コミュニケーションリーダーの時代──Discord・IBM・ベルリン工科大学・フォードの4事例から
「CCO(チーフ・コミュニケーション・オフィサー)」というポジションが今、注目を集めています。ソーシャルメディアの発展とパンデミックを経て、コミュニケーションの重要性が一層高まっているのではないでしょうか。
たとえば、コーン・フェリーの調査では、2023年には前回調査と比べてCEO直属のCCOが増加、また、CMO直属が減少しCHROや法務顧問に直属するケースが増えていることが明らかになりました。これは社内コミュニケーションと法規制対応への注力を反映していると考えられます。
さらに、CCOのチーム人数も増加傾向にあり、給与も経営トップ層の一人として元来高額ですが、さらに増加しています。また、CCOには女性が多く就任しており、多様性の確保にも貢献しています。
そこで本記事では、CCOという役職の普及が進む海外の事例を紹介し、その役割を掘り下げます。
Discord──コミュニケーションとマーケティングを統合
ゲームをはじめとするエンタメ領域において、覇権的なコミュニケーションプラットフォームとなったDiscord。同社初のCCOとなったのが、ステファニー・ヘス氏です。
ヘス氏はこれまで、ZyngaやSun Microsystems、Oracleといったテクノロジー企業でコミュニケーションを担当したキャリアがあります。
さらに、プロジェクト管理ツール・Asanaでは、グローバルコミュニケーションおよびマーケティングの責任者を経験。Asanaでは在任中に同社の株式公開もあり、事業推進とコミュニケーションの両面で強みを有していることが伺えます。
AXIOSの記事によれば、ヘス氏は社内コミュニケーションと社外コミュニケーション、ポリシーコミュニケーションをマーケティングと統合するというミッションが与えられているとのこと。
これまでたびたびIPOが噂され、また、プラットフォーム全体での広告枠導入など収益化の動きが加速するDiscordにおいて、ヘス氏への期待は非常に大きいものと思われます。
IBM──ホワイトハウス出身のCCO
アメリカの老舗IT企業であるIBMは、「コミュニケーション機能をマーケティング部門の下に置く」というこれまでの慣例に逆らい、同社のCCOであるジョナサン・アダシェク氏の権限をマーケティング部門にまで拡大しました。
アダシェク氏はB2BとB2Cにまたがる幅広いビジネス経験や、ホワイトハウスをはじめとする行政機関での経験を活かし、CEO直下でコミュニケーションとマーケティング、そしてCSRの分野を統括しています。
そんな彼の実績の一つが、IBMのビジョンや戦略を一貫して伝える新たなブランド・プラットフォーム「Let's create」のグローバル展開です。このプロジェクトにより、「ハイブリッドクラウドと AI のリーディングカンパニーになる」というIBMのミッションが社内外に示されました。
さらに2024年からは、ギャップやテスラ、ヤフー、アメリカン・エキスプレス等でコミュニケーションのキャリアを積んできたサラ・メロン氏が、アダシェク氏のもとでCCOとして働くことになりました。IBMはこの新しい組織体制によって、ビジネスとより密接に結びついたコミュニケーション組織を目指しています。
ベルリン工科大学──非営利組織とコミュニケーション
コミュニケーションを事業推進に活かすべくCCOを設置しているのは、いわゆる営利企業だけではありません。教育機関や行政組織など、パブリックセクターやソーシャルセクターにおいてもCCOを採用する動きがあります。
たとえば、ステファニー・タープ氏は、ベルリン工科大学でCCOを務めており、大学の戦略コミュニケーションの大半を引き受けています。
同大学の記事によれば、彼女のもとには①コミュニケーション / プレス、②イベント管理、③学長の広報活動のマネジメント、④アルムナイ向けのコミュニケーション活動の4つのチームがあります。
なかでも興味深いのは、④のアルムナイ(卒業生・同窓生のこと)でしょう。大学の財源としての寄付金集めやコミュニティ形成など、近年では、日本でもアルムナイのネットワークに対する期待が高まっています。先行する欧米諸国の大学では、このようなネットワーキング活動もCCOが担っているのです。
フォード──記者・編集者の視点から
アメリカの大手自動車メーカーであるフォード・モーター・カンパニーでは、マーク・トルビー氏がCCOとして活躍しています。
トルビー氏は記者・編集者としてのキャリアを積んだあとフォードに入社し、2017年にCCOに就任しました。現在、CEO直属でグローバルなコミュニケーションを統括するトルビー氏の役割は、顧客や従業員、ディーラー、サプライヤー、メディア、地域社会、そして政策立案者といった多様なステークホルダーとの効果的な対話を促進し、フォードの社会的評価を向上させることです。
自動車産業という伝統的な業界において、トルビー氏はコミュニケーションを通じた新しい価値と時代の創造に取り組んでいます。彼のリーダーシップのもとで、フォードは競合であるテスラとも提携しながら電気自動車(EV)の生産拡大を進めているほか、「自動車の街」であるデトロイトの再活性化プロジェクトにも挑戦しています。
また、フォードの120周年記念に際して特別なムービーを制作し、従業員のモチベーションを引き出すなど、社内コミュニケーションにも注力しています。このように、フォードのブランド価値向上と持続可能な成長に寄与する取り組みが評価され、トルビー氏はPRWeekのPower List 2023にも選ばれています。
コミュニケーションリーダーの時代へ
事業の推進にコミュニケーションは不可欠であり、その重要性はますます高まっています。現代の複雑なビジネス環境では、マーケティングとは異なる視点から意思決定を行うコミュニケーションリーダーが求められています。
今回の記事では、CCO(チーフ・コミュニケーション・オフィサー)という役職が普及している海外の事例を紹介しましたが、日本でもマネーフォワードなど一部の企業がCCOを導入し始めています。
経営にコミュニケーションの視点を取り入れ、社内外のステークホルダーと戦略的に対話を進めることが、今後さらに重要になるでしょう。これからの動向にも注目していきましょう。