど。
 恋部について私が理解できたことは、少なかった。
 部員は、部長と私だけ。
 活動日は水曜日。
 それだけだった。
 活動内容は意味不明。それでも水曜日になるたびに、私は活動場所である西校舎三階で部長を探した。
 それから、ゲームをしたり、昼寝をしたり、時々めずらしい虫を見つけては少し騒いだりする。
 今日の活動は、あやとりだった。
「これって部活なんですか」
「じゃあ君は部活ってなんだと思うの」
「何かに夢中になること」
 それが部活だ。青春だ。
 校舎の隅であやとりに時間を費やすのは青春じゃない、気がする。
「なら、これは部活でしょう」
 部長は真剣な目であやとりのバッテンを見つめていた。
 よくわからないな、と思ったけれど次の瞬間に部長が私の指から毛糸のひもを絡め取ってしまたので、今度は私が真剣にバッテンと向き合う番だった。
「やっぱり部活なんかじゃないですよ」
 ぐちゃぐちゃに絡まってしまった毛糸の紐を爪の先で解しながらくさしてやった。部長はどう見ても友達のいないタイプだ。顔はいいけど、こんなヘンテコな部活を率いているのだから、推して知るべし。
「そうかな」
 毛糸を解す私の口に、ポテトチップスのりしお味を熱心に運びながら部長は生返事。
 ポテチの油で光る部長の指に、釘付けになる。
「少なくとも、僕は部活をしてますよ。君と過ごすのに夢中になってる」
 部長の声が、地下鉄の反響音みたいに耳の奥でわんわん響いて顔が火照る。
 歯に青のりがついてたりしないか、急に不安になって唇を舐めた。

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以上です!

今後もこのような掌編企画をワーキンググループではやっていきたいとおもいますので、小説家を目指している人でご興味あればぜひご参加ください!


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