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スタートアップの悩み相談「なぜ銀行とのコミュニケーションがうまくいかないのか?」三つの理由を教えます

こんにちは、ステラ・システムズCEOの原です。ステラ・システムズはスタートアップの資金調達や事業計画の策定を支援しています。このNOTEは資金調達に困っているスタートアップの役に立てばと思い、書いています。私は、今まで30社以上のスタートアップの支援をしていますが、その中で多かった質問や課題とその回答を記載していきたいと思います。

まず、最初に断っておかなければいけないのは、課題に対する完全な回答というのは存在しません。そのため、単純に課題とその回答を羅列するのではなく、課題の背景や適用している理論等をきちんと説明していきたいと思います。スタートアップの皆さんも似たような事例があり、迷うことがあれば、お気軽にhara.dsk.stella@gmail.comまでお問い合わせください。

相談が多い質問として、「銀行とのコミュニケーション方法がわからない」、「ベンチャーキャピタル(VC)等の投資家とはコミュニケーションが取れるが、どうも銀行とは上手く行かない」といった銀行との関連に関するものが挙げられます。今回は、利害関係者とのコミュニケーションについて説明していきましょう。

第一に、単純に性格の違いが考えられます。銀行はどちらかと言えば保守的な人が多いですし、投資家はイケイケな人が多いです。スタートアップはイケイケの人が多いので、同じ考え方の人と話が弾むだけかもしれません。これはコミュニケーションが上手くいかない理由の説明はできますが、解決策が提示できず、あんまり意味ない感じの回答です。

第二に、銀行とあなたの目的にズレがあるかもしれません。これは「エージェンシー理論」で説明できます。

エージェンシー理論とは、情報の非対称性を前提として、プリンシパル(ここでは銀行や投資家)とエージェント(ここではスタートアップ)の間に生じる利害対立を指します。定義だとよくわからないと思うので、具体例で見ていきましょう。

銀行の目的は、端的に言えば、貸したお金を金利込みで返してもらうことです。なので、銀行はプリンシパルとして、エージェントであるスタートアップにきちんと経営して、お金を返してもらうことを期待しています。一方、投資家の目的は、企業が成長して、最終的に投資した株式を高い価格で売却できることです(IPOやM&A)。なので、プリンシパルである投資家は、エージェントであるスタートアップに思い切った経営をして欲しいと思っています。そのため、企業行動が現在の利益ではなく将来の利益にフォーカスしていると(例えば、当面は広告宣伝費を投下してとにかくユーザー数を増やす、赤字を許容する)、投資家にとってはハッピーな行動で、銀行にとってはあまり好ましくないかもしれません。なので、自分たちの説明がプリンシパルの期待に沿ったものかどうかを検討してみるといいかもしれません。実際、銀行向けの資料を従来の投資家のピッチ資料から、よりキャッシュフロー中心の資料に変えたことにより、銀行から新規で資金調達できたり、リスケできたりした例もありました。

余談ですが、実はスタートアップが思いっきり経営せず、投資家がヤキモキしているケースも多いです。例えば、投資家としては新しい事業のために投資したのに、スタートアップ側は既存の受託事業をいつまでも続けて、新しい事業に集中してくれない場合です。実は投資家は色んな先に投資しているので、一件当たりについてのリスク許容度は大きいのです(失敗しても失うのは投資額のみ)。一方、スタートアップ側はそのビジネスのみに集中しているのでどうしても大胆な方針をとりづらいことがあります(人生賭けているので、失った時の損失は計り知れない)。エージェンシー理論の詳細な説明は入山先生の「世界標準の経営理論」に記載があるので、興味がある方は読んでみてください。

第三に、銀行と投資家ではスタートアップの見方が異なるというのがあります。投資家の目的はスタートアップの大きな成長で、その究極的な原動力は、経営者や経営チームです。なので、投資家の方が、経営者自身に着目している可能性が高く、そのため、スタートアップ側にとっては自分のことをきちんと見てもらえているという感覚になるのかもしれません(銀行がスタートアップの経営者を見ていないとは言いませんが、彼らの本質的な目的とは直接関連はありません)。

今回は、銀行とのコミュニケーションについて、主にエージェンシー理論から説明をしました。次回は、銀行と投資家に対してどのような資料を出すべきかについて話をしていきます。

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