あの頃の君と私。
3
「本日、皆様を担当いたします、佐伯と申します」
黒いベストを着たスッタフが私たちの席へとやってきた。
「お飲み物は何になさいますか?」
「ウーロン茶で」
今まで特に触れてこなかったが、私はこの日の前日、地元の知り合いとの飲み会があり、深夜の二時過ぎまで飲んでいた。そのため、とても人を祝える状態でないくらい二日酔いだった。
「他の皆さんはいかがいたしますか?」
私以外はみな、ビールを注文した。
程なくして、新郎の職場の上司が乾杯の挨拶をし、テーブルには前菜が運ばれてきた。生のサーモンにムース状のドレッシングがかけられたとてもお洒落なものだった。
ナイフとフォークは外側から、が基本である。私の向かい側の友人は、フォークを使い前菜を食べていた。確かにこの前菜だったらナイフは必要ない。しかし、テーブルに並べられているフォークの数は前菜の分も含まれている。そのため、使う必要がない前菜であってもナイフとフォーク両方とも使うのが正解だ。さもないと、前菜を食べ終わった段階で、まっさらなナイフまでも片付けられてしまう。その時初めて気づく、「このナイフも使うんだったんだ」は少し悲しい。
次のプログラムまでに少し時間がありそうだと判断した私はトイレに立った。トイレから戻ると、三分の二程飲んだ私のグラスには、ウーロン茶が注ぎ足してあった。
「誰がどの飲み物を飲んでいるのか、ちゃんと把握してるんだ」
しばらくすると司会の人が前に立ち、新郎新婦の馴れ初めを話し出した。私と新郎は高校時代、同じ部活に入り共に汗を流した。クラスメイトとは違い、部活動の同僚は関わりが深い。しかし、一度高校を卒業しそれぞれの道を歩み出してしまうと、なかなか会う機会がない。その空白の期間、当然のように私は日々を過ごし、また友人も過ごし続けてきたのである。その私の知らない友人の暮らしの中で新婦と出会ったのである。
自分の生活している空間と全く別の空間も、同じように時が進んでいるんだなと改めて思った。
結婚をすることによって、二人の生活はひとつの生活へと変わる。ともに同じ時間を共有し生きていくことになる。
私にも数年前、限られた期間であったが、ともに時を過ごした相手がいた。その時は学生だったため、結婚はしていなかった。将来自分が結婚する相手が今付き合っている人だったら、純粋に幸せだなと感じていた。しかし、そう思えたからと言ってうまくいくわけではない。現に今はそれぞれの道を歩んでいる。
男女が出会って付き合い、結婚する。なんだかそのことがものすごい確率の中に存在しているような。私は、新郎新婦を視界の中に捉えながら、ボーッと、過去のことを考えていた。
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