見出し画像

短編小説 「暑い日」


夏の日差しがじりじりとアスファルトを焼きつけ、空気が揺らめくような暑さが街を包んでいた。セミの鳴き声が耳に響き、風はまるで熱い息吹を吹き込むように頬を撫でる。そんな中、ミヨミは学校帰りに近所のコンビニで買ったアイスを片手に、家の縁側に腰を下ろしていた。

アイスはミヨミのお気に入りのフレーバー、濃厚なバニラ味が口の中で溶けると、ほんの少しだけ暑さが和らいだように感じられる。ミヨミはふぅっと一息ついて、目の前に広がる夏の空を見上げた。青い空はどこまでも広がり、わずかな白い雲がゆっくりと流れている。

「今日はほんとに暑いなぁ……」ミヨミは呟きながら、ぼんやりと空を眺め続けた。思わず目を細めてしまうほどの強い日差しが、空全体を白っぽく染め上げていた。まるで時間が止まってしまったかのように、すべてが静かで穏やかだった。

アイスを舐めるたびに、ほんの少しずつ心が癒されていくような感覚。けれど、空を見上げていると、ふと自分の頭の中にいろんな考えが浮かんでくる。学校のこと、友達のこと、これから迎える夏休みのこと…。

「今年の夏はどうなるんだろう……」漠然とした不安と期待が胸をよぎるが、それを考えるのも面倒になり、ただこうしてアイスを食べながら空を見ている今が、一番の幸せなのかもしれないとミヨミは思った。

しかし、その安らぎは長くは続かなかった。しばらく空を見つめていたミヨミが、ふと手元に目をやると、持っていたはずのアイスがみるみるうちに溶けていたのだ。指先に伝わるぬるっとした感触に驚いて、慌てて手を引っ込める。

「ああ、もう溶けちゃってる……」アイスの棒には、すでにアイスクリームの塊は残っておらず、白い液体が指を伝ってポタポタと地面に垂れていた。地面にできた小さな白い水たまりに、次第にアリたちが集まり始める。

「あ、アリ……」ミヨミは目を丸くして、その光景を見つめた。アリたちは溶けたアイスに群がり、せっせと巣に運ぼうとしている様子だった。

「まあ、いいか……」ミヨミは肩をすくめ、あきらめたようにアイスの棒を傍らに置いた。せっかくのアイスが溶けてしまったことに少し残念な気持ちもあったが、アリたちが一生懸命に働いている姿を見ていると、それすらもどこか愛おしく思えてきた。

「こんな暑い日も、悪くないな……」ミヨミはそう呟きながら、再び空を見上げた。夏の空は変わらず青く、雲はゆっくりと流れ続けていた。アリたちがせわしなく動き回る姿を横目に、ミヨミは次に何をしようかと、夏休みの計画をぼんやりと考え始めた。

その日は、何も特別なことは起こらない、ただの暑い夏の日だった。けれど、そんな何気ない日常が、ミヨミには心地よかった。




時間を割いてくれてありがとうございました。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?