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陽だまり書庫作品紹介:第5回『仲直りの恋文を』

こんばんは。黒川 禄です。

さて、今回の作品紹介も早くも五回目になります!豪華ですねぇ!
本日は僕の作品をお届けします。ではごゆっくりお楽しみください♪

ご紹介しますは『仲直りの恋文を』。陽だまり書庫のフリーテーマの作品になります。
共通テーマに引き続き、花言葉を一部で使わせていただきました。こちらは色んな気持ちがこもっているのですが、僕の長話より先ずはあらすじをどうぞ!

ファンタジーの世界のお話。
交易を生業とする家の娘・エマは昨晩、兄のように慕っている行商人の息子・ノアと喧嘩をしてしまう。翌朝にはノアの父親が取り仕切る行商人一行は出発してしまい、エマは謝れなかったことに強い後悔を覚えた。町や村の連絡手段は乏しく、会いに行くことも出来ない。エマが悲しみに明け暮れていると村の外れで店をやっているマシーが通りかかる。マシーの店で事情を話すと仲直りの手段として手紙を提案してくれた。この世界における手紙は梟が運ぶ物であり、心を込めた手紙は果たしてノアに届くのか……?


文章サンプル

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 エマは足下の小石を蹴ってため息を吐いた。そんなつもりはなかったと思うのは言い訳なのだと父から言われた。それでも自分の感情が暴走してしまったことに、ただならぬショックを受けた体験だった。
「……どうしよう」
 エマは落ち込んで川沿いに座り、空を見上げる。時間が解決するはずもなく、雲が風に乗って流れていくのを眺めるばかりだ。呆然とするエマの後ろを、大きな荷台を引いた馬車が走る。整備の予定がようやく立った古い馬車道を走る車輪の音は荒々しく、エマの心情を表しているようで心がすさむ気分だった。
 エマの家はこの近辺で長く交易を生業としており、頻繁に行商人が訪れる。その関係で泊まっていく行商人も多く、時には子を連れてくることもあった。田舎の村に住む子供は両手の指で数えられるほどしかおらず、そういった子供たちとの交流はエマにとって新鮮で大切な存在だった。
 昨晩エマの家に泊まったノアは、そんな中でもよく会える年の近い友人だった。エマの住む村から一番近い町に住む行商人の息子で一つ年上の十一歳。町のことをよく教えてくれた兄のような存在だ。そんなノアと、昨晩初めて喧嘩をしてしまった。
 原因はごく些細なことだったように思う。世間的には女性で行商に出るのは大変だから、家を守るべきだという考えは珍しくない。しかしエマは知らない町を渡り歩く行商人に強い憧れを抱いていた。そんな話をしたとき、行商人は結構大変だとか、家に居た方が得だとか、ノアは説教でもするように言ってきた。それにカッとなって言い返し、そのまま熱は上がる一方で喧嘩に発展してしまった。部屋から声が漏れるほどの言い争いをした結果、両者の親が駆けつけて仲裁に入り、その夜は初めて別々の部屋で寝た。
 一晩寝ると頭も冷め、ノアの言葉はエマを気遣って向けられた言葉であることを理解した。そして自身も言い過ぎたということに気付く。急いで謝ろうと家中探したがノアとは会えず、行商が出発する時にようやく会えたのだが、こちらを向いてすらもらえなかった。結局謝ることも出来ずに別れ次はいつ会えるのかすらわからない。そもそもまた会えるのかも怪しくなってしまった。
 昨晩のことを振り返り、エマは涙をこぼす。
「うぅ……、ノア」

〈中略〉

 エマはゆっくりと昨日の出来事を話す。そして今朝挨拶も謝ることもできなかったことを添え、きちんと謝りたいという気持ちを言葉にした。その会話はたどたどしく言葉として不十分な点もあったが、マシーに気持ちは十分伝わった。マシーは少し考える。
「……エマちゃん、文字は書けるかしら?」
 マシーからの問いにエマは首をかしげた。
「書けるよ。先生に習った」
「お手紙って書いたことある?」
「お手紙? パパたちが商売のやりとりをする紙のこと?」
 間違ってはいないのだが、さすが交易を生業としてきた家の娘だと思った。
「お手紙ってお仕事でだけ使われる物じゃなくてね、お話をするのにも使われるの。貴方の気持ちを書いて、ノアくんに届けるのはどうかな?」
 エマはすこし悩んだあと、眉をハの字に寄せた。
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手紙っていざ書こうとすると難しく考えてしまいますよね。でも書き始めると結構筆が乗ったり。不思議な物です。
前回スケジュールの問題もあって、梟の話を書きそびれたのでどうしても書きたかったのです。この話の続き、というか本流は、今後ゆっくり書いていきたいなぁと考えております。

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それでは、ありがとうございました!

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