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短編小説 「休日の台風」



高校生のモヨコは、朝から窓の外を眺めながら、ニヤリと笑っていた。天気予報通り、台風が接近している。空は灰色に染まり、風が木々を揺らしていた。学校は台風の影響で休校になり、モヨコはその知らせを受けると、ベッドに飛び込んで歓喜の声を上げた。

「今日は一日、のんびりできる!」

普段は学校や部活で忙しいモヨコにとって、こうした「突然の休暇」は何よりも嬉しいプレゼントだ。枕を抱えてゴロゴロとベッドの上で転がり、タブレットで好きな動画を見たり、本を読んだりして時間を過ごす。外では、雨が激しく窓を叩き、風が唸り声を上げていたが、モヨコの部屋の中はまるで別世界。ぬくもりに包まれたベッドの中で、モヨコは「台風の日の特別な安らぎ」を満喫していた。

しかし、昼過ぎになると、その特別な安らぎに少し飽きがきた。ベッドの中で過ごす時間も心地よいが、モヨコの心の中に、外の嵐が引き起こす興奮が少しずつ芽生えてきた。外の世界に惹かれる何かが彼女をそわそわさせていた。

「ちょっと外に出てみようかな……」

モヨコはベッドからゆっくりと起き上がり、パーカーを羽織った。窓を開けると、風が一気に部屋の中に吹き込み、カーテンがはためいた。モヨコはその風の強さに一瞬たじろいだが、次の瞬間には笑顔を浮かべて玄関に向かった。

玄関のドアを開けると、強烈な風と共に雨が顔に当たり、一瞬息を呑んだ。しかし、その冷たさと刺激に、モヨコの心はますます躍った。裸足のまま、彼女は家の前の小さな庭に飛び出し、風と雨のシャワーを全身で浴び始めた。

「すごい!すごい!」

風に煽られながら、モヨコは声を上げて笑った。髪はびしょ濡れになり、パーカーも体にぴったりと貼り付いていたが、その感覚は日常では決して味わえないものだった。木々が揺れ、雨が顔に叩きつけられるたびに、彼女の心の中で何かがはじけるような気がした。

「台風って、こんなにすごいんだ!」

家の周りを駆け回り、風に逆らって歩いてみたり、わざと強い風に身を任せてみたり。モヨコはその嵐の中で、一瞬一瞬を全身で感じていた。これまでのどんな台風とも違う、特別な体験だった。

やがて、モヨコは家の中に戻ると、冷えた体を温めるためにシャワーを浴び、ふわふわのタオルに包まれてホットミルクを飲んだ。外ではまだ嵐が続いていたが、モヨコの心の中には、まるで冒険を終えた後のような満足感が広がっていた。

「やっぱり台風の日も悪くないね」

その夜、モヨコは疲れた体をベッドに沈め、台風の音を子守唄にしながら深い眠りについた。そして、心の中には次の台風の日が待ち遠しいという、ちょっとした期待が芽生えていた。

この日、モヨコは台風の怖さだけでなく、その中に潜む「楽しさ」も知ったのだった。




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