クリエイティブから会社の未来を描き直す、PR会社の自社リブランディング
こんにちは。Story Design house(SDh)の田邊です。SDhは今年5月に、全社的なリブランディングを実施し、コーポレートアイデンティティとコーポレートサイトを一新しました。本記事では、私がこのプロジェクトを統括するなかで感じたことを振り返りたいと思います。
自社のアイデンティティを再定義してクリエイティブに落とし込むプロセス、その過程の悩みや工夫、リブランディングを通じて得られた成果。私と同じように、自社のリブランディングに取り組む方々の参考になれば幸いです。
自分たちらしく、まずは「言葉」の定義から始めた
CEOの隈元とは、兼ねてから自社の事業の伝え方やマーケティング手段について2週間に1度のペースでよく話し合っていました。ある日、そのミーティングで、隈元から「これからSDhをもっと大きな会社に成長させたい」という話があったんです。それを達成するためには、会社の見せ方も変えていく必要があるということで、今回のリブランディングプロジェクトが始まりました。
改めてリブランディングの担当者としてアサインされたとき、何よりもまず「言語化が大切だ」と思いました。なぜなら、私たちSDhはブランディングやコミュニケーションデザインの会社として、これまでずっと「クライアントの意志や想いを、まずは言葉で定義する」というかたちで仕事をしてきたからです。
クライアントではなく自分たちの組織を対象とする今回のプロジェクトでも、SDhの強みである「言葉」からイメージを描くことで、きっと良いものができると考えました。そこでまず、自分たちの新しいあり方をステートメントの形式にアウトプットしようと決めました。
社内の想いを表現したい、だからこそ「よそもの」の視点を
SDhで日々働くメンバーたちの想いや意見をステートメントに反映させるため、複数名の社員に「SDhのパーソナリティ」についてインタビューしました。SDhには多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まっているので、インタビュー結果もみんなバラバラに見えました。しかし、そんな中にもきちんと「共通イメージ」が存在したのです。
そうやって浮かび上がった共通イメージをまとめて、ステートメントへとブラッシュアップしていくにあたっては、信頼できるパートナーさんのお力を借りました。
外部パートナーに協力を求めるかどうか。これはとても難しい問題です。そもそもリブランディングはSDhが普段から取り組んでいる仕事の一つなので、自分たちでできないことではありません。また、社内プロジェクトということで、それほど多くの予算もかけられません。
それでも外部のライターさんにお願いしたのは、今回のプロジェクトには「よそもの」の視点が絶対に必要だと考えたからです。長く在籍していると、どうしても自社のことはわからなくなるもの。自分たちのケイパビリティやビジョンをまっすぐ見つめ直すには、いったん第三者の意見を取り入れることが効果的です。
普段は私たち自身が「よそもの」の視点をクライアントの皆様に提供しながら共に価値を創造していく立場にいます。だからこそ、外部からの目線の重要性をリアルに感じていました。
そこで今回は、ブランディングを専門に手掛けている知人に協力をお願いしました。言語化のセンスが素晴らしい方で、私の中学・高校時代の同級生でもあり、信頼できる人と一緒にプロジェクトを進めることができました。
事業成長しながら生まれるギャップを、前向きに乗り越える
最初に社内から意見を集めたとき、「SDhの実際のあり方と、外からの見え方にギャップがある」という声が多く上がっていました。外部ライターさんからも同じように、コーポレートサイトなどのデザインと実態やなりたい姿とのギャップを指摘されました。
妥協せず、職人気質でクライアントの課題解決や想いの実現に取り組むSDhのあり方に比べて、現状の見せ方は少しカジュアルで優しい印象に寄りすぎているという意見をいただき、「やっぱり外からもそう見えるんだ」という気付きがありました。
実は、リニューアルする前の旧コーポレートサイト制作にも、入社して本当に間もない頃だったのですが、担当として携わらせてもらっていました。
旧サイトを制作した当時と今を比較すると、会社として、手掛ける案件の幅が広がり、企業やサービス全体のブランディングなど大きな責任を伴う仕事が増えました。その変化に応じて、組織のあり方や組織文化のほうが変わってきたのではないかと思います。
私自身、ブランド立ち上げのようにクライアントの課題に直接コミットする仕事に関わるようになってから、「ひとつの手法にとらわれずに本質的な答えに迫る」というSDhならではの風土を実感するようになりました。それと同時に、「私たちはクライアントから頼られる存在なのだ」という感覚も湧いてきました。そういった現場の実感を大事にして、頼りがいのある会社であることや、妥協なくこだわって成果を出す会社であることを外に出していこう、ということになりました。
自社の強みを活かし切ったクリエイティブ
妥協なくこだわる──私たちSDhはそんな人々の集団であるからこそ、メンバーそれぞれの想いを一つのアウトプットに落とし込むのは簡単ではありませんでした。その困難を乗り越えられたのは、社内メンバーがプロジェクト推進に非常に協力的だったからです。外部パートナーの協力を仰ぎつつも、社内の人間がプロジェクトリーダーとして徹頭徹尾責任を持ち、随所で社内の意見を吸い上げながら進められたことが功を奏したのかなと自分では感じています。
例えば、企業アイデンティティにおいて非常に重要な「コーポレートカラー」も、社員の投票で決めました。企業のブランディングとなると、経営者がすべて判断するケースも多いと思います。しかしSDhでは、CEOが「みんなで決めたい」という想いを抱いていたこともあって、投票のようにメンバーの意見をなるべく吸い上げられるような方法を採用しました。
このような判断にも現れていると思うのですが、私たちは、仕事を遂行する上で一人ひとりの「人」が大事だという考えを共有しています。今回のリブランディングでは、その想いをあらゆるアウトプットに込めました。例えば新たなロゴは「ペン」や「人の筆跡」を感じさせるデザインに仕上げています。
メンバー紹介ページの写真も、それぞれの「人」の魅力が詰まったものとなりました。撮影前の打ち合わせでの一人の社員のちょっとした発言がきっかけで、みんなが思い思いの小道具を持ち込み、ユーモアとクリエイティビティあふれる楽しい撮影になりました。
この撮影風景を見ていて、今回新しく打ち出した「どんな場面も、楽しもう」というSDhのアクションバリューそのものだと感じました。組織の根底に流れているものがあって、それがチームの一人ひとりにきちんと浸透している。それを今、ブランドアイデンティティとしてうまく表現できつつある。改めて、そう感じた撮影でした。
すべての社員が未来を描けるプロジェクトへ
こうして一つずつ、新たなブランド像がアウトプットされていきましたが、もちろんクリエイティブを仕上げるだけではリブランディングとはいえません。クリエイティブの根幹にある理念を、全社に浸透させることが何より重要です。
そこでSDhでは、全社の忘年会を浸透の機会と捉えることにしました。忘年会の企画として、固まりつつあった新しいステートメントを社内の全員に共有し、各々が感じたことを語り合うブレインストーミングを実施したのです。日々の実務や社内のコミュニケーションのあり方に、今回設定した5つのアクションバリューをどう落とし込んでいきたいか、自由な雰囲気の中でポジティブなアイデアがたくさん飛び出しました。
このブレインストーミングを企画したことで、リブランディングを一部のメンバーだけが関わるプロジェクトで終わらせず、全社のプロジェクトとして進めることができました。シニア層が理念を伝え、若いメンバーから意見をもらえるよい機会となっただけでなく、会社の未来についてみんなで語り合える雰囲気ができたように思います。
リブランディングとは、会社の未来を考え直すこと
実は、このプロジェクトの途中、CEOが産休に入ったり、若手社員が入社したりと、会社に大きな変化がありました。その結果私たち社員は、採用も含めた今後の体制や、若手社員に伝えたい価値観などを真剣に考えながらリブランディングを進めることになりました。
そんな状況の中で生まれたのが、社内Slackの「シニアたちのご相談チャンネル」です。このチャンネルができたことで、各自が感じる社内の課題を言語化し、社内に共有して解決を目指せるようになりました。
こうした動きのなかで、リモートワークで仕事を進めるのが不安だという若いメンバーの声から全社員が集まる社内イベントや定例会の内容も変化しました。仕事上の失敗を共有できる「悩み相談コーナー」や、ただ一緒にごはんやお菓子を食べながらしゃべる「社内スナック」など、社内コミュニケーションをより円滑にする仕組みが、リブランディングをきっかけにたくさん生まれました。これは、今回のプロジェクトの非常に良い副産物でした。
それぞれが担当する業務を超えて、会社の未来について考える。社内のコミュニケーション環境を改めて見直す。「リブランディング」の価値は、クリエイティブの刷新に留まらないのです。ブランディングの重要性を改めて感じるプロジェクトになりました。