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【思い出し日記】異国で迎えるクリスマス

私は大学生の頃、オーストラリアのシドニーに1年間ワーキングホリデーに行っていた。

ある朝目覚めると、日本大使館からメールが来ていた。
日本大使館からのメールは珍しいものではなく、それまでも定期的に送られてきていた。定期的に送られてくるメールの内容は、オーストラリアのテロ警戒レベルの変更を伝えるものばかりだった。

「また日本大使館からのメールか」それが私の感想だった。
私はメールの本文を確認せず、スマホをポケットへとしまった。

当時私は、語学学校を卒業したばかりで自分で英語の勉強を継続させていた。

「いつものカフェで勉強でもするか」

特にやることもなかった私は、行きつけのカフェに行って勉強をすることにした。カフェは最寄りの駅から電車に乗ってシドニーの中心部にある。あまりにも利用していたため、そのカフェに行くと注文も取らずにいつも頼んでいたカプチーノが運ばれてくるようになった。

電車に乗り15分。シドニー中心地に着いたら歩いて移動する。時刻はお昼過ぎ、なんだかいつもよりも人が少ないように感じた。

目的のカフェの前に着くと、まだお昼過ぎだというのに椅子がテーブルの上に乗せられ、店員がモップがけを始めていた。

「もう閉店?」閉店するには早すぎる。しかし、海外では日によって閉店時間が早まる事を聞いたことがある。

「まあいっか、カフェはいくらでもある」私は別のカフェに向かうことにした。

オーストラリアは世界でも有名なコーヒー文化であり、街の至る所にカフェがある。行きつけのカフェから歩いて10分ほどいった先にこれまた行きつけのカフェがあった。

季節は12月、街の装いもクリスマスに向けてきらびやかになっていた。2軒目のカフェに向かって歩いていると、街中に大きなクリスマスツリーが立っていた。クリスマスツリーの先っぽまで見上げるには、かなり首を動かさなければならない。

「こんなでっかいクリスマスツリーは初めてだな」日本を離れてのクリスマスに少し心が踊った。

「それにしても今日は人通りが少ない」歩きながら周りを見渡すと、違和感を感じた。その違和感は次第に強まっていく。

「ほとんどの高級ブランド店が閉店してる」異様な雰囲気を察した私は、カフェには行かず、家に帰ることにした。


「せっかく電車に乗ったのに。電車代が無駄になってしまった」後悔しながら家へと向かう。

シェアハウスの自宅に着くと、家のwifiにつながったスマホからアラームがなった。日本に住む母親からのLINEだった。

「生きてるか?」LINEを開くとこのようなメッセージが表示された。

「生きてるに決まってんじゃん」メッセージを返した。

するとすぐに、「日本でもニュースになってるよ」と返信が来た。
メッセージの内容に理解できず返信に困っていると、立て続けに母親からLINEが届く。

「オーストラリアのシドニーで立てこもり事件が起きてるらしいね」

その事実を知らなかった私は、今朝、日本大使館から来たメールを初めて開いた。いつものようにテロ警戒レベルに関する内容だと思っていたメールは、武装した組織がシドニー中心地にあるお店に立て籠っているとの内容だった。

メールの末尾には、「武装組織は銃を持っていて人質をとっている。くれぐれも外出はしないように」と書かれていた。
急いでテレビのニュースを確認すると、まだ立てこもり事件は解決していなかった。

事件が起きたお店は、大きなクリスマスツリーのすぐ近くだった。



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