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陽だまり書庫作品紹介:第2回『懐旧の花器』

こんばんは、黒川 禄です。
あと六日となりました第十回文学フリマ大阪、少しずつ準備を進めていましたが、すでにドキドキが止まりません……!会場に行くのが今から楽しみです♪
新刊の合同誌もとっても豪華ですよ!昨晩の笑紅さんに続き『陽だまり書庫』の作品紹介、本日は僕がお届けします。ではごゆっくりお楽しみください♪

本日ご紹介しますは『懐旧の花器(かいきゅうのかき)』。陽だまり書庫の共通テーマ「ペチュニアに纏わるお話」の作品になります。
安直かとは思いますが、花と言えば花言葉。もしかしたらよく知る誰かに向けた物に限らず、過去から未来に向けた物もあるかもしれませんね。

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作品の中心に出てくる過去を映す魔法の道具「懐旧の花器」をきっかけに、中山恵太と娘の奏が母親を思い返すお話。
現代に残る希少な魔法道具「懐旧の花器」の情報を知った中山恵太は電話をかける。三度目の電話が幸運にもつながり、亡くなった妻のとの想い出を見てみようと試みる。娘の奏は少し気難しいところが出てきたお年頃。だが恵太から懐旧の花器の話を聞いて心が揺れる。
懐旧の花器で想い出を観るには想い出に纏わる花が必要で、その花とは……。
二人はどんな想い出を花器に映すのでしょうか?


文章サンプル

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 想い出を映す水鏡がある。噂程度に知っていた話の真実を確かめたくなったのは、出来心からだったのかもしれない。中山 恵太は職場の先輩に聞いた番号に電話をかける。よほど人気だったのか、最初の二回は繋がらなかった。三度目の正直でかけた電話の通話音が途切れる音を聞き、彼は固唾を飲んだ。
『はい、東条華道教室です』
 どこに繋がるかあらかじめ聞いてはいたが、少しの戸惑いが言葉を詰まらせる。しかし意を決して声を発した。
「あの……、想い出水鏡があると聞いたんですが」
 電話口からは柔らかい声で「はい、ありますよ」と返ってくる。それに続いて淡々と説明が続けられた。
『教室を運営している家元が「懐旧の花器」を所持しておりまして、お約束の上で貸し出しております。花器は現在置かれている場所から動かすと効力を無くしてしまうため、家元のお屋敷まで必要な物を持ってきてもらっております。どうなさいますか?』
「必要なもの、とは?」
『貴方の想い出に纏わる花です』

〈中略〉

 その日の仕事を終えて帰る。玄関を開けると娘のピンクのスニーカーが脱ぎ捨ててあった。小学校の卒業を三月に控え、楽しみであろうと思われた中学進学に少し前から難色を示している。気にかけて聞いてみたこともあるが、お父さんには関係ないと突っぱねられてしまった。昔と変わっていく反応に戸惑いが多いが、どうにか悩みくらいは聞いてあげられるようになりたいと考えている。しかしうまくいかない現状に、恵太はため息を吐いた。
「ただいま」
 くたびれ始めた革靴を脱いで揃え、そのまま娘のスニーカーも揃える。時刻は七時四二分、夕食時には悪くない時間だと思うが、流し台にカレーを食べ終えた皿があるのを見ると先に食べてしまったようだ。それでも一緒に話でも出来ればと勇気を出して娘の部屋をノックした。
「奏、ただいま」
「……おかえり」
 ドアの向こうから疲れたような声が帰ってくる。少し待つと遠慮がちにドアが開いた。奏は不満をにじませた目を恵太に向けている。
「遅くなってごめんな。夕飯、もう食べたんだな」
「うん、お腹空いたから」
「じゃあ、ご飯はもう要らないか。プリン買ってきたんだが、一緒に食うか?」
「今はいらない。明日もらう」
「そ、そうか」
 実の娘のはずなのに、クライアントと話すよりずっと緊張する。最近は話をしてもこんな感じで、どうにも奏の気持ちが読めなかった。
〈中略〉
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陽だまり書庫表紙画像

身近な人ほど気付いてあげられないこともあります。そんなすれ違いとどうにか向き合うきっかけは、過去にあるかもしれません。
貴方は懐旧の花器があれば、どんな過去を観たいでしょうか?

第十回文学フリマ大阪の情報はこちらからどうぞ!
webカタログも更新しておりますので是非ご覧ください!

第十回文学フリマ大阪 G-44 (2F B・Cホール)にてお待ちしております。
それでは、ありがとうございました!

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