【小説】電車で繋がる物語
今日、僕は8年前に別れた彼女にメールをした。
車窓から見える景色は
ビルがひしめき合う光景から
田んぼが連なる風景へと変わっていた。
「久しぶりだね、元気?」
正直、元気だろうが無かろうが僕には関係ない。
もうそんな関係なのだ。
だって、別れてから8年も経っているのだから。
「元気だよ!久しぶりだね!」
30分もしないうちに返信が来た。
そこで僕は、8年ぶりに彼女に謝った。
「学生の時は色々と辛い思いをさせてしまってごめんね。」
このセリフを伝えるまでに
8年もかかってしまったのか。
彼女からの返信はとても大人びていた。
⭐︎
また彼女を好きになってしまった。
「突然で申し訳ないんだけど、また君のことが好きになってしまったんだよね。だけど、全然断ってもらっていい。ただ気持ちを伝えたかっただけだから。」
車窓からの景色は真っ暗でよくわからない。
窓に反射する自分の姿が恥ずかしくて見る事ができず、自然とスニーカーを見てしまう。
「びっくりさせないでよ。だけどありがとね。嬉しいけど、あまりにも急で私はまだそんな気持ちにはなれない。」
まさにその通りである。
別れてから8年。
ろくに連絡も取っていなければ
会ったりもしてこなかった。
こんな状況でまた彼女のことが好きになるなんて
僕自身にもよくわからなかった。
「あの頃とはもうお互い違ってるよ。」
この言葉が妙に頭に残っている。
⭐︎
「やっぱり会わない?」
突然の連絡。
車窓からは夜の街並みが見える。
目のフォーカスを変えることによって
窓に映る自分の顔も見る事ができる。
今回は窓に映った自分の顔を見る。
「まるで世界が違うみたいだ」
この数日間は必死で気持ちを切り替えることに
尽力してきた。
先が見えない世界でただ、自分のスニーカーを
見つめ続けるような日々。
それが今は、各家庭から漏れ出ている
部屋の灯りたちが
妙に光り輝いているように感じる。
何日かぶりにスニーカーの存在を忘れた。
⭐︎
「色々悩んだんだけど、もう一度付き合ってみる?」
車窓からはオレンジ色をした太陽が
ゆっくりと沈み始めていた。
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