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砕かれた過去

砕かれた仮面


偽りのなかに巣食った時間が衝撃とともに吹き飛んだ...

顔すら持たぬ者が、名を借りて口をひらく...欺瞞のなかで重ねてきた日々が私の姿だった...有りもしない思い出を語り、脱ぎ捨てられた昨日を踏みつけながら明日を待つだけの者に、今日という日が来ることはない...

重い頭のなかで目覚めた意識には、鈍い衝撃の残骸だけが広がっていた...夢を見ていたという回想が、夢だったことに気づいたのは暫く後のことだった。

直視できない過去を叩きつけるのは誰なのか...視えざる時間の糸に括られたマリオネット... この私...

この宇宙が仮想現実の世界なら...その仮想を描いているのは誰なのか...縺れた時間のなかで意識だけが空回りしている私を視ている誰か...

重い衝撃とは裏腹に、妙に軽い呼吸が身体に広がってゆく感覚だけが、かりそめの救いのように思われ、その軽さがよけいに夢の言葉を際立たせていたのだった...

逆流する時間のなかで何かに縋り付こうとする私がいた...手の中からすり抜けてゆく欠片のなかで呆然と立ちすくむ私の後ろで、もう一人の私が言った... 「私はここにいる」と... 私は何を守ってきたのだろうか...偽りの陰で...

さなぎの中で身を溶かし、変身を遂げてゆく虫達のいのちを司るものは何処に在るのか...生命体を貫くその働きに虫たちは、疑うことなくその身を預けている。私はそのことに気付かなかった...私は私自身を信頼してはいなかったのだ...今あるがままに見つめ、砕けた鎧を大地に返そう...

「今日という日が来ることはない...」という夢の中の言葉は、私に投げられた鉄槌だった...私がわたしで在り続けるために、私を壊さなければならなかったのかもしれない...

石とともに振動しているような不思議な感覚のなかで、石は石では無く、私はわたしでもなく、石がわたしで在るような現実を垣間見た刹那に、夢はわたしに語ったのかもしれない...


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