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第16話「20歳のバースディ」

1991年9月25日、カツヒロは20歳を迎えた。

メルボルンに留学をして、もう直ぐ半年になる。友達の数は50人ぐらいまで増えていた。クラスも2つ上のUpper Intermediateに進めた。上のクラスに行くと、時々、スイス人とかドイツ人などヨーロッパ系のクラスメイトが来たりする。彼らは英語の遠い親戚であるラテン語の理解があるから、英語を話せるようになるスピードが圧倒的に早い。

スペイン人のエミリアなんて、わずか2週間の滞在で相当な英語力を発揮していた。

「すげーなー。俺もあんな風にどんどん喋れるようになりたいな~。」とカツヒロは授業中考えていた。

語学学校も半年もいると大分メンバーが様変わりしていた。長い人で1年ちょっと学んでいる者もいるが、短い場合は2週間、夏休みを利用して短期間だけ学ぶ大学生などもいた。平均すると滞在期間は4,5か月ぐらい。別の学校に替える人も中にはいたが、ワーキングホリデイ組は1、2か月間、英語の基礎を学んだあとに仕事に就いた。

・・・。

「よし、今度の日曜日、俺の誕生日会を盛大にやろう。折角、はたちになったし、ICEを卒業した友達に声をかけて、同窓会的な意味合いも入れて楽しく過ごせたら最高だよな。」

そう考えたカツヒロは、ランチタイムにミカとタカエにアイデアを伝えた。

「いいね、カツヒロ。大分、温かくなって来たからBBQとか良いんじゃない?、ねえミカ」

とタカエが弾んだ声で言うと

「そうね、久々に皆とも会いたいし、花火とかやったら楽しそう。ワーホリ友達も呼んでワイワイ飲んで騒ごうか?」

とミカも楽しそうに答えた。

「そうそう、未だ夏じゃないけど、花火もいいけど、スイカ割りしたり、冷やし中華を食べたいね。」

「うん、食べたい。」

3人は、いつも以上に盛り上がった。

よし、決まりだ。俺、キャロライン(校長)に話してみるよ。彼女は家も近いから。うちのクラスだけでなく他のクラスの留学生や先生方も誘ってみるよ。」

カツヒロは、放課後、キャロライン校長に大BBQパーティーの話をした。するとキャロラインものり気で、直ぐに話がまとまった。

留学生は皆、色々な国からオーストラリアにやって来ているので、それぞれの国の料理を一品作って持参するルールになった。カツヒロはフラットメイトのウンソンと共同で牛肉やソーセージを準備する事になった。

会場はクーヨンパーク。皆が作った料理は一度、カツヒロのフラットで預かり、集合時間の18時になったら公園内のテーブルに運んだ。

BBQパーテー

「あー、本当に楽しい。皆、元気そうで良かった。料理もおいしくてお腹が破裂しそうなくらい食べたかな?」

「ミカ、ありがとう。冷やし中華、めちゃくちゃ美味しかったよ。」

冷やし中華は物珍しさもあり、本日の一番人気だった。日本食レストランで働いている友人が、得意の鉄板焼きスタイルでチャーハンを作ってくれたり、日本の焼き鳥を焼いてくれた。ウンソン家秘伝のキムチの評判も良く皆、たくさん食べた。

スイカ割りも好評だった。わざと、皆、違う方向を教えて、挑戦者を惑わしたり、割ろうとした瞬間にスイカを動かしたりして、盛り上がった。

・・・。

急にクラッカーがなり出し、何だと振り返るとタカエがバースディケーキを持って来た。皆が一斉にHappy birthdayを歌い出す。最後のHappy Birthday to youと歌い終わった後に、カツヒロは20本のろうそくの火を消した。

皆が祝福のメッセージをカツヒロに投げかける。

「うわー、なんか俺、ホント幸せだよな。こんなにたくさんの友達に囲まれて。」


カツヒロは、ふと1年前を思い出す。

確か9月の誕生日の前に大きな台風が来て、普段より1時間近く時間をかけて新聞配達をした。雨が強くて、視界も奪われるからバイクのスピードは出せない。停車する時も、横風でバイクが倒れないように、いつもより慎重になる。

あの日は学校に遅刻しそうだったから、いつもよりスクーターをマックスで飛ばしていた。あと、5分で学校に到着する所まで来ていたのに、後ろから猛スピードで白バイが追いかけてきて、25キロオーバーで捕まった。

高校時代は3年間無遅刻無欠席で卒業式で表彰されたのに、その記録が呆気なくその瞬間に終わってしまった。

悔しかったし、悲しかったけど、悪いのは自分。


違反切符と8,000円の罰金だけで済めば、まだあきらめがついたのだけど。残念ながら、そうでなかった。

カツヒロは新聞配達を始めたばかりの昨年4月、配達中に事故で自転車の女性を引いてしまっていた。正確に言えば、双方の前方不注意が原因の事故で100%カツヒロが悪い訳ではない。

目通しの悪いT字路を左折する際、下り坂でスピードが出ていた自転車がカツヒロのバイクの前輪にぶつかって倒れた。言い訳になってしまうが大量の新聞を前カゴに積んで配達をするので、それだけで視界が奪われる。

新聞配達

直ぐに警察を呼んで事故処理をした。

幸い相手側は擦り傷程度で済んだが、ここでカツヒロは運転免許のポイントが2点減らされた。更に今回のスピード違反で危険運転防止の特別講習に呼び出される事になった。

当時のルールだと20歳未満の未成年者は、家庭裁判所に呼ばれて簡単な裁判が行われる。参加するのは判事が一人と本人とその保護者。母親に仕事を休んで東京まで出て来たもらった。

息子の不祥事のせいで、君津駅を早朝に出発する電車に乗って、わざわざ東京まで出て来た母。その時の母親の気持ちを考えると、カツヒロは本当に申し訳ない気持ちで一杯だった。

裁判の結果は未成年危険運転防止の1日特別講習会への参加だった。代々木公園の近くにある公共施設で一緒に講習を受けたのは、17歳と16歳の少年少女ばかり。よく話を聞いてみると暴走族でヤンチャな事をしでかしたようで、皆、不貞腐れていた。

「俺にも言い分はあるけど、彼らにも、きっと彼らなりの言い分があるんだろう。」カツヒロはそう考えながら、まじめに1日講習を受けた。


つづく。

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