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コミュニケーションは世の中のニーズから生まれる──PRWeek Awards受賞事例にみる、事業活動と社会課題のつながり

英国最大の独立出版グループ、ヘイマーケットメディアが発行する広報業界向けの業界誌『PRWeeks』。同誌は、優れたPR領域の活動やコミュニケーション戦略を表彰するグローバルアワード「PRWeek Awards」を毎年開催しています。

このアワードでは、環境問題や世代間ギャップにアプローチするなど、事業活動と社会課題を結びつけるようなプロジェクトが数多く受賞しています。そこで本記事では、PRWeek Awards 2022を受賞した3つの事例を紐解くことで、企業のソリューションと世の中のニーズの間に接点を見出すコミュニケーション戦略について考えていきます。

PUMA「Conference of the People, powered by PUMA」

まずご紹介するのは、ドイツを本拠地とする世界的スポーツブランドのPUMAがおこなった、「Conference of the People, powered by PUMA」です。このプロジェクトは、サステナビリティについての技術的な側面と、Z世代の期待とのあいだにあるギャップを埋めることを目指して立ち上げられました。

ここでPUMAが取り組んだのは、Z世代のメンバーを同社の中心人物として迎え入れることです。サステナビリティに関する情報発信のターゲットであるZ世代の当事者たちが、PUMAの最高経営陣と直接関わり、発言できる環境を提供しました。

10ヶ月にわたるプログラムを通じて生まれた成果は、118億のインプレッション、886件のメディア報道、7200万人のソーシャルリーチという素晴らしいものでした。それだけでなく、この「Conference of the People」プロジェクトはPUMAの年次投資家会議のプレゼンテーションでも取り上げられ、PUMAが「Business of Fashion」のサステナブル部門で第1位にランクインする助けにもなりました。

このプロジェクトをサポートしたのは、MSL UK(グローバルなPRエージェンシーグループ「MSL」のイギリス支社)。「Do | Feel | Think」という理念のもと、「Belief(信念)」にもとづいたリレーションシップ構築を支援するエージェンシーです。

セレブリティ・クルーズ「#AlIInclusivePhotoProject」

人種から体型、ジェンダー、障害まで、旅行はインクルシーブであるはずだし、実際の旅行者は多様性に満ちている。次にご紹介する#AlIInclusivePhotoProjectは、そんな考え方に基づいて、多様性に満ちた写真素材を制作し、オープンソースで公開するプロジェクトです。

#AlIInclusivePhotoProjectは、旅行業界のマーケティングや、そこで用いられるクリエイティブには偏りがあるという問題意識から始まりました。たとえば、スリムで異性愛者の白人カップルが描かれたクリエイティブはあまりにも主流になりすぎているのではないか、というわけです。

このプロジェクトを立ち上げたセレブリティ・クルーズは、クルーズ客船の運行を手掛ける業界大手ブランド。同ブランドでは、旅行業界のマーケティング状況についてコロナ禍中に調査を進めるなかで、旅行者たちはマーケティングで用いられるイメージの多様性について不満をおぼえているというインサイトを得ました。

このようなリサーチを踏まえ、#AlIInclusivePhotoProjectでは、さまざまなバックグラウンドをもつ写真家を起用しました。ポートレートアーティストのアニー・リーボヴィッツ紛争地帯で働き三肢をうしなったジャイルズ・デューリー、ニューヨークを拠点とする黒人でクィアのナイマ・グリーン、オーストラリアに暮らすマレーシア・中国系のジャラド・センの4人です。

人種やジェンダー、障害といった観点を意識しながら、多様性と包括性に焦点をあてたロイヤリティフリーのフォトライブラリを作成する。これによって、業界全体で旅行者の多様性をマーケティングのなかで活かしていくことを目指しています。

Medius「Accounts Deceivable」

最後に「Accounts Deceivable」というプロジェクトを紹介します。これは企業のファイナンス担当者が金融詐欺のリスクを過小評価している現状を課題して、B2B向けに不正防止ソフトウェアを提供するMediusが立ち上げたポッドキャスト番組です。

この番組は、実話をもとに、金融詐欺がもたらす人的損害を検証するポッドキャストです。衝撃的なストーリーと、実際の被害者と詐欺師が参加するという画期的なコンセプトが人々の間で話題を呼び、「Accounts Deceivable」は大ヒットを収めました。

生活費の高騰という社会情勢とマッチしたことも、このプロジェクトの成功要因でしょう。生活苦から詐欺が魅力的に見えるおそれが高まっている、そんな時代のリアルを「Accounts Deceivable」は伝え、人々が詐欺犯罪を身近なトピックとして捉えるのを助けました

このプロジェクトは、B2Bのコミュニケーションを専門的に支援しているFight or Flightによってサポートされました。2020年設立とまだ新しいエージェンシーですが、「退屈なホワイトペーパーを世の中からなくすこと」を使命として幅広いプロジェクトを展開しています。

──以上、3つの事例をみてきました。どのケースも、世の中のニーズと事業活動の接点をたくみに設計していることがうかがえます。これらを参考にしながら、自社のコミュニケーションのあり方について見直すきっかけになれば幸いです。