詩【運ばれの唇】

度重なる不慮に際して
どうしてくれようかと思いに耽るものの
物語のさわりはまだこれからのようで

ひとときの余暇をと
道すがら聴きこんだ陽水
あてのない明日にふれる心
夢のあいだに浮かべて泣こうか

鏡の中の顔の表面に
はにかんだ形の唇が映る
不器用な言葉を吐く所以を
今再びに探す間も無く
気づいたらもうそこに
またそこに着いている

閉まろうとする度に
開かれるエレベーター
失った開閉のコントロール
降り注ぐ視線
箱の中の逃げ場

昇降に意味合いはなく
この箱にも意味なんてない

意味のない箱に運ばれる唇
その形と似たような幾何学模様の鍵
見かけ倒しでしかない
鍵付きの自転車の安っぽい鍵

フラフラと進む16インチの自転車は
小回りばかりがきいて
寂しさの徒然にはちょうどいい

そうやっては毎日飲む
朝露の駅で買ったコーヒー味の水
唇からこぼれ落ちた水滴は滴り
我こそはと首元へ染み込んで行く

そのスピードもよそにゆらゆらと
揺れながら踊らされる無気力なルンバ
目指されるは本当に本当は
一体どこなのだろう

序章ばかりを繰っては
先に読み進まない小説のようだね

つまらないわけがないのに

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