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吟遊詩人

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 ゆきくれて時のあはひになくかぜの色に綾なす絃はふるへて

昼と夜の狭間に絃を掛けながら何処からともなく現れる風の使者...
誰も見たものはなく歌だけが姿を現わす...絃を掛けられた窓にひとはそれを見、今日と明日の契りを結ぶ...

 忘られぬ時の岸辺に待つ人のおもかげ映すあはき月かげ

寄る辺なき旅路のなかでひとは絃に尋ねてみずからの水脈を知るのだろう...混迷のなかにも風は歌をはこび、疲れた頬を撫でてゆく...流れゆくものの声は遠ざかり、時をやすめてこころの絃を張り替えてゆく...

 すがたなき風のにほひにひといろの絃をむすびてけふのゆくへに

昼と夜とがまざりあうとき、光と影がとけ合って...色と音とがとけ合って風と歌とがとけ合って、窓辺に灯る詩となってゆく...音と香りが分かれる前の絃をつまびく言葉とともに詩人は歌を振りまいてゆく...

たびびとの歌のいとねに灯るひの色にかぎろふみおはあしたに

誰も知らない時を歩きながら、刻と時とを絃に絡めて星と星とを繋いでゆく...糸に巻かれて夜は廻り、悲哀の日々にも糸を絡めて色を重ねて街を越え… 丘を越え… 空を越え...

誰も知らない歌の旅人は、やがて暁の空に帰ってゆく...絃に灯した火は旅人からの歌の贈りもの...誰も知らない風のおくりもの...



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