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復活の時


記憶の暗夜をめぐる旅路のはてに現れたのは、身も溶けるほどの神々しさを湛えた光だった...生きて在ることの奇跡のような刹那に打たれた旅人は、すべてを忘れて大地に跪いていた。

闇が払われてゆくような光を前に、旅人は高鳴る鼓動のなかで涙していた...それはある種の歓喜の涙であると同時に畏怖の表われでもあった。
記憶が司る闇夜の帳が破られたように封印された世界が解かれてゆく...

光とともに荘厳な鐘の音を思わせる振動が世界を震わせ、錆びついた帳が砕け散ってゆく...山上の岩に身を横たえた旅人は、溶けゆく意識のなかで虚空から発せられた言葉のようなものを聴いていた...

韻を踏むような抑揚を湛えたその語り口は歌のようでもあり、旅人に静かな呼吸を促していった...

虚空に漂うような言葉のなかで、記憶の呪縛から解放されてゆく感覚に包まれた旅人は、その眠りともつかない意識の彼方に、朝露のように輝く光りの玉を見ていた...

魂の暗夜を巡る旅路の末に、旅人は眠りにも似た意識のなかで辿ってきた谷を振り返っていた...それは言葉によって促された意識でなければ見ることが出来なかったであろう… 記憶の嵐の物語りだったのかもしれない...

漂う言葉はしだいに光りの粒子となって旅人の頭上に降りてくる...ひとしきり小さな弧を描いて、ひかりは彼の眉間に吸い込まれていった...

涼しげな感触とともに、ある種のくすぐったさを感じて旅人は目を覚ました...眠ったのだろうか...夢ともつかぬひかりのなかで、彼の魂は深いやすらぎの世界に生きていたのかもしれない...

身を起こし、昇るひかりに向かって座したとき、旅人は言い知れない思いに震えていた...まるで洞窟に光が差したように意識が拡大し、閉ざされていた空間に風が流れるように感じられ、そこには小さなひかりの玉が浮かんでいた...

それは旅人が辿った記憶の巡礼の足跡のように連なり、彼の旅路の確かな証しでもあるかのように煌めいている...無意識の蒼穹に描かれた星座のようにも見えるそれは、どこか古代の文字を想起させるものでもあった...

旅人は思い出した...それがあの時、虚空に揺らめいていた言葉の姿そのものであったことを...これから辿るであろう旅路への暗示として、彼を導いてゆくものなのだということを...





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