あの頃の君と私。
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7月なのに気温が上がらないと問題となったある年のある日、私はスーツにネクタイという格好で電車に乗った。
「暑くならない夏といっても、さすがにこの格好じゃあ汗ばむな」
休日ということもあり、午前7時半の電車は空いていて、座席に座ることができた。背中を座席の背もたれに預けたとき、背中にかいていた汗の量を感じた。
それから目的地の駅に着くまでの間、特に電車に人が込み入ることもなく真正面にあるガラス窓から外の景色を眺めていた。
横浜駅に着いた。たしか、横浜駅きた東口からシャトルバスが出ていると招待状に書いてあった。
「横浜駅って結構複雑なんだよね」
「きた東口って結構歩かないとダメじゃん」
家を出る前の弟との会話を思い出す。
慣れない場所を歩くのがあまり得意ではない私は、自然と目線が上がってしまう。改札口を出て、さぁ、どうしたものかと歩を進めようと思ったとき、「康平っ!」と私の名前を呼ぶ声がした。反射的に声のする方を向くと、そこには見覚えのある顔たちが揃っていた。
今日は高校時代の友人の結婚式であった。見慣れた顔たちが、見慣れない服装をして輪を作っていた。私も少し気持ちがホッとしたことを感じながらその輪の中に入っていった。
「俺、一人だったらここまでたどり着けていなかったよ」
弟の予想通り、横浜駅きた東口は、改札を通ってから2回ほど階段を下り、10分弱くらい歩かないとたどり着かなかった。
「でしょー」
この中で唯一の女性の佐々木が答えた。どうやら横浜周辺に住んでいるらしい。
路肩に停まっていたシャトルバスは、マックス30人くらいが乗車できるサイズで3台停まっていた。先頭の1台にはすでに何人かが乗車していたのだが残りの2台には誰も乗っていなかった。
「大体の人はこの前の便で行ったのかな」
そこにいた誰かが言った。
結婚式場までのシャトルバスは30分おきに合計3回運行することになっていた。私たちはその最後の時間帯であった。
予定時間通りそのシャトルバスは出発し、横浜の数ある結婚式場の中から選ばれた一箇所へと向かった。
受付の出席簿に自分の名前を記入し、祝儀を渡す。その後、式が始まるまで少し時間がある。この時間、手持ち無沙汰になる。スッタフの人から飲み物をもらいそれをちびちび飲みながら周りをキョロキョロしてしまう。
受付では受付を担当している男女がカメラマンに向かってピースをしていた。
「受付に選ばれた男女はなぜ選ばれたのかな」
そんなことを頭の中で考えていた。
おそらく、誰に対しても人がよく、人付き合いの良い人たちなのであろう。世の中的にそんなに多くはいない存在だろうから、受付をやる人は他の友人の結婚式でも頼まれているのではないか。それにしては、上手に慣れていない感を醸し出しているな。
私はこれまで計5回の結婚式に出席してきた。しかし思い返してみると、最初に行った結婚式が一番楽しかったように思う。それは大学の友人の結婚式であった。そんなに仲の良かった友人ではなかった。結婚式の充実度具合は、新郎新婦に対する思い入れよりも、私の結婚式そのものに対する『慣れ』が関係してしまっているように感じる。なんて残酷なのだろう。
そして5回とも、教会での結婚式であった。
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