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短編小説 「ハヤブサ」



僕の名前はハヤブサ。天空を自由に飛び回ることができるその名前は、誰もが羨むものだった。翼を広げて風を切るたびに、僕は何度もこの世界の美しさに感動した。大空を舞うことは、僕にとって何よりの自由だった。

ある晴れた日の午後、僕はいつものように青空を滑るように飛んでいた。雲ひとつない澄み切った空は、まるで無限のキャンバスのようだった。陽の光が翼に反射し、僕は一層高く舞い上がる。だが、その自由も一時のものだと知っていた。

地上を見下ろすと、広がる大地には緑の森や輝く川が見えた。その中に、ひときわ目立つ一本の木があった。年老いた大樹は、無数の枝を伸ばし、まるで天空に触れんばかりに手を伸ばしていた。その木の頂に、一羽のカラスがいた。

「こんにちは、ハヤブサさん。今日も素晴らしい空を飛んでいるのですね」

カラスはそう言って、僕に向かって翼を広げた。

「そうだね、カラスさん。今日も空は僕のものだ。でも、君はどうしてそんな高いところにいるの?」

「私はここから世界の変わり様を見ているのです。空も大地も、いつかは変わる。それが諸行無常というものですから」

僕はカラスの言葉に一瞬戸惑った。自由な空を飛び続けることができる自分にとって、変わらないものなどないという考えは、どこか遠いものに感じられたからだ。

「でも、僕は飛び続ける。自由であることは、変わらないものだと思うんだ」

「それもまた一つの真実かもしれません。でも、ハヤブサさん、あなたの翼もいつかは疲れてしまう。その時、自由はどうなるのでしょうか」

カラスの言葉に、僕は考え込んだ。確かに、僕の翼もいつかは疲れ、飛べなくなる日が来るかもしれない。その時、自由はどうなるのだろうか。諸行無常とは、すべてのものが変わり続けるということなのかもしれない。

その瞬間、僕は一筋の風に乗って再び高く舞い上がった。自由とは、一瞬一瞬を生きること、その瞬間を大切にすることなのだと感じたからだ。

その後も、僕は空を飛び続けた。自由の喜びと、いつか訪れる変化の切なさを胸に抱いて。翼を広げ、風を感じるたびに、僕はその瞬間を生きることの意味を噛みしめた。

そして、夕暮れが近づく頃、再び地上へと降り立った。足元には、広がる大地と広がる空があった。諸行無常という言葉の意味を、少しだけ理解した気がした。自由とは、一瞬一瞬を大切に生きること。その瞬間を、全力で楽しむこと。

夜空に輝く星を見上げながら、僕は再び翼を広げた。明日もまた、新しい自由が待っている。変わり続ける世界の中で、僕は飛び続ける。それが、僕の選んだ道なのだから。




時間を割いてくれてありがとうございました。

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