【2つめのPOV】シリーズ 第3回 「仕切り」Part.4(No.0163)

パターンA〈ユスタシュの鏡〉


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Part.3のつづき


しかし、バニラに袖にされた不人気フレーバーは諦めずにバニラとは反対の、左隣に位置するこれまた人気のないフレーバーに対して、先程バニラに言ったことを話しました。


すると、このフレーバーはまんまと口車に乗ってしまったのです。
彼自身が不人気を気にしていた為に、混ざり合うことで人気になれるという甘い罠に引っ掛かってしまったのです。
彼らは店長さんの許可も得ずに、すぐに混ざり合ってしまいました。


話に乗ったフレーバーも人気がないとはいえ、ファンもいたし美味しい味でした。しかし店長さんの判断もなく勝手に混ざりあったことで、どんな味になったのか誰にも解らなくなりました。
そしてその味を試そうと思う人が現れそうに無い、変な色合いになってしまいました。


混ざった彼は自分の不気味な姿を見てすぐに後悔しました。
そしてやっぱり辞めたいから戻して欲しいとお願いしましたが、元には戻れないよと冷たく言い捨てられてしまいました。
激しい後悔が襲い頭を抱えていると、それならば更に隣と混ざればいいと、またしても唆す言葉を掛けられました。
混ざってしまった彼は藁をも掴む思いで、自分の隣にいる、それなりに人気のあるバナナフレーバーに声を掛けました。


バナナフレーバーは、声を掛けてきたフレーバーの不気味な姿に驚き、叫び声を上げました。
彼らは必死に説得しようと話しかけましたが、バナナフレーバーは聞く耳を持ちません。
それどころか必死に抵抗し暴れまわったので彼らともみ合いになりました。
そして段々と彼らは混ざり合ってしまったのです。
バナナフレーバーの抵抗は、不人気フレーバーの塊を自分の中に混ぜることになってしまったのです。


こうしてバナナフレーバーまで混ざった不人気フレーバーたちは、いよいよどんな味か解らないものになり、見た目も更に悪くなりました。


メソメソと泣くバナナフレーバーの泣き声から感じる罪悪感を振り払うように、彼らはヤケを起こして寝静まったフレーバーたちを次々と襲いました。


美しく整頓されたショーケースの中は大混乱となりました。
強く抵抗し戦うものもいれば、逃げ惑うもの、泣き叫ぶだけのもの、自分から受け入れるもの、どんどんと不気味に膨れ上がる不人気フレーバーの醜悪な姿にかえって心奪われてしまうもの、吐き気を催すもの、店長さんたちではなくこのグロテスクなフレーバーに従うものなど、このショーケース型の冷凍庫は一瞬にして地獄絵図と化しました。


この地獄の中でも、バニラやチョコミントなどの正しく清いフレーバー達はしっかりと自分を保ち必死に戦い、時に仲間を救いました。


そして、この地獄の一夜に朝がやってきました。


あの素敵なショーケースの中は一部を除きグチャグチャになってしまいました。
やがて、いつもどおり誰よりも早く店長さんがやって来て、このショーケースを見ました。


ショーケースの中で混ざりあった醜悪なフレーバー達の多くは、店長さんが自分達を新しいフレーバーとして採用してくれると信じていました。
きっと味見してくれて、喜んで一番いい場所を陣取ってくれるに違いない、バニラを超える最高のフレーバーになれるに違いないと、未だに信じていたのです。


しかし、店長さんはそのグロテスクな姿をひと目見て、


「なんだこれは!ただのゴミじゃないか!」


と叫び、清さを保ったフレーバーだけを残し、混ざったものは全てすぐに捨ててしまいました。


最高のフレーバーになれるという嘘に騙されたアイスクリーム達は、店長さんに味見さえされること無く処分されたのでした。


その日はお店は臨時休業となり、店長さん達はショーケースの掃除やら、新しいフレーバーの対策などで大忙しとなりました。


そして、沢山のフレーバーを用意することも考えものだと思い、それからは種類をあまり増やさず季節限定にしたりして、本当に大事なものだけを大切にするようになりました。


パターンA〈ユスタシュの鏡〉


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おわり



Part.5につづく


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