Spring has come
『ピクニックに行かない?』
現実世界では聞くことはないと思っていた言葉を耳にしてワタシは思わず振り向いてしまった。
出会いは大学時代のバイト先だった。
3ヶ月だけバイト先の先輩だったワタシは、彼の教育係に任命された。
地方から出てきたもの同士、意気投合するのは時間の問題だった。
あれから5年。
大学を卒業し社会人になってからもこの関係は続いていた。
『ワタシ、春がキライなの』
冬の間、土の下でため込んだ命を一気に溢れ出すように、命が芽吹く春はどことなくむせかすような生の匂いがして、押し付けがましい雰囲気がしてしまう。
彼はワタシのそんな心のうちを知る由もなく、まるで何かに急かされるように春の中を生きることにソワソワしている。
『ワタシは自分の中の時間で生きている』
思い起こせば子どもの頃からそうだった。
家から幼稚園までの通園路はワタシのお気に入りの美術館だった。
給食は運動場へ駆け出していく友達を横目にしっかりと味わっていた。
バーゲンセールで買い物は絶対にしなかった。
マイペースに過ごしてきた5年間。
彼との関係だけは、マイペースとは言えずどちらかというと考えることを避けてきた。
パートナーとの幸せな関係は、同じスピードの時間の中で育まれると思っている。
そんな彼との関係はよくここまでもったと自分を褒めてあげたいと思う反面、ここまで判断を送らせてきたことを非難している自分もいる。
限界まで空気が詰まった風船に針を刺す。
春の息吹のように一瞬で破裂する風船が一般的だが、ワタシの風船は針で開けた穴からシューという音と共に、風船の中の『何か』が抜けていく。
『別れましょ』
口からこぼすのが精一杯だった。
ワタシの風船がしぼんでしまう前に伝えないといけない言葉は、手の中にあったスマホがするりと手から抜け出すように、アスファルの上にこぼれ落ちた。
『ワタシ、春が嫌いなの』
ワタシはワタシの時間を生きる。
別れに寂しさはつきものだ。
それでもワタシは、誰にも媚びずに自分の時間を生きる。
春の次に訪れるであろう夏に向けて。
春は新しい出会いのために別れがある季節。今年の春はカメラ機材で、新しい出会いのために別れがあるのか、ハラハラドキドキしながら息を潜めています。。。
※写真は全てSIGMAfpで撮影しています。
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