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短編小説 「ファイト!」


ホメルンは小さな存在だった。とある人の体内に潜むその姿は、見た目は小さな火の玉のようで、暖かな光を放っている。彼の仕事は、その人を褒め、励まし、やる気を引き出すこと。そうすることで、体内からエネルギーを送り込み、元気づけるのがホメルンの使命だった。

その人——アキラは、今日も目覚ましの音で起きたが、布団の中で重い気持ちに押しつぶされそうだった。疲れが溜まっているのか、心の奥底に何かが引っかかっているのか、どうにも体が動かない。まぶたが重く、今日一日のことを考えると、気力が湧いてこないのだ。

「アキラ、頑張れよ!」ホメルンは胸の奥から声をかけた。

ホメルンの声は小さいが、心の中にはしっかりと響く。アキラはわずかに眉を動かし、ふと胸のあたりに手を置く。

「そんなに落ち込むなよ。昨日もたくさん頑張ったじゃないか。あれだけの仕事を片付けたんだから、すごいことだよ。少しずつでもいいんだ。立ち上がろう、アキラ」

ホメルンの声に導かれ、アキラは少しずつ体を起こした。寝ぼけ眼で天井を見つめる。カーテンの隙間から差し込む朝の光が、彼を包み込んでいる。

「そうだ、その調子だ。今日もきっと、何かいいことがあるさ。きっと、君の努力は無駄じゃないんだ」

ホメルンはそう言いながら、体内の隅々に暖かい光を広げていく。それはアキラの全身を駆け巡り、まるでホメルンが小さな炎を灯しているかのようだ。

アキラは深呼吸をし、ゆっくりとベッドから足を降ろした。重い心が、ホメルンの言葉で少しずつ軽くなっていくのがわかる。

「よし、今日もやってやるぞ」アキラはそう呟きながら、部屋の窓を開けた。新鮮な空気が一気に流れ込み、心が晴れやかになる。

ホメルンはにっこりと微笑んだ。「そうさ、それでいいんだ。君はいつだって、自分で乗り越えられるんだ。僕はそのためにここにいるんだよ」

こうしてアキラは一日をスタートさせた。ホメルンはそのたびに、彼が少しでも落ち込みそうになると、すぐに温かい言葉をかけて励まし続けた。体内から送られるホメルンの力は、アキラにとっての小さな奇跡だった。

そして、夜。アキラが一日の疲れを感じながらベッドに入ると、ホメルンは静かに彼を包み込んだ。「お疲れさま、アキラ。今日もよく頑張ったね。明日もまた、新しい日が始まるよ。君ならきっと、大丈夫さ」

ホメルンの言葉にアキラは微笑み、ゆっくりと目を閉じた。心地よい眠りの中で、ホメルンの声が優しく響いていた。

アキラが日々を乗り越えられるのは、体内でホメルンがいつも見守っていてくれるから。彼の存在に気づくことはないかもしれないが、ホメルンはこれからも、アキラを支え続けるだろう。そして、その小さな火の玉は、どんなときでも彼の心を照らし続ける。





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