技術の数だけ、プログラマーは覚醒する

 結論から言うと、プログラマーが何か新しい言語や技術を会得するのは
ファンタジーRPGにおける覚醒とか、レベルアップとか、ニュータイプとしての能力が上がったりとか、種が割れるとか、まぁそんな感じに近いんじゃないかと思う。
 それを補則するのが以下の小噺。

 7月というのは、私にとって懐かしい季節でした。
 当時勤めていた某インテリア商社の悪行三昧に心底幻滅した私は、一つの夢に挑戦しようとしていました。
 それは、転職してプログラマーになる事でした。

 子供の頃からコンピューターのように、目に見えて何かの動きを見せる物が好きだった私からすれば、ドット絵で一直線に動くシューティングゲームはさながら延々と戦闘シーンが続くハリウッド映画に等しく思える物だったので、いつかそういった物に関わりたいと思っていた物です。

 しかし、家庭の事情(これは皆で焼肉でも食べながら話しましょう)
から、そういった分野への進学を許されなかった私は、独学でプログラミングやCGを学び、初歩的ながらも知見を広げていきました。

「独学ながらも、プログラミングの経験があります」と、お世辞にも良いとは言えないソースコードを私はとあるIT企業の社員に見せた所、彼は私に、こう言いました。
「充分戦えますよ。それに、貴方はこれから成長出来る」

 それから私は7月から田町でプログラマーの仕事を始めました。
 駆け出しで何もかも判らず、途方にくれる事もあっても、良い先輩に恵まれ、様々な技術を取得しました。

 7月前半のややけだるい夕暮れ時、なれない仕事で緊張した心を解す為、田町駅近くにある、割烹着姿のおじいさん達がきりもりする立ち飲みの焼き鳥屋でビールを飲んだりしました。

 覚えなければいけない事はあるし、忙しいけれども、楽しい仕事だと。
 そんな事を思いながらビールのおかわりを注文しました。
 あの瞬間が人生の絶頂期だったのかもしれません。

 やがて、ある時プロジェクトリーダーから新しい仕事を任されました。
 それは私が触った事が無いプログラミング言語の解読と修正でした。

 私は焦りました。
 何故ならば私はそれについて全く何も知らないから。
 当然、嘘をつくわけにもいかず
「この言語は知らないから無理です」
 そう言いましたが、他に任せられる人がいないという理由で私は孤軍奮戦する事を余儀なくされました。

 半日後……
 何がなんだか判らない。
 そもそもその単語が何を意味しているかも判らない。
 賢明な読者は「ググレカス」と言うかもしれませんが、あの頃はまだあのgoogle先生の検索精度もそこまでよくなかったし、技術文章を書く人も少なかったので、会社の奥にある古びた書籍と付け合せて、古文書の解読でもするかのように脳内インタープリターを動かしながら解読を進めました。

 夕方ごろ、ようやくその言語と、それで作られたアプリケーションの動作に必要なコマンドがあらかた判ってきました。
 もう怖がる必要はありませんでした。
 UNIX上にある、そのアプリケーションは手足のように動きました。
 単にシステムが動いただけではなく、私はその新しい言語を会得出来た事が心から嬉しかったのです
 時代が時代なので私はこう呟きました。
「やっと言う事を聞いてくれたか。このツンデレさんめ」
(※当時は電波ソングブームやツンデレブームあたりです)

 あれから10年。
 私は様々なOSやプログラミング言語、フレームワーク、APIを使った開発スキルを取得してきました。
 仕事にしても個人的な用途にしても、そういう新しい技術に触った最初の数時間は「こんな面倒な物を作りよって!」と海原雄山のような顔をしても「暫くすると、満面の笑みでこう言います。
「よおし、よし、良い子だ良い子だ」
(※筆者はエースコンバットファンです)
 何故かといえば、少しまでまるで言う事を聞いてくれなかったその技術が、自分の掌の上で簡単に動くようになるのはとても嬉しいからです。

 新しい技術を理解し、会得した瞬間、プログラマー・システムエンジニアは新しい力を手足のように操る事が出来る様になります。
 その瞬間、新しい技術を会得した事を心から喜び、快感に浸ります。

 それは、フォースに覚醒するような物かもしれません。
 そしてその覚醒は、本人が学びたいと願えば願った数だけ訪れます。

 覚醒を何度も繰り返したプログラマー・システムエンジニアはとても強いですし、なによりも素晴らしいと思います。
 だから、私には到底理解の及ばない最先端技術を使いこなすトップクラスのシステムエンジニアやAI研究者は、その覚醒を幾度と無く繰り返したのだと思います。
 まるでジェダイの騎士ですね。

 そして私は今、幾つか新しい技術を学習中です。
 仕事絡みなのでまだ言えませんが、その時はまた、私は何度目かの覚醒をしている事でしょう。

 全てのプログラマーとシステムエンジニアへ……
 フォースの加護があらんことを!

 

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