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高松庸平(2019)『筋の良い仮説を生む 問題解決の「地図」と「武器」』の感想

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参考URL:
https://www.amazon.co.jp/dp/B085XWGMNP/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_G4qmFb0ETR9JK

近頃、仮説検証型の仕事の進め方が大事だと感じることが増えているが、一方で仮説検証がうまくできたと感じることは少ない。「自分の仮説力を高めたい」という一心で、本書を手に取った。
読んで感銘を受けたのは、第一に「筋の良い仮説」は現状分析から始まるということ、第二に仮説はビジネス全体を俯瞰する視点をもって立てる必要があるということである。両方とも、過去にMBAの講義で学んできた内容であるが、恥ずかしながら得意であるという実感がない。このモヤモヤが整理できたことに、私は本書の価値を感じている。

本書が向いているのは、おそらく次のようなタイプの人だ

対象者:
・フレームワークを学んだけど、うまく使いこなせない人(特に事業戦略を学びたい人)
・何か新しい事業に自力で取り組まなければいけない人

「筋の良い仮説」とは

最初に、本書がいう「筋の良い仮説」という言葉の定義を確認しておく。本書の中の「仮説」とは、次の2種類の文章を指す。

・この背景にはこういった事実が潜んでいるのではないか(課題発見の仮説)
・こうすればうまくいくのではないか(課題解決の仮説)

また、「筋の良い」仮説とは、「真実により近い確からしい」仮説のことを指す。

仮説をもちながら仕事をすることで、仕事の見通しが良くなり、不必要な情報収集がなくなるなどのメリットがある。ただし、筋の良い仮説を立てるには視野の広さや、経験が求められ、容易なことではない。仮説の立案・検証とは、単純なルールあてはめ(演繹法)や、事実の抽象化(帰納法)とは異なる、より高い技術が求められる思考方法だからである。

ルールあてはめ(演繹法)や、事実の抽象化(帰納法)は、既知の情報を組み合わせているだけであり、確実である代わりに新たな情報を生み出さない。仮説の立案・検証とは、情報を完全に集めきれない中で、不確実ながら仮の案をつくり、テストしていくという推論方法である。ちなみにこの推論方法は、哲学的には、アブダクションと呼ばれている。

「筋の良い仮説」は現状分析から始まる

本書は、経験が浅い読者でも仮説の立案検証を可能にするために、独自のフレームワーク「問題解決マップ」を提案する。
内容は、問題解決のステップ(現状分析、問題認識、情報収集、課題抽出、課題解決の方向性、アイデア創出、評価)をベースとする、フローチャート的なものである。一般的な問題解決のステップに、定番のビジネスフレームワークが組み合わさった組み合わさったものを想起すればよい。手順自体は非常にオーソドックスであるが、そうであるだけに自分の不足点がよく分かった。

力不足を一番痛感したのは、「課題抽出」のステップである。課題とは問題の根源となる一番悪い部分であり、ここで定量データやインタビューなどを整理して仮説を立案する。ポイントは、個々のデータにとらわれず、総合して一段高い目線から事実を背景を推測することにあるが、私にはうまくいった経験が少ない。個々の事象を抽象化する帰納法にとどまることが多いのである。

なぜ、課題が抽出できないのか。個々の事象を架橋し、一方で安易な一般化でもない、より高い目線はなぜ得られないのか?


それは前のステップ「情報収集」ができていないからである。このステップでは、事前に特定したビジネス上の問題を、フローチャート「事業部長の視点」を用いながら原因仮説へと変換し、その裏取りというかたちで情報収集をする。うまくいかない経験を振り返ると、原因仮説が十分に練れていなかった。

だがさらに振り返ってみると、ビジネス上の問題は、十分定義できていただろうか?(ステップ2:問題認識) そもそも、あるべき姿は十分明確といえるのか。問題はMECEに切り分けられているのか?(ステップ1:現状分析) 戦線を後退させるとキリがないところではあるが、だんだん自信がなくなってくる。一方、課題抽出がうまくいった経験を振り返ると、事前に自分の頭の中に新業務フローがマッピングされており、原因仮説のリストらしきものもあった。またあるべき姿も具体的に描けていた。

つまるところ、課題抽出がうまくいかないのは、その前工程である現状分析~情報収集までのどこか(あるいは全て)が、グダグダになっていることに原因があるようだ。多少の手戻りは覚悟のうえでも、現状分析、問題認識をしっかりさせることが、筋の良い仮説へ至る王道なのだろう。

ビジネス全体を俯瞰する視点をもって仮説を立てる

本書の売りはおそらく、ビジネスモデル全体を俯瞰するためのフローチャート「事業部長の視点」と、原因仮説のパターンリストである。
「事業部長の視点」自体は、5F、バリューチェーン分析等々定番フレームワークの組み合わせではある。ここで大事なのは、

・定番フレームワークを、いきなり情報収集を始めるためでなく、原因仮説を検証するために用いていること
・原因仮説は場当たり的に出すのではなく、ビジネスモデル全体を見通して出すこと

である。個々の原因仮説自体は抜けもれなく検証できたとしても、原因仮説のリスト事態に抜け漏れがあってはいけない。だが、原因仮説をゼロから立てるのはけっこう大変だ。「事業部長の視点」チャートと原因仮説リストは、その点を担保する。つまり、この2つツールの提供価値とは、「原因仮説を抜けもれなく考えるため、ビジネスモデルの全体像をマッピングする」という点にある。

一般的なMBAの枠組みで行くと、このチャートは競争戦略全般をカバーしているといってよい。ちなみに、全社戦略とファイナンスに該当するチャートとして、「社長の視点」(企業価値、事業ポートフォリオ、B/S)も少しだが取り上げられている。

本書の内容、考え方は、自分の業務でもすぐ使えそうと感じる。「事業部長の目線」は、ある程度自分の業務に合わせてカスタマイズできそうでもある。例えば、自分は管理部門にいるので、個々の事業の競争戦略よりも全社目線にしたほうがよく、「事業部長の目線」はバランスドスコアカードをベースにしたほうがよいかもしれない。また、新規事業を立案する人の場合は、「事業部長の目線」はビジネスモデルキャンバスや、リーンキャンバスのほうがいいかもしれない。

この本の価値は、個々のフレームワーク以上に、それを繋げてどうやって仮説を立案し、打ち手につなげるかという手順が明快に示されているところにある。さっそく明日から試してみようではないか。

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