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大人になって見ないふりをしていた感情の揺れ動き┃Netflix「その年、私たちは」

2021年の年の瀬、とんでもない名作がNetflixに現れた。

とにかく良すぎたので、少しでも多くの人にこの作品を見てもらえるように記録を残していきたいと思います。

※ややネタバレ要素あるかもしれないので注意

学生時代、あるドキュメンタリー番組に出演したことをきっかけに恋人同士だったチェ・ウンとクク・ヨンス。二度と会いたくないと思っていた2人は10年後、友人ジウンの誘いをきっかけに再びドキュメンタリーを撮ることになり、再会することになる。

大人たちの青春 丁寧に描かれた感情の揺れ動き

ウン・ヨンスを筆頭に、主要登場人物は全員アラサー。立派な大人だが、信じられないくらい甘酸っぱい。とっくの昔に過ぎ去った青春が帰ってきた気がする。

そして、登場人物全員が誰かに強い関心を持っており、心を惹かれ、乱され、揺さぶられる。後半のエピソードである人物がドキュメンタリー番組の極意についてこう語る。

「出演者の視線を追うのよ」

思えばこのドラマも、同様の手法が随所に用いられていた。誰かの視線の先が描かれている。
一度は経験があるかもしれない。好きな人の好きな人を知ってしまう瞬間や自分じゃない誰かを愛おしむ姿を見てしまう瞬間。相手の視線の先は自分ではないこと。目は口ほどに物を言う。視線を辿れば、人の気持ちはわかる。この作品は、その人のことが好きだからこそ見えてしまうさり気ない仕草や感情の揺れを取りこぼすことなく捉えている。主観的とも客観的ともいえる絶妙なカメラワークが素晴らしい。

私はエピソード13のジウンとチェランにアアアアアア(略)(見てください)

マジでいいやつしかいない

悪いやつが1人もいない。物語に必ず1人入る悪者がいない。とにかくみんな良いやつ。びっくりした。韓国ドラマってだいたい誰か殺されたり会社を乗っ取られたり攫われたりしてるのに(偏見)。全員誰かのことを想い行動している。飲み込まれた言葉や抑えられた感情が多いからこそ、もどかしい気持ちにはなるが、みんな良いやつだからみんな幸せになってほしい。勧善懲悪、スカッとジャパンを求める人にとっては物足りなさを感じるかもしれないが、なるべくイライラハラハラしたくない自分にとってはとても良い。こんなに素敵な世界があって良いんだろうか。こんな世界で暮らしたい。

光の切り取り方がめちゃくちゃ綺麗 これぞ映像美

とにかく絵が綺麗。初夏の学生時代はとにかく最高だし、なにより良いのはにわか雨。何度か2人を襲うにわか雨は、光と水が反射しキラキラと光り輝き、とにかく良い。文学的な情景描写が苦手で全然良さが伝えられないが、見ればわかる。良い。キービジュアルがもう既に素敵な光。

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起伏の少ないストーリーを飽きさせない構成

このドラマはとにかく起伏が少ない。会社は乗っ取られないし誰かの仲が突然引き裂かられることもない。前述の通り、とんでもない悪も存在しないので、視聴者の心を掴み続けるのが難しい。

ただ、とにかくゆっくりと時間が流れ、緩やかに関係性が変化していく。そして、この雰囲気こそが作品の良さである。しかし、韓国ドラマは1話ごとの尺も話数も多い分、視聴者の挫折ポイントも多い。たぶん。(私も例外ではなく、今まで4話以内で挫けた視聴中コンテンツが計り知れないほどある)

そんな挫折トラップを見事にすり抜ける、且つ作品の特長を壊さない程度の些細な演出が随所に施されている。同じ場所で展開されるシーンの時間軸ずらしだ。
例えば、ウンの自宅のシーン。ヨンスが自宅を訪れた時間とウンが自宅に戻った時間はまったく別の時間帯であるが、2つのシーンを連続映し出すことで同じ時間軸で進行しているように見せ、「鉢合わせちゃうかも!?どうなの!?」というプチドキドキを味わえる。

そして2つのシーンの間の空白の時間をエピローグで見せることで、「実はこういうことだったのか」と腑に落ちるようにもなっているため、「あのシーン結局なんやったんやワレェ‼︎」という後味の悪さもない。エピローグの使い方、上手いんです。

この演出は、物語が極めて狭いコミュニティで展開されているからこそできるものでもある気がする。そして次回予告も作り方も上手いです。

【まとめ】ただ日々をこなす社会人が変化の美しさと残酷さを再認識できる名作

社会人になって失ったものの一つが、季節の移ろいだった。
季節を感じるイベントもなくただ日々仕事をこなしていく自分の胸をついたのは、このドラマの四季の変化だった。緩やかに進む物語の中に、確かに感じる四季の香り。初夏の匂いや春の訪れ、冬の孤独を感じる物語に心惹かれた。季節だけでなく、昼間の喧騒と夜の孤独の対比など、一日の時間の流れも丁寧に描かれている。緩やかな時間の流れの中に、確かな何かを味わえる。

そして、登場人物の細やかな感情の揺れ動き。思えば、大人になって随分感情の変化に鈍感になった気がする。相手の些細な言動にいちいち一喜一憂していた。返事の仕方一つに不安になったり喜んだり…。しっかり傷ついて、しっかり浮かれたあの頃と比べ、今は感情の揺れを恐れてなんとなく人と接するようになってしまった。人と向き合うことの辛さと幸せを真正面から受け取っていた時を思い出せた。

「その年、私たちは」は、季節や感情の些細な変化を感じ取る美しさと残酷さを再び味わえる。疲弊した社会人の皆さん、過ぎ去った青春をもう一度味わえるこの作品をぜひ見てください。


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