「あを」

アヲの示す色相は広く、青・緑・紫、さらに黒・白・灰色も含んだ。古くは、シロ(顕)アヲ(漠)と対立し、ほのかな光の感覚を示し、「白雲・青雲」の対など無彩色(灰色)を表現するのは、そのためである。(日本国語大辞典)

 人の視細胞には桿体細胞と錐体細胞がある。桿体細胞はロドプシンという光受容色素の働きで明暗を感知し、錐体細胞はフォトプシンと呼ばれる3種の光受容色素の働きで色相を判別するといわれる。

 暗闇でもロドプシンの光受容は非常に感度が高く、錐体細胞の働きが鈍っても桿体細胞は働き続け、かすかな光をとらえることができる。ロドプシン以外の光受容色素が働かないので色の判別はできないが、暗闇の光が青い印象を受けるのはロドプシンの吸収する光のスペクトルが波長498nm付近で最大となり、青緑の色相に相当するからであろう。明るい所では錐体細胞の影響下に隠れてしまうが、桿体細胞も青緑の領域の色覚に補助的な関与をしているのではないだろうか。

 そう考えると「あを」が古くは暗闇での「ほのかな光の感覚」や白、灰、黒の「無彩色」をあらわすこと、青から緑の色相をカバーする色名であったことなどと、桿体細胞の働きが見事に符合していることに気づく。つまり「あを」は桿体細胞が刺激を受けている感覚を表している語であったのだ。

 古代の日本人が桿体細胞と錐体細胞の働きの違いを経験から感じ取っていたことを示唆している。


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