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【9】朝5時のうめき声

盛りがついた猫でも鳴いているのかな?
異様な声で目が覚めたのは、朝の5時でした。

「おーい!おーい!」
それが1階から聞こえてくる人の声だと気づいたのは
しばらくしてからです。

「助けて……くれ……体が……動か……ない」
下に降りてみるとトイレからクマちゃんの声が聞こえます。

急いでドアを開けようとするのですが、内側に開くタイプで
少ししか開きません。

トイレの床に倒れているクマちゃんの体がドアを塞いでいて
外に出すことができないのです。

またクモ膜下出血になったのかもしれない!

まずは救急車の手配。
次にそれぞれの実家への電話。

いつかこの日が来ると覚悟していたからか、その時の私は
自分でも驚くほど冷静でした。

脳外科に連れて行ってください!


救急車と消防車が到着したのは、それから10分ほどしてからです。

「奥さん、ご主人を窓から外に運び出しますが、
 ドアに穴をあけてもいいですか?」

古い家です。
ドアを壊してでも窓を割ってでも、とにかく早く助けてほしい。

救急隊の方々が必死になってクマちゃんの体を外に引き出し、
救急車に運び入れるまで、20分ほどだったでしょうか。

搬送先の病院が決まるまで、こんなことを聞かれました。

「ご主人はいつもこういった話し方をされますか?」

言われてみると、ろれつが回っていない気がする。
でも、いつもと同じ気もする。

「脳梗塞でしょうか? 前にクモ膜下出血もやっているんです」
「どうやら脳関連ではないようなんですが、
 いま受け入れ病院を探していますので…」
「脳外科の治療をしている病院に入れてもらえませんか?
 毎月通っているんです!」

受け入れ先の病院が決まり、救急車が走り出したのは約10分後。
倒れてから約1時間後、やっと救急病院に到着しました。

思いがけない病名

水頭症の手術で頭にシャントバルブが入っていることを伝えたので、
MRIではなく、CT検査をすることに。

「ご主人は脊髄損傷です」
「えっ!?」

医師に告げられた病名は思いがけないものでした。
脳関連の病気と思い込んでいたので、脊髄と言われてもすぐに状況を把握できなかったのです。

「トイレで貧血を起こし、前に倒れたとき壁に頭を打ち首を痛めたようで      す。神経をやられたので体が麻痺しているんです」

「ということは半身不随になるのでしょうか?」
「残念ながらここから下は……」

医師が手のひらを横にして示したラインは首のつけ根でした。

もう一生歩けない……。

絶望の淵に突き落とされる、とはまさにこれを言うのでしょう。

頭が真っ白になってしまい涙も出ないままボーっとしながらも、
「でも、クマちゃんの足の指少し動いていたよね?」と
救急車の中の光景を何気に思い出していた私でした。





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