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明日へのつばさ

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あの彼方のひかりの中へ...どこからともなく響く言葉…

緩やかな波の呼吸のなかで洗われた砂が海の言葉を描いてゆく。それは小さな流砂が聴きとどけた海のメッセージだった。

時をわたる風が頬を撫でてゆく… ひかりが滲んだような風は、まだ海の息づかいを宿しているように思える。幾つもの時を越えた風を抱きながら、私はその翼に身を任せていた。

そこに何があるのか風は答えてはくれないけれど、翼はそこが行くべき処であることを知っているかのよう...そう… 風はただ歌うだけ...

明日が今日になることはないのだけれど、明日という彼方からの歌を聴くことができるのは、この今という時だけ...それが海が届けたメッセージ。

在るのはこの今だけ。未来も過去も、この今を通してしか想起することができないのかもしれない。

明日というひかりの彼方は手のとどかない遠いところだけど、それはまた限りなく近い私のなかにあるのかもしれない。風の歌がどこか懐かしい響きを帯びて私に迫ってくるのはそのせいなのだろうか...

呼吸を風に任せていると、身体のなかに花が開いてゆくような感覚を覚える。見えているのは荒野だけだが、私のなかには緑の匂いに満たされてゆくように感じられる。時間が花開いてゆくような感覚のなかで、風は記憶の彼方へと遠のいてゆく… やがて静かに天から花が降りそそいでくる感覚へと変容していることに気付く...

それは無音でありながらも、どこか透明な音に包まれている散華を観ているかのようでもある。風も…時間も…音楽も…香りも… 同じひとつの生命の発露なのかもしれない。

それは私のいのちではなく、私を貫いてゆく、より根源的なエモーションなのではなかろうか...まるで龍が駆け抜けてゆくように私には感じられる。それはまた、私が身を預けている翼が、鳳凰でもあるかのように色彩を帯びてゆく眩しさのなかに私を誘ってゆく...

海が語ったメッセージは、遠くに響く潮騒のようにわたしのなかに木霊している。それは、わたしが其処から来て…其処へと還ってゆくところに響いていた歌だったのかもしれない。

「いたるところにあって、しかも何処にもない、かの故郷の世界の夢…」と語ったノヴァーリスの言葉を思い出しながら私は我に返った...

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