二学期の一週目の放課後。高校の教室に西日が差し込み、窓側の一列に並ぶ机に光が当たる。黒板を背にしてその光が当たる最後列の隣の席に一人の男子学生、志温厚は椅子に座り、目の前のひたすらに演奏する彼女を見つめる。 奏でる彼女のメロディーからは、心地良い優しさが伝わってくるのが分かる。いつまでもこの教室に居たいと思わせるような音色が心を揺さぶる。 何度も聞きなれたそのメロディーは彼女にとっての努力の結晶の結果なのだと思うとなんだか感慨深いものが込み上がってきた。その演
今日はいつもより体感温度を高く感じる。クロは耕していた鍬を土に差したまま、右手の軍手を脱ぎ、額の汗を拭った。 遡ること二時間前――――――――――。 小さな駅に一台のタクシーが白線のスペースに収まる。クロはタクシーのクーラーを付けるとじわじわと滲み出ていた汗を冷やす。車の外はゆらゆらと地面の熱に水蒸気が立っていた。今日はまだお客さんを乗せていない。しばらく駐車していたが、島の周りをタクシーで回ることにした。 島の沿岸の道路を走っていると、道路より1メートルほど
今日は雨だ。ぽつぽつと車の窓に当たる水滴を見ながら、クロは思った。 いつも通り島の周りを周回した後、駅の近くにある白い枠の中にタクシーを収める。 お客さんの乗車を待ちかまえていたがお客さんが乗る気配がない。今日は誰も乗せていないのである。 一人目のお客さんである女性をタクシーに乗せて以来、次のお客さんは今日まで出会っていない。 すると、車の窓を小さく叩いていることに気付き見るとそこには中年男性が傘を手にしながら立っていた。後部座席のドアを開けるとその中年男
一台のタクシーが1台分の駐車スペースの白線の枠内にゆっくりと近づき、すっぽりと収まる。車のエンジンを切り、ドアを開けて外に出ると左手を太陽に向けてかざす。 「今日も暑いな・・・」 今日の天気予報では晴れ。南の太陽の光が今日も周辺に強く届いている。 自動販売機に近づいていき、缶コーヒーを一つ買うと再びタクシーの運転席へと戻る。 人口五十人ほどの島に赴任してきて三カ月。私は本社に勤務していたが、上司から辞令命令を受けてこの島に向かう事となった。しかし、こちらに